27 気付けたこと
「抱いていい?」
「は?」
ふわふわした心地を、一気にぺしゃんこにされたような気持ちになった。
私のそんな気分とは裏腹に、ニコニコという効果音がついてもおかしくないほど、淡く頬を染またポプルスの顔は溶けている。
「無理ならキスは?」
「それも無理」
「だったら、抱きしめさせて! ノワールちゃんの体に顔を埋めたい!」
「いや、無理だから」
「可愛い顔したノワールちゃんが悪いのにー」
「はいはい」
うつ伏せで項垂れるポプルスの頭を、なぐさめるように撫でる。
小さなテーブルなので、手を伸ばせば簡単に触れるのだ。
顔を横に向けたポプルスの頬が膨らんでいて、小さく笑ってしまった。
「嘘でも慰めでもなく、ノワールちゃんは本当に感情豊かだよ。アピオスやカッシアに向ける瞳は優しいし、すぐに笑うし、俺に対してだけ呆れたりもするし。大好きな可愛い女の子だよ」
「そっか。ありがと。なんか自信ついた」
ポプルスの耳に髪をかけるように手を動かすと、ポプルスの口元が薄く弧を描いた。
「気持ちいい。好きな人に触れてもらえるって幸せだよねぇ」
「はいはい」
手触りがいいポプルスの髪の毛で遊んでいると、その手をポプルスに緩く掴まれた。
ゆっくりと体を起こしたポプルスが、手にキスを落としてくる。
「そろそろ寝よっか」
「いやいや、1番重要な話してないから」
「え? そうなの?」
「そうなの。だから、手を離して」
「えー、今の流れで一緒に眠れると思ったのにー」
ブーブー言いながらも手を離してくれる。
きっとポプルスも会話を楽しんでいるだけなんだろう。
だから、すぐに離れるし、真剣に口説いてこようとしない。
「で、本当は何の話をしに来たの?」
「今日死んだって人、オレアさんなの」
「オレアなの?」
「そう、目の前で爆発したわ」
「え!? ノアールちゃん、怪我してない!?」
焦ったように身を乗り出され、目の前まで顔が迫ってきた。
瞳を瞬かせると、綺麗に微笑んだポプルスが目尻にキスを落として遠ざかっていく。
「油断も隙もないんだから」
「可愛いキスくらいいいでしょ。俺、めちゃくちゃ我慢してんだよ」
「はいはい」
少し話が長くなるかもと思い、ポプルスの空になっているコップにお酒を注ぐと注ぎ返される。
「あれ? オレア、もしかして森の中に入ってきたの?」
「そうなの。オレアさんが死んだことと、そのことを話したかったの。オレアさんに力を貸したのは魔女だから」
「え? ノワールちゃんの仲間?」
「種族が一緒なだけで仲間じゃないよ。知り合いっていうのが1番しっくりくるかな」
「でも、同じ魔女が協力してたとなると、嫌な気持ちだったんじゃないの?」
「嫌な気持ちっていうより、どうしてっていう疑問が強いかな。それに、悲しいよりもムカつく方が強いしね」
「裏切られた感はやっぱりあるんだね」
「違う違う。私の魔力に反応して爆発しちゃったの。だから、私が殺してしまったようなものでしょ。大切に守ってきた境界線を無理矢理越えさせられたの。ムカつくじゃない」
ノワールがずっと殺してこなかったのに、私の不注意でノワールを人殺しにさせちゃったんだよね。
たぶんこのせいもあって、信じられないくらい気持ちが落ちてたんだと思うの。
てか、ノワールならあの時どうしたんだろう?
面倒臭いと思いながら、私と同じように運ぼうとしたのかな?
うん、してそうだな。
研究以外の全てを面倒臭いの一言で済ますようなノワールだけど、優しい面があったのも事実だもんね。
魂が混じ合えるほど私とノワールは根本的なものが同じなんだから、あの場に私とノワールが2人いたとしても一緒の結果だったはず。
そっか。
もうこれからは、私がとかノワールがとかの区別をするのはやめよう。
そもそもそんな考え方をするから、変な深みにハマった弱々な気持ちになっちゃったんだよ。
私はノワール! ノワールは私!
嬉しいことも悲しいことも楽しいことも何もかも、2人分だから強く感じる。
ポプルスのおかげで、殺してしまった以外の気持ちは立ち直れた。
それに、この後悔は消したり乗り越えたりしてはいけないもの。
不注意だとしても私が犯してしまったことだから、ずっと抱えて生きていかなきゃいけないもの。
考え事から意識が戻ってきた時、唇に柔らかいものが触れた。
至近距離にあるポプルスの瞳と視線が絡まる。
「何するのよ」
「百面相している顔が可愛くて我慢できなかったの」
また触れた唇が、今度は可愛い音を鳴らした。
「待てができない狼ね」
「近づいても注意しなかったノワールちゃんのせいだね」
再び触れてくる唇を受け入れると、深い口付けに変わった。
離れようとしない優しい温もりに包まれ、ポプルスの首に腕を回すと、待ってましたと言わんばかりにすぐに抱きかかえられた。
ベッドに運ばれる間も、ベッドに下ろされてからも、唇は離れていかない。
いいのかなぁ、これ。
人肌恋しいわけでもなく、慰めてほしいわけでもなかったんだけどなぁ。
キスに嫌悪感が湧かないから、最後までできるけど……
ってか、キスが上手すぎて骨抜きにされたと言っても過言ではない。
本当に上手すぎる。だから、拒否する理由はない。
「ノワールちゃん、俺に集中してよ。じゃないと、俺暴走しちゃうよ」
「じゃあ、何も考えられないくらい気持ちよくさせてよ」
口角を上げて妖しく笑ったポプルスの顔が近づいてくる。
心は嫌がってないから、いっか。
もう全部、明日の朝考えよう。
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