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24 光る花

それは、朝食時のポプルスの一言から始まった。


「ねぇ、ノワールちゃん。パランに光る花があるって教えてもらったんだけど、ここに来るまでの道では見つけられなかったんだよね。それで、見られるなら見たいって思ってるんだけど、森に入ることってできるかな?」


光る花?

ノワールの記憶にはないけど、パランが言うんだからあるんだろうな。


「入れるのは入れるけど、1人だと魔物に襲われるんじゃないかな」


「え? やっぱりいるの? 全く会わないからいないのかと思ってた」


「いるわよ。この森にいる魔物は比較的穏やかだし、本能的に自分より強いモノを避ける傾向があるから、私やシーニーたちには近づかないだけよ」


「そうなの? じゃあ、人が集団でいても襲ってくるのは、人間は弱いって分かっているからってこと?」


「それもあるけど、気性が荒い魔物の視界に入ったとか、匂いを嗅ぎ取られたとか、たぶんそんな不運だと思うわよ。大半の魔物は荒くれモノだからね」


「不運なのかー。『運がなかった』ってよく言われるけど、あの言葉嫌いなんだよね」


悲しそうに微笑むポプルスに、どう声をかけても間違いのような気がした。


多かれ少なかれ魔物の被害にあったことがある人がいるのだから、ポプルスも過去にやりきれない何かがあったんだろう。

それを不運で片付けることは難しいんだと思う。


私だって病気になって死んだのは不運だとか運命だとかの言葉で表されるのは、喉に魚の骨が引っかかっているような気分になる。

できれば、「精一杯楽しく生きていた」と言ってほしい。


死ぬ前を思い出し、自分が言った言葉で自爆するなんて馬鹿みたいと、苦笑いが出そうになった。


「仕方がないから連れて行ってあげる。もちろんアピオスとカッシアも一緒にね」


「え?」


「光る花。見たいんでしょ」


「うっれしー! もう本当にノワールちゃん大好き!」


「はいはい」


隣に座っているアピオスとカッシアからも、嬉しさを詰め込んだような顔で見られた。

さっきからソワソワしていたから、きっと「見たい」と言っていいのかどうか悩んでいたんだろう。

行けると決まった今、「どんな花かな」と楽しそうに話している。


ノワールも知らないことだったのでシーニーに尋ねると、1時間ほど歩いたところに咲いているそうで、夜にならないと光らないとのこと。

「行かれるのなら、夕食はそこで召し上がられますか?」と提案してくれ、満場一致で可決したのだった。


そして夕方になり、シーニーとパランに道案内をお願いして、光る花に向かって出発した。

途中2回ほど休憩を挟み、光る花が咲いているという場所に到着した。

「大丈夫、歩く」と頑張ったカッシアは「やったー」とすぐに腰を落としていて、アピオスも疲れたようにカッシアの隣に座っている。

そんな2人を横目に、シーニーは手早く夕食の準備を始めていた。


「これが光る花よね? 大きすぎない?」


勝手に花畑をイメージして「らんらーらららんらんらん」て歌えるかもって思ってたけど、全然無理だわ。

いや、歌うのは別にいいんだけど、「違う」ってツッコミをもらえないから悲しくなる。できない。


「俺、木に咲く小さな花が光るんだと思ってた」


「そうなの?」


「うん。パランが『森に迷わないための道標ッスヨ』って言ってたから」


ポプルスが自分の背丈ほどある茎に咲く、まん丸な大きな花をつついた。

花が重たいのか頭を下げている状態なので、真っ直ぐ伸びていたら余裕で高身長のポプルスを超えているだろう。

イメージとしては巨大な鈴蘭の花なのだが、何個も花がついているのではなく1個だけだ。

その花が、道案内をするかのように等間隔に咲いている。


私も光る花に興味あるんだけど、それよりも笑いを堪えられない。


我慢できなくて声を上げて笑うと、ポプルスだけではなく、みんな私を見て固まった。


「パランのモノマネがそっくりすぎて最高に面白い。そんな子供みたいな声出るのね。あー、お腹痛い」


「『出るッスヨ!ボスー、大好きッス!』」


にんまりと笑ったポプルスが、得意気にまたパランのモノマネをしてくる。


「ポプルス、すごいッス! そっくりッス!」


「『似てるッスカ! 嬉しいッス!』」


「似てるッス! すごいッス!」


ダメだ。面白すぎて笑いが止まらない。

パランは純粋に喜んでいるだけだけど、ポプルスは私を笑わせるためにわざとやっているって分かってるのに収まらない。


私の笑いが伝染したのか気づいたらアピオスとカッシアも笑っていて、微笑んでいるシーニーの瞳にはなぜか大量の涙が溜まっていた。

しつこくモノマネをしてくるポプルスを叩いて黙らせると、軽く「ごめんごめん」と謝られた。


着いた時は端っこだけが赤かった空も笑っていた間に濃紺に埋め尽くされていて、光る花は優しい光を放ちはじめている。


「きれい……」


無意識に呟いたカッシアの声に誰もが頷き、光る花の下で賑やかな夕食の時間を過ごしたのだった。




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