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19 クインスたちの飲み会

往復10日近くの旅を終え、自分たちが強引に王の座に据えたグースと再会した。

ローテーブルには安い酒が置かれ、ナッツ類のおつまみが申し訳ない程度にある。


精神的に疲れていて、お酒を飲む気になれない。

隣に座っているポプルスは、疲れているからというより単に機嫌が悪そうだ。


「お疲れさん。数日前に魔女殿が結界を張りに来てくれてな。成功したんだと分かって安心したよ」


朗らかに笑うグースは、美丈夫で低い声が耳に心地いい。

するっと人の心の中に入っては、安らぎを与えるような雰囲気を持っている。


だからこそ、初めに決起した俺とポプルスとグース、そして弟のタクサスの4人で話し合って、グースを王にって決めたんだ。


「まさか、あんなに可愛い少女が魔女だとはな。空から降りてこなきゃ信じられんかった」


「話したのか?」


俺の問いに満足そうに頷きながら、グースは酒を口に運んでいる。


「国の境目を聞かれた。『どこからどこまで張ればいい?』ってな」


そうか。

相当怒っていたように見えたが、宣言した通りきちんと張りに来てくれたんだな。

俺たちの目では結界は見えないから、誤魔化される可能性も考えていた。

約束を守ってくれる魔女でよかった。


「それと、嬉しいことに『あなた、いい男ね』って言ってくれたよ」


「ずるー! 俺なんて見惚れてもらえなかったのに!」


「ポプルスがか? なるほど。魔女の目は確かってことだな」


愉しそうに笑っているグースに、拗ねたように眉間に皺を寄せるポプルス。

こいつらといると、本当に和むな。

エッショルチア国に書状を持って行っているタクサスも交えて、4人で馬鹿騒ぎしたいものだ。


まぁそれも早くて、ポプルスが家庭教師を終えて帰ってくる3年後になるんだろうな。


「で、結界を張ってもらう謝礼は、どうなった?」


途端に真剣な面持ちになったグースに、ポプルスが3年間家庭教師をすることを説明した。

教える相手は、奴隷だった子供たちだと言い添えておく。


「概ね温厚な魔女だった。こっちが何度失態しても許してくれた。ただ……」


「ただ?」


「子供たちを確認しときたくて、顔合わせを願ったんだ」


「断られたのか?」


「違うよ。あのクソ女が魔女に殴られたってだけだよ」


呆れたように言うポプルスに、グースは首を傾げている。

今の言葉で分かるわけがないと、ため息を吐いた後詳しく話した。


「あっはははは! 魔女が素手で殴るってか! 愉快じゃねぇか」


「どこがだよ。本当に疲れたんだぞ」


「でも、それって自業自得だよ。だってクインスが押し負けて、クソ女の同行許したんだし」


「俺だって、時間に余裕があれば断ったさ。結界を1日でも早くって思ったから、断る時間も勿体無くて放っておいたんだ」


「気持ち分かるけど、纏わりつかれた俺は普通に災難だったんだからね」


「クククッ。あいつはポプルスにぞっこんだからなぁ。犯されたいじゃなくて犯したいって、周りに言っているくらいだからな」


「クソ女、マジで下品なんだよね。俺、本当によく耐えたわ」


「あいつは、お前一筋だったからな。金払いはよかったから太客だったんだろ?」


「そりゃあね。こっちは借金返すために必死なんだから、お金様の要望通りに動くよ。でもさ、もう客じゃないのにヤらせるわけないでしょ。それなのに色目で見てきて気持ち悪いんだよ」


この2人は借金奴隷で、男娼として娼館で働いていた。

最も借金返済が早い仕事だそうだ。


俺とタクサスは運良く大金持ちが道楽で買ってくれて、1週間に2日休みをくれたから、2人で冒険者登録した。

そして、魔物を狩っていたら数年で何とか返せたんだよな。

親から受け継いだ借金の金額が少なかったから、という理由もあるけど。


奴隷紋が首に残ったままだから真面な仕事に就けず、そのまま冒険者を続けていてオレアと出会った。

オレアがポプルスに熱を上げていたから、俺たちはグースとポプルスに会えたんだ。


「あいつも借金奴隷だったよな?」


「荊が2本あるから間違いなくそうだね」


ポプルスの言葉に、俺もしっかりと頷く。


「返済方法を聞いたことあるか?」


「自分を借金に嵌めた奴の手伝いをしてチャラにしたって言ってたはずだよ」


「魔女殿に殴られた経緯については、どう思うか本人に聞いたか?」


ポプルスは怪我しているオレアを捨てて行こうと言ったが、さすがに仲間を捨てるわけにはいかない。

だから、貴重なポーションを使って治したのに、魔女を怒らせた反省をせず、ポプルスに魔女の悪態を吐いていた。


それを思い出しながら、俺は答える。


「ああ、憤慨してたよ。魔女なんて、この世からいなくなればいいのにってな」


「だったら、お前が結界張れんのか? って話だよねぇ」


鬱陶しそうに吐き捨てるポプルスに、グースは笑っている。

表情豊かなポプルスを見ていると楽しいんだそうだ。


ポプルスは場を明るくする才能があるから、俺も重い話でさえ軽く話せるんだよな。

でも、受け止めないといけない話の時は、真剣に聞いてくれ、思ったことをきちんと言ってくれる。

こいつの対人能力はすごいと思う。


「なるほど。クインスでは話さなかったと。ポプルス、聞いたんだろ?」


「一応ね。そしたら、私は本当に騙されたんだってさ」


「オレアの言い分としては、恋人だった男が妻子持ちだったそうだ。その子供が魔女のところにいた子供たちで、子供たちの目の前で言い合いになったことがあるんだと。激しい喧嘩だったから自分のことが怖いんだと思うって、必死にポプルスに話してたよ。あの男と別れたからポプルスと出会えたんだって、騙されててよかったってな」


俺の説明に、ポプルスはその場面を思い出したのか苦々しい顔をした。


「その子たちが奴隷になっていたことは知っていたか?」


「いいや。魔女の嘘だと言い張っていたよ」


「嘘? どうして奴隷云々で嘘を吐くんだ?」


「俺も『クソ女、マジで頭おかしい』って思ったんだけど、思い出したんだよね。あの子たち奴隷紋なかったんだよ」


ポプルスのその言葉に、俺は王城で見た少年と魔女の家で見た少年を思い返す。


王城の時は魔女で見えにくかったけど、「一般奴隷をあんなに痛めつけるのか」と忌々しく思ったんだよな。

だから、確かに荊模様を1本見たんだよ。


「……そうだな。確かに少年の首から荊模様が消えてたな」


「なるほど。魔女殿が消したのか。その子たちは本当に運がいいな」


俺もそう思う。

魔女は将来子供たちがどう思うかだと言っていたけど、本当にあの子たちは運に恵まれた。


あの年で奴隷になった者は、中々奴隷から抜け出せない。

自分からどこで働くかという選択肢も選ばせてもらえず、自分の良さをアピールすることさえできない。

蹂躙しやすいから、すぐに悪どい奴に目をつけられ玩具にされる。

だから、将来どうなろうが、この幸運を不運だと思うことはないだろう。


「お前たちは、どっちが嘘をついていると思う?」


「オレアだろ」

「クソ女だよ」


俺とポプルスの被った声に、グースが「だよな」と重たい息を吐き出した。


「どうするかな……」


「どうでもいいよ。俺、すぐに魔女の家に行くから」


「1週間は書類仕事手伝えよ」


「無理」


結局、オレアには監視をつけることにした。

嘘をついたことでではない。

ポプルスを追いかけて、魔女の森に行かせないためだ。

魔女の不興を買ったら、この国は終わってしまうのだから。




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