23 果物狩り
授業が休みの朝食時に、アピオスとカッシアに提案をしてみた。
「今日、森に果物を採りに行こうと思っているんだけど、2人はどうする?」
「行きたいです!」
「わたしも行きたい!」
「じゃあ、一緒に行こっか」
満面の笑みで頷くアピオスとカッシアが可愛くて、頬が緩む。
自然と笑顔になっているのだが、ジトーっと見てくる視線が突き刺さってきて、心の底から和めないでいる。
「なに?」
「俺も誘ってよー」
「休日だから本を読むんじゃないの?」
「本は今日じゃなくても読めるけど、ノワールちゃんたちとの果物採取は今日じゃないとできないんだよ。そんなの一緒にいられる方を選ぶよ」
小さな子供のように頬を膨らませて、握りしめた拳を空中で上下に振っている。
「イヤイヤ期か!」とツッコみたくなったが、「この世界、イヤイヤ期という単語はあるのかな?」と頭をよぎったせいで、会話のキャッチボールを疎かにしてしまった。
その隙にポプルスは、行動を次に移している。
「ううっ……俺のこと嫌いなんだ……俺はもっと仲良くなりたいと思っているのに……」
泣き真似をし出したポプルスを、「こいつ」と冷めた表情で見てしまう。
そんな私たちを、アピオスとカッシアが交互に見て、困ったように狼狽えはじめた。
「お姉ちゃん、先生も一緒。ダメ?」
「僕からもお願いします」
えー、これじゃ私が悪者みたいじゃない。
はじめから断りつもりなかったのに。
ポプルスめ。両手で顔を隠しているけど、その下で笑ってるでしょ。
絶対勝ち誇った顔してそうだわ。
「そうね、荷物持ちとして来てもらおっか」
「やったー! アピオスもカッシアもありがとう。一緒に楽しもうね」
3人で「やったー」と万歳をしている楽しそうな姿に、何でもいいかと小さく笑った。
果物は今日のおやつの材料にしてもらうため、午前中に採りに行くことにした。
パランに道案内をお願いし、4人それぞれカゴを持って森の中に入る。
「ねぇ、ノワールちゃん。魔女の森は、どこもこんな雰囲気なの?」
「こんな雰囲気?」
「神秘的な世界というか、神聖な空気というか。精霊や妖精が遊んでいてもおかしくない雰囲気なんだよね」
「うーん、そうねぇ、私は他の森に行ったことがないから真相はどうか知らないけど、おどろおどろしい雰囲気の森はないと思うわ」
「魔女同士で交流はないの?」
「50年に1度あるよ」
「……ノワールちゃんって何歳?」
「390歳」
「「え?」」
声を上げたのはポプルスではなく、アピオスとカッシアだった。
ポプルスは「だから、俺の魅力が通じない? ここはとことん甘え上手な男に……いやでも男らしく包容力を見せたいし……」などとブツブツ呟いている。
「お姉ちゃん、すごーい!」
「魔女って長生きなんですね」
「そうよ。ちょっと寿命が特殊なの。どう特殊かは言えない決まりだから聞かないでね」
頷いてくれる2人の頭を撫でていると、ポプルスが引っ付いてきた。
「姉さん女房って響きいいよね。俺、ノワールちゃんなら尻に敷かれていいよ」
「私は対等に過ごせる人が理想なの」
「本当に? 俺も理想はそうだよ。相思相愛だね」
「はいはい」
ポプルスを軽く押すだけで、ポプルスは簡単に離れていく。
だからこそ嫌悪感なんて湧かずに、戯れているような感覚で無駄口を叩き合えるから楽しいのかもしれない。
「ボス、もうすぐッスヨ!」
駆け足になるパランを追いかけ、「ここッス」と跳ねるパランの向こう側に、ピンク色のまん丸な果実が低木にたくさん実っている。
実の大きさは、カッシアの拳くらいだ。
「初めて見る果物だよ」
「お姉ちゃん、これ、いい匂いする」
「美味しそうです」
3人の言葉を聞きながら実を1つもぎ取り、ナイフで1周切り目を入れて、片方だけ皮を引っ張った。
つるんと剥けて薄ピンク色の果実が顔を出し、瑞々しさで光っているように見える。
「うん、丁度いい時期ね」
その実をカッシアに手渡し、同じようにもう1つ剥いてアピオスにあげた。
「甘くて美味しいよ。食べてみて」
2人は大きく頷き、実にかぶりついた。
じゅるっという汁の音は、美味しさが増す効果音のように感じる。
「「おいしい!」」
そうだろ、そうだろ。
ノワールの記憶でしか味を知らないけど、ノワールが小さい時はここまで採りに来て食べていたみたいなのよね。
みかん狩りとか、いちご狩りとか、ぶどう狩りって楽しいからさ。
それがノワールお墨付きの美味しさとなると、やりたいってなっちゃったのよ。
パランには皮付きのまま目の前の地面に置いてあげると、すぐに食べはじめて瞳を糸のように細くしている。
「ねぇ、俺にはー?」
「自分で剥いて食べたらいいじゃない」
「ノワールちゃんの手から食べたかったのに」
「はいはい」
剥きはしないけど、1つ手に取ってポプルスに渡した。
ブーブー言っていたのが嘘のように、自分で剥いて食べている。
そして、想像以上の美味しさだったのか、顔を輝かせながら食べかけの果物を掲げた。
「美味しい!」
「ポプルス、お酒は飲める?」
「飲めるし強いよ。って、まさかこの果物のお酒があるの?」
「それはない。けど、蒸留酒に漬けると、さらに美味しくなるのよ」
「最高にいいね」
「お酒飲む時は付き合ってね」
「もちろん」
ニヤニヤ笑いながら顔を合わせ、頷き合う。
ポプルスたち3人の手を水魔法で綺麗にし風魔法で乾燥させると、3人は「おお」っと感嘆に近い歓声を上げた。
私は私の感覚に引っ張られているだけだが、私だけではなくシーニーも日常であまり魔法を使わない。
だから、滅多にお目にかかれないのだ。
手が綺麗になった3人と一緒に摘んだ実は、デザートやジュース、ジャムや果物ソース、蒸留酒漬けになり、あっという間になくなった。
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