31 魔女の森の木
杖を作るための枝を探しはじめたが、3人ともピンとこないようで、ただの散歩みたいになっている。
「全部一緒にしか見えない」
「ノワール様。お気に入りって、どう見つければいいんですか?」
「適当でいいのよ。色がよかったとか、大きくてカッコいいとか、細いけどしっかりしてそうとか。少しでも気になるところがあればいいの」
「じゃあ、わたし、青い実がなる木がいい!」
「青い実ねぇ」
「青いお花でもいいの! お姉ちゃんと一緒!」
カッシアのその言葉に、ポプルスは1回手を叩き、アピオスは顔を輝かせながら頷いている。
「カッシア、天才。俺も同じ木の枝にする」
「僕も!」
私の魔力の色、か。
嬉しいこと言ってくれるんだから。
照れたように笑っているカッシアの頭を撫でると、嬉しそうに抱きつかれた。
「じゃあ、パランに案内してもらいましょ。森の中に詳しいからね」
軽くパランの名前を呼ぶと、パランはすぐに駆けつけてくれた。
「ごめんね。見回りで大変なのに」
「大丈夫ッス! ランが協力してくれてるッス!」
さすが、何匹いるか私でも分からない蜘蛛の一族。
本当に私の眷属たちって無敵なんじゃないかって思う。
パランに説明をすると、「年に2回青い花を咲かせる木があるッス! 青い実の木もあるッスヨ! どっちがいいッスカ?」とお尻をフリフリしながら聞いてきた。
何が嬉しいのか、楽しそうな雰囲気だ。
「わたし、青い実がいい!」
「僕も!」
「うーん、俺は青い花の方が気になるかなぁ」
大人と子供の差なのか、3人それぞれの答えが返ってきた。
パランに場所を確認すると、2種類はそんなに離れていないと教えてくれたので、両方見に行くことにした。
まずは、ここから近いという青い実がなる木を目指して歩いていると、ほのかに甘い匂いが漂ってきた。
「青い実の匂いッスヨ! ブラウの好物ッス!」
より楽しみになった木に到着すると、私をはじめ、みんなも感嘆の声を上げた。
周りに生えている木よりも何倍も太い幹は、御神木と言われてもおかしくないほど、堂々とした佇まいをしている。
大きく広がった枝のおかげで木の下は日陰になっていて、青々と繁った葉の間に小さな青い実をたくさん実らせている。
だが、地面に1粒も落ちていない。落葉や小枝等も見当たらない。
なんとも不思議である。
「地面に何も落ちないものなの?」
「この木は特別ッス! 1年中実がなっていて、いつも元気ッス!」
神秘的すぎる木だわ。
この木の枝だと杖にしても丈夫そうね。
振り回したりする2人じゃないだろうけど、子供は予測不可能らしいから。
アピオスやカッシアにぴったりの木だわ。
「2人とも、木にお願いをして枝をもらいましょう」
「「はい」」
元気よく返事をしたアピオスとカッシアは、幹の前で両手を合わせ「枝をいただきます。大切にします。ごめんなさい。ありがとうございます」と呟いた。
すると、2人それぞれの頭の上に枝が落ちてきた。
驚きで目を見開かせたが、パランだけは踊るように2人の周りを走っている。
魔女の森の木って生きているの?
いや、植物も生きているんだけど、そういう命の生きるじゃなくて、意思がある生き物っていう意味で……
と、そんなことを考えているうちに、アピオスとカッシアは驚愕しながらも枝を拾い上げ「大切にします! ありがとうございます!」と木に頭を下げていた。
その声に我に返ると、嬉しそうに微笑み合った2人と目が会い、駆け寄ってきた2人の頭を撫でた。
ポプルスとパランも一緒に、みんなで喜んだのだった。
次の目的地、青い花が咲くという木に向かう道中も、アピオスとカッシアは枝を大切そうに抱きしめている。
その姿が可愛らしくて朗らかな心地になっていると、ポプルスが話しかけてきた。
「ねぇ、ノワールちゃん。魔女の森って素敵だね」
「そうね」
「他にも何かあったりするの?」
「それが、私、研究で引き篭もってばっかりだったから知らないのよね。だから、もっと森を散策しようと思ったわ。自然の神秘ほど素晴らしいものはないもの」
「いいね。ぜひお供させてね。いっぱい森デートしよう」
期待いっぱいの顔で抱き寄せようと腕を伸ばしてきたので、その腕を軽く叩いた。
途端に悲しそうに目尻を下げられるが、無視をする。
「ノワールちゃんは恥ずかしがり屋さんだもんね。いいよ、俺が我慢するよ」
「はいはい」
あいもかわらず、軽口を言い合いながら目的地に到着いた。
先ほど太い木を見たせいか、青い花が咲くという木はひょろっとしているように見えた。
それでも、前世で見ていた並木道の木よりも太い。
「こことあそことあっちの木が、青い花の木ッス!」
「3本あるのね」
「そうッス! もう少し行くと、まだあるッスヨ!」
「今は咲いてないのか。見たかったのに残念」
「先生、あっちの木咲いてますよ」
アピオスが指している先にあった木だけが、確かに1つだけ青い花を咲かせている。
その木の下に移動し、咲いている花を見上げた。
花の形も大きさも桜みたい。
ポツンと咲いているのも可愛いけど、満開になったら綺麗なんだろうな。
「珍しいッス!」
「めっちゃラッキーってことだよね。嬉しいな」
顔を綻ばせたポプルスが、アピオスたちがしたように木に向かって手を合わせ「枝をください」と呟いた。
すると、花を咲かせていた枝が、ふわっと浮きながらゆっくりとポプルスの前に降りてきた。
ポプルスは両手で枝を受け取り、祈るように枝に額を当てながら、木にお礼を伝えていた。
やっぱり魔女の森自体生きているんだわ。
荒らすようなことはしたことないけど、きちんと大切にしよう。
きっと森も眷属たちと同じで、魔女の家族だと思うから。
お互いの枝を見せて喜び合っている3人を眺めていると、自然と頬が緩んだ。
もう少しだけ魔法関連が続き、来週後半には新キャラが出てくる予定です。
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