表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/125

39 ヤキモチ

クライスト国に宮殿はない。

街1番の大きな屋敷が城の代わりであり、王の住まいになっている。


その屋敷の一室に通され、上品な革張りのソファに腰を掛けた。

アピオスとカッシアは私の両隣に、ポプルスは1人用の椅子に座っている。

部屋には4人だけで、アピオスとカッシアは骨董品と思われる絵画や置物にキョロキョロしている。


「この部屋が1番お金がかかってそうなんだよ。だから、重要な人物に会う時はこの部屋なんだ」


「土地だけじゃなくて、家具も全て譲ってもらったってこと?」


「そうだよ。街の人たちの家の中にも家具が残ったままだったから助かったよ」


そんな話をしていると、グースとクインスが日焼けした男性と一緒にやってきた。

ポプルスたちよりも少しだけ年若く見える青年は、クインスより明るい紫色の髪と瞳を携えている。

顔立ちはクインスに似ている。


「ようこそお越しくださいました。またお会いしたいと思っていました」


グースが微笑みながら向かい側に腰を下ろし、クインスはグースの後ろに立ち、青年はお茶を用意してくれた。

お茶を淹れ終わりクインスの横に移動する青年を見ていると、ポプルスが不機嫌な声を出した。


「ノワールちゃん。まさかタクサスを気に入ったとか言わないよね?」


「タクサスって、あの子のこと?」


唇を尖らせながら頷くポプルスに対して、グースたち3人は可笑しそうに笑っている。


クインスに似ているから、ランちゃん情報でクインスの弟のタクサスだとは思っていたけど、当たっていたのね。


笑いが収まったクインスに肘で突かれたタクサスが、恭しく頭を下げてきた。


「タクサスと申します。よろしくお願いいたします」


「よろしく」


「よろしくしなくていいよ」


面倒臭い気配がするポプルスを無視して、グースを見た。

まだクスクス笑っていたグースだったが、向けられた視線に気づくと柔らかく微笑んできた。


「やっぱりいい男ね。私の好みはグースよ」


「ダメだよー!」


立ち上がる勢いで抗議してくるポプルスを、今度は一瞥だけしておいた。

タクサスがどうのこうの言われたから好みをはっきり伝えただけで、ポプルスを揶揄うつもりはなかった。

意図せず情けない顔をさせてしまったので、全くの無視だけはしないようにしたのだ。


ポプルスの慌てている姿に、グースたち3人はまた笑っていて、アピオスとカッシアはまだ興味深そうに部屋を眺めている。


「褒めていただき光栄です。ポプルスに勝てるなんて滅多にありませんからね」


「路線が違うだけだと思うけど。それより普通に話してくれていいわよ」


「それはありがたい。どうも堅苦しい言葉は苦手で」


グースは、苦笑いしながら頭を軽く掻いている。

まだアワアワしているポプルスが視界に入るが、会話の腰を折られたくないので放っておくことにした。


「グースに聞きたいことがあって来たの。正直に答えて」


「隠すことは何もないからな。何でも答えるぞ」


「それじゃ遠慮なく。まずは特別な人っているの?」


「ノワールちゃん!? 待って! 待って! 待って!」


話に割って入ってくるポプルスを睨むが、ポプルスは怯えることなく急いで私の後ろに周り、首に抱きついてきた。


「俺のこと捨てないよね? 俺、グースより優しいし料理できるしお酒強いよ。後、ノワールちゃんを愛してる」


「一体、何の話よ」


ため息を吐きながら首に回っている腕を叩くが、ポプルスは頭に顔を押し付けて匂いを嗅いでくる。

グースたち3人は、とうとうお腹を抱えて爆笑しはじめた。


「離れない。絶対にグースに近づけない」


「だから、何を必死に……って、まさか私がグースに乗り換えると思ったわけ?」


「だって、俺を褒めたことないのにグースだけは褒めるじゃん」


「カッコいい人をカッコいいって言ってるだけじゃない。ポプルスだって、色んな子に可愛いって言っているでしょ。それと同じよ」


「え? もしかして、ノワールちゃん……ヤキモチ妬いてくれてたの?」


「待って。妬いたことないから勘違いしないで」


「嬉しい! 俺、もうノワールちゃん以外の子を可愛いって言わないよ。我慢する」


さらに強く首に抱きついて頭に頬擦りしてくるポプルスに、息が盛大に漏れる。


面倒臭い。

でも、ここで言い合いをして騒ぎ立てられても面倒臭い。

どう転んでも気分が重たくなるのなら、ポプルスが大人しくなる方を選ぼう。


「分かったわ。私ももうグースを男前って言わないわ」


「俺のことは『好きだ』『カッコいい』『素敵』、なんでも言ってくれていいからね」


「はいはい」


腕を軽く叩いても、ポプルスは頭に頬擦りしていて離れようとしない。

どうせ離れてほしいと言っても離れないだろう。


グースたちはポプルスの行動を笑っているだけだから、こういうポプルスに慣れているように感じる。

だったら、さっさと目的を果たしたいので、このままグースと話すことにした。


「話を進めてもいい?」


「ああ、どうぞ」


笑いを抑えたグースが頷いてくれ、クインスとタクサスも笑いを消して真面目な顔を作っていた。




ブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ