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32 杖

陽が沈む前にどうにか屋敷に戻ることができ、汚れや疲れを取るためにお風呂に入った。

ポプルスが一緒に入りたがったが、適当にあしらい、1人の時間を手に入れることができた。


アピオスとカッシアは杖作りをしたそうにしていたが、「今から作るとなると時間が足りないから」と説明をすると大人しく頷いてくれた。

我が儘を言われても困るが、少しいい子すぎる気もする。


「魔法の授業が加わるから、勉強のルーティーンを組み換えないとなぁ」と、湯船に浸かりながら窓の外を眺めているとブラウが帰ってきた。

浴槽の縁に留まり、可愛い瞳で見上げてくる。


「ノワール様ぁ、クインスからの手紙はポプルスに渡しましたわぁ」


「いつもありがとうね。クインスは何か言ってた?」


「悲しそうにしていましたけど、何も言いませんでしたわぁ」


「そっか」


クインスがオレアさんをどう思っていたのかは分からないけど、一緒に過ごした時間がある以上、悲しいし寂しいよね。


湯船の湯で水浴びをしはじめたブラウの頭を指で撫で、窓の外に視線を移した。

赤でもなく黒でもない紫のような濃紺のような空の境目がとても綺麗で、目を離せなかった。


夕食時に授業スケジュールを話し合い、今まで通り3日ポプルスの授業を受け、1日ノワールの授業をし、1日休むというルーティンに変更した。

アピオスとカッシアは休日は無くてもいいというようなことを言っていたが、そこは譲らなかった。


ポプルスの話を聞く限り、私の考え方はどうも一般的ではないらしい。

だとしても、大人にとってもだが、子供にとっても自由時間があるのとないのとではストレスが異なってくる。

私が頑なだったからか不思議そうにされたが、今回も休日を挟むことを勝ち取ったのだった。


そして、本来は休日にあたる今日、枝を抱えたアピオスたちに「杖を作りたいです」とお願いをされ、朝食後庭に移動した。


テーブルの上には赤い魔石と、水が入った1人用の鍋(裏底にはノワール独自の魔法陣有り)、ナイフが置いてある。

全てシーニーが用意してくれた道具になり、3個等間隔に設置されている。


「まずは、細く枝分かれしている枝を切って、綺麗な1本にするの。切った枝や葉は鍋の中に入れてね。シーニーはカッシアを手伝ってあげて。私はアピオスを見守るわ」


「えー、ノワールちゃん。俺はー?」


「1人でできるでしょ。まぁでも、そうね。ブラウ、応援してあげて」


「分かりましたわぁ」


和やかに会話をし、胸を弾ませながら作業をしている3人を見ているだけで楽しくなってくる。


「うん、いい感じね。終わったら、髪の毛を1本抜いて鍋の中に入れて」


3人の作業を確認しながら、説明を続ける。


「魔力を調べた時みたいに血を数滴垂らして。シーニー、魔石をお願い」


シーニーが魔力を流して発動させた魔石を、順番に血が混ざった鍋に入れていく。


「火の魔石だから鍋や水が熱くなるわ。いいって言うまで火傷しないよう気をつけてかき混ぜて」


アピオスとカッシアは顔を輝かせながら枝でかき混ぜているが、ポプルスは首を傾げながら私を見てきた。


「俺、ナイフで削るんだと思ってたんだけど、全然違うんだね」


「削るだけなら木は木のままよ。鍋に入っている水は、シーニーが魔法で出した水なの」


シーニーが照れたように頬を掻いている。


「使用者の魔力を枝に馴染ませるためには、魔法で作り出した水が必要になるの。枝にたっぷり吸わせるためにね」


「へー、じゃあ、魔法使いが持っている杖は、先輩の魔法使いがいないと作れないんだね」


「そんなことないわよ。これは私のオリジナルの作り方だから。血を付着させれば何でも媒体にできるもの。まぁ、これは魔女以外知らないと思うわ」


「そんなこと俺らに言っていいの?」


「いいわよ。どんなに優れた魔法使いだろうと、魔女には勝てないわ。魔女と同等の魔力を持っているのなら、それはもう人ではないからね」


「うーん……だとしても秘密にしておくよ」


ポプルスが、アピオスとカッシアに向かって「秘密な」とウインクしている。

2人は「言わない」と力強く頷いていた。


「あれ? 今いるだろう魔法使いたちは杖を使ってないの? 魔法を使うのに媒体がいるんだよね?」


「魔道具の杖を使っているそうよ。魔石を嵌め込んで使うんですって」


昨日のお風呂の時間に、ブラウが教えてくれたのよね。

魔力があれば誰でも使える杖らしいけど、自身の魔力を馴染ませていないせいで、本来の力を出せないようになっているみたいなのよね。


魔道具が得意なアスワドさんの作品だとは思うけど、何を思ってそんな杖を作ったんだろう?

昔からなのかな?

興味がなさすぎて記憶にないのよね。


「だから、もしみんなが人前で魔法を使ったら何か言われるかもしれないわ。その時は、私の名前を出していいからね。そうすれば納得するわ」


「だったら、杖は作ったんじゃなくてノワールちゃんからもらったことにするよ」


アピオスとカッシアは、「分かった。そうする」と笑顔で応えている。


ノワールの魔法陣がなければ作れないのだが、作り方を知っているだけでも狙われるかもしれない。

3人が狙われないためにはそっちの方がいいかと、小さく頷いた。


「そろそろ1度枝を上げて」


「ノワール様、私がしますね」


「ありがとう。任せるわ」


シーニーが、水分を含んだ3人の枝を魔法で乾燥させる。

軽くて硬くなる枝に、3人は「おお」と驚嘆の声を上げた。


「これを鍋の水が無くなるまで繰り返すわよ」


「「はい」」


5回繰り返したくらいで、3人とも鍋の水は無くなった。

忘れずに魔石から魔力を抜き、発動を止める。


「これで、完成?」


「まだよ。最後に血で名前を書いて終了よ。それで、その血の持ち主以外使えなくなるわ」


「シーニーの協力があってこそだけど、そういう風に聞くと俺らの血や髪って重要なんだね」


「魔力を含んでいるからね。薬にもなれば毒にでもなるわ」


「薬になるの?」


「言葉の綾よ」


3人が名前を杖に記入すると、名前は杖に吸い込まれていった。

またもや驚きの声を上げながら顔を輝かせている。


アピオスとカッシアは、今日から抱きしめて眠るそうだ。

何度も私とシーニーにお礼を言い、お茶やご飯の時も手から離さなかった。




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