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38 クライスト国での買い物

「嫌だ! 俺も行く! 行くったら行くの!」


シャホルがやってきた翌日、早速グースに会いに行こうとした。

だが、朝からポプルスが「一緒に行く」と騒いで、腕を掴んで離してくれない。


「授業をサボる気? あなた、先生なのよ」


「そうだけど、でも、ダメったらダメ。ノワールちゃんとグースが会う場面に俺も同席するの」


「えー、めんどくさ」


「ひっど! 俺のこと蔑ろにしすぎだからね」


肩に顔をグリグリと押し付けてくるポプルスに、諦めたように息を吐き出した。


「分かったわよ。次の休みに、アピオスとカッシアも一緒に行きましょう」


「やった! ノワールちゃん、愛してる!」


頬にキスしてくるポプルスの顔を手で押し退け、体からも離した。

困ったように見ていたアピオスとカッシアは、お出かけの言葉に今は顔を輝かせている。

そんな2人を見て、屋台とかで買い物の練習をしてもいいなと考えていた。


そして、実際にクライスト国にやってきた休みの今日。

私だけ魔法で焦茶色の見た目に変え、グースに会いに行く前に街を満喫することにした。


屋台が並ぶ大通りを歩いていると、アピオスとカッシアは物珍しそうに周りを見ている。

2人には、好きなように使っていいと小銀貨を2枚渡している。

でも、何も買おうとしない。


ちなみに、豆銭1枚1円、小銅貨1枚10円、中銅貨1枚100円、大銅貨1枚500円、小銀貨1枚1,000円、中銀貨1枚5,000円、大銀貨1枚10,000円、小金貨1枚50,000円、中金貨1枚100,000円、大金貨1枚500,000円、白金貨1枚1,000,000円くらいになる。


一般家庭の平均収入は、中金貨2枚から3枚ほど。

物価は、私が生きていた世界とそこまで変わらない。

商品はピンからキリまであるので、目利きが必要なのも同じだ。


「何か欲しいものはないの?」


「シーニーが、中にお肉を詰めて揚げたパンが美味しいって教えてくれたんです。それを探しています」


ピロシキみたいなパンがあるのかな?


「プークレーっていうクリームを挟んだお菓子も美味しいって教えてくれたの。わたし、それが食べてみたいの」


シーニーってば、もしかして一緒に来たかったのかも。

今度は一緒に来よう。

シーニーが来る時は、見た目は変えずに堂々と歩けばいいのよ。

多少騒がれても無視すればいいのよ。


ん? でも、シーニーって時々買い出しに出掛けているんだったわ。

怖がられるとしたら、魔女の私だけかもね。


「半分こしようね」と微笑み合っているアピオスとカッシアから視線を外し、改めて周りを見渡した。


「国を興して、どれくらいだっけ?」


「もうすぐ1年かな」


「その割には、元から街があったみたいに建物が建っているのね」


「元々、流行病でみんな死んじゃった街らしいんだ。ここの土地はもう使わないからって、グースがもらったんだよ」


「土地って、そんな簡単にあげられるものなの?」


「国の所有じゃない、個人が開拓した土地なら可能なんだって」


「へー、未開の土地はまだまだあるものね。一攫千金も夢じゃないわね」


「魔物と戦える力があればね。ある意味、魔物対策に立てられた法律なんじゃないかな」


「あ!」と声を上げたカッシアの指す方向には、アピオスが探していた揚げパンの屋台があった。

大人の女性拳1つ分のパンの見た目はカレーパンに似ていて、中身は香草で味付けした角切りのゴロゴロ肉が入っている。値段は中銅貨3枚だった。

2人は2つ購入し、ハフハフしながら1つの熱々のパンを交互に食べている。


「1個ずつ食べないの?」


「1つはシーニーへのプレゼントです」


1人1個食べるために買ったわけではなく、1つはシーニーへのお土産だと笑顔で言い切る2人の優しさに泣いてしまいそうになった。

なんて温かい心の持ち主なんだろうと、胸がいっぱいになる。


柔らかく2人の頭を撫でると、アピオスもカッシアも嬉し恥ずかしそうに口元を緩ませていた。


その後はクレープそっくりの食べ物プークレを購入し、アピオスとカッシアが希望したので文具店に寄り、ポプルスお勧めのジュースを飲んだ。


ポプルスは、私にちょっかいを出してくるようなことはなく、終始幸せそうに街の人たちを眺めていた。

きっと独立するためには、計り知れないほどの苦労があったのだろう。

平和に過ごせている人たちを見るのは、努力した結果であり、ご褒美みたいなものなんだと思う。


そろそろグースがいる街1番の屋敷に向かおうと話していたら、遠くからザワつきが近づいてきた。

首を傾げながら見ていると、クインスが帯剣をしている男性を3名ほど連れて駆けてくる姿が目に入る。


「ポプルス!」


「クインスじゃん! 元気?」


「何が『元気?』だよ。連絡もなしに帰ってくるなんて驚いただろうが」


「ごめんごめん。ちょっとグースに用があったんだけど、久しぶりだから街を散策してたんだよ」


「何かあったのか?」


「何もないよ。グースに会いに来ただけ」


帯剣をしている男性が怖いのか、アピオスとカッシアがローブを掴んできた。

その動きにクインスがハッと体を揺らし、私に向き直して腰を折った。


「ご無沙汰しております。街は楽しかったですか?」


「ええ、楽しかったわ。いきなりで悪いんだけど、グースはいる?」


「はい。ご案内いたします」


クインスを先頭に歩き出し、帯剣している男性たちが私たちの後ろを歩く。

連行されているような雰囲気に、アピオスとカッシアが不安がらないようにとしっかりと手を繋いだ。


「あの人たちは、どうして赤い布をしているの?」


ポプルスやクインス、街の人たちは奴隷紋を隠すために首に黒い布を巻いている。

でも、帯剣している男性3名は首に赤い布を巻いている。


「警邏隊だからだよ。騎士も赤い布だよ。じゃないと、長剣は持てない決まりなんだ。危ないでしょ」


詐称できない特別な赤い布でも使っているのかと観察したかったが、振り返りながら歩くことはできないので知識として覚えておくだけにした。




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