37 魔女の特質
お茶をするメンバーにアピオスとカッシアが加わり、ポプルスはシーニーと一緒に私の斜め後ろに立っている。
シャホルさんが、ポプルスを許可しなかったので仕方ない。
チャラい性格を反省してもらおう。
「美味しい! シーニーと言ったか! 貴様、天才だな!」
音符を飛ばしているかのような上機嫌のシャホルさんに褒められて、シーニーは真っ赤になった顔を両手で隠して俯いた。
「これは、この森の果物だろう? 本当に素晴らしい森だ」
「よくこの森の果物だと分かりましたね?」
単純に気になって尋ねただけなのに、ルーフスがバツが悪そうに体を震わせた。
シャホルさんは、陽気にケーキを食べ続けている。
「ああ、それはな、この森の恵みをもらっていたからだ」
「え?」
「シャ、シャホル様! きちんとお詫びとお願いを!」
慌て出したルーフスに、シャホルさんは思い出したように「そうだった」と呟いた。
「実は、眷属のリスにこの森に侵入してもらっていたんだ。他の魔女の森にも侵入させているんだが、ここよりも美味しい果物を実らせる森はなくてだな。私も重宝していた。なのに、突然森から追い出され入れなくなったと、リスから連絡があったんだ。
きっとノワールにバレたんだろうと、不可侵を破ったんだから謝るべきだとルーフスが言うのでな。果物は欲しいし、ここまで来てやったんだ」
ええっと、私の結界は抜け道がたくさんあったってことよね?
まぁ、私や屋敷が目的な奴らを追い出す用の結界だったからね。
果物目当ての魔物が入ったからって排除しようとはならないものね。
可愛い目的じゃない、美味しい果物だなんて。
って、そう思わなきゃ流石に傷つくわ。
ガビーンだよ、ガッビーン。
「そう落ち込まんでも、この森の結界が1番優秀だったぞ。私の暴食の能力で一部食べて穴を開けたくらいだからな」
「納得しました。よくないけどよかったです」
「貴様はムカつくくらい優秀だ。現に新しくされた結界は、暴食でも食べられなかったからな」
「ありがとうございます」
シャホルさんが新しいケーキのホールを食べはじめたので、シーニーが空いたスペースにデザートを追加している。
「もしかして、お願いというのは果物が欲しいというものですか?」
「そうだ。今まで通りリスたちを入れてほしい」
特に問題はないと思うんだよね。
私は知らなかっただけで、きっとパランやランちゃんはリスが果物を摘んでいるって知ってたと思うし。
報告されなかったってことは、ほどほどの採取だと思うのよ。
「2つ条件があります」
「多くないか?」
「1回だけの取引なら条件は無しでいいですよ」
「仕方ないか」
諦めたように吐き出すシャホルさんに、にっこりと笑みを向けた。
「1つは、私や私の眷属、そして森に危害を加えないこと」
「するわけないだろう」
「もう1つは、他の魔女の情報をください。魔女の森に入っているなら情報持っていますよね?」
シャホルさんは、ケーキを口に含んだ時に咥えたフォークを唇で挟んだまま、斜め上を見やった。
そして、鼻から小さく息を吐き出し、口から外したフォークを軽く振った。
「何でもかんでも教えることはできんぞ。聞きたいのは、どうして攻撃されたかか?」
「はい、そうです」
「それならば、私に分かることはない。攻撃されたことを、さっき知ったんだからな」
嘘は言ってないように見える。
もし攻撃されたことを知っていたら、結界が強化されたのは自分のせいだと思わずに、もっと違う方法で接触してきていただろうから。
シャホルさんから視線を逸らさずにいると、シャホルさんは面白くなさそうに口を開いた。
「ノワールよ。貴様、魔女の特質は何だと思う?」
「それぞれが特有の魔法を使えることですか?」
「そんなわけないだろう。執着心だ。全ての生き物に置いて、魔女ほど執着心がある生き物はおらん。貴様が知識を欲するように、私は食事を欲している。欲するだけで満たされることはない乾いてばかりの欲だ。それ故に馬鹿らしいほどの執着心が生まれる」
小さく相槌を打つ間に、シャホルさんはケーキを数口食べた。
「私は、今回わざわざ攻撃をしたのは、その執着心からではないかと推測する」
「執着心……私の何に……」
「新しくできたクライスト国、王はグースと言ったな」
体を揺らしたポプルスを、シャホルさんは興味なさ気に一瞥だけした。
「え? 私とグースは1回しか会ったことないですよ」
「貴様、あの国に結界を張っただろう」
「張りましたって、それが原因ですか?」
「それが原因かまでは分からんが、関係はあると見ている。1度、深く話してみろ」
「ってことは、グースが関係しているんですね?」
「知らん。ここに来る前に覗いて、あの者が気になったというだけだ」
「だから、何かあると思ったんですか?」
「そうだ。ノワールに関係なくとも、何か出てくるやもしれんぞ」
意味あり気に鼻で笑ったくせに、その後突っ込んで聞いても「知らんと言ってるだろ」と食べるだけ食べてシャホルさんたちは帰って行った。
シャホルさんは、これから毎月アピオスに会いに来るそうだ。
その時は1泊するから美味しいものをたくさん用意しておくようにと、シーニーに命令をしていた。
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「シャホル様。ノワール様にお伝えしなくてよろしかったのですか?」
「かまわん。どうせ接触するだろうからな。そんなことよりも、私はノワールの匂いが変わったことが気になる」
「私も気になりました。50年前は、あんな甘い匂いを漂わせていませんでした」
「何をやらかしたんだか。本当に末っ子は甘えたな上にバカで困る」
「仕方ありませんよ。あの方に唯一大切に育てられたのですから」
「それもそうだな。だから、どん底に落ちたくせに、また同じ過ちを繰り返そうとするんだろう」
「ある意味、復讐なのかもしれませんよ」
「復讐か。愉快だな」
ルーフスの体を撫でながら、シャホルは薄く笑った。
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