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18 強制送還

2人にあてがっている部屋に入ると、ほっとしたのか2人の体から力が抜けた。

ドアの前の床だが、そこに腰を下ろし、2人の体を優しく撫でる。


「あの人は、すぐに森から出すわ。だから、安心して」


力なく頷く2人の涙を拭うと、2人の頼りない瞳に私が映った。


「怖かったのは、あの女の人だけ?」


小さく頷かれて、心の中で安堵の息を吐き出した。


もし使者の3人全員が怖かったのなら、あの国から家庭教師を雇うことはできない。

高確率で、何かしらの繋がりがある可能性が高くなるからだ。

教師を紹介する度に、泣くほど怯えさせるのは心苦しくなる。


「んじゃ、さくっと帰してくるね。側にはブラウとパランにいてもらうから大丈夫よ。2匹は強いからね」


ブラウはアピオスの肩に留まりアピオスの顔に体を擦り寄せ、パランはカッシアの膝の上に乗ってカッシアを力強く見上げている。


もう1度アピオスとカッシアの頭を撫でてから、会議場所であった庭に向かった。


ブラウやランちゃんの調べでは、調べた時点より過去のことを知ることは難しい。

仲間が過去を覚えていたり、誰かが噂をしていれば知ることができるが、探偵ではないのだ。

騒がれずに、聞き込むということはできない。

とても優秀で有能な情報網だが、欠点があるのは仕方がないことだ。


アピオスとカッシアとオレアの関係性を考えているうちに庭に到着すると、シーニーが椅子に座り直したオレアを睨んでいる。

クインスとポプルスは、困惑した表情を向けてきた。


「ノワールさん、あの、何があったんでしょうか?」


「オレアがいうには同郷らしいんだけどね。それ以外何も話さないんだ。何か知ってる?」


動揺しているオレアの体が揺れた。

予想したことが合致したと分かり、冷たい瞳をオレアに向ける。


「ノワール様、本当のことです。あの女は『同じ村出身で、昔は仲がよかったんだ』とほざいておりました」


ほーん、そんなことをほざいていたのね。

そりゃ温厚なシーニーも、ブチギレるってもんよね。


「そう。ちなみに、オレアさんは何で奴隷になったの? 借金? 犯罪? どっち?」


オレアが、自身の首に巻かれている布の上から首を触った。

唇を噛み締め、顔を歪ませているが、そんなもの関係ない。


アピオスの話では、村の人に親を殺された上、2人は売られたのだ。

そして、あの怯え様に、同じ村出身のオレア。

しかも、オレアは懐かしむわけではなく平静を失っている。

答えは簡単だ。


「ま、どっちでもいいわ。さっさと森から出て行って。そして、2度とあの子たちの前に現れないで」


話し合いをしに戻ってきたわけではないから、立ったままで椅子に腰をかけていない。

帰るよう伝えに来ただけなので、踵を返そうとした。


「私は悪くない!」


「あ゙?」


あら、やだ。

信じられない声が出て、冷静さが戻ってきちゃった。

怒りで沸点越えそうだったのよね。

ふー、危ない危ない。

おっさんみたいな声が出てなかったら、ナチュラルに殺しているところだったわ。


なんて、嘘よ、嘘。

そんな怖いことできないし、ノワールだってしないはず。


まぁ、嫌悪感は全く減っていないから、私とノワール同意見でオレアさんが嫌いということよね。

本当にもう顔も見たくないわ。


「私は裏切られたんだ。弄ばれたんだ」


「殺されたいわけ? 私は森から出ていけって言ったの。言い訳しろなんて言ってないの」


「私は悪くない。騙され――


聞くに堪えなくなって、オレアを殴り飛ばした。

オレアが座っていた椅子も一緒に飛んでいき、重い音が鈍く鳴る。


魔力を纏った拳で顔を正面から殴ったから、鼻は折れているだろうし、前歯は無くなっているかもしれない。


「っ!」


咄嗟に体を動かそうとしたクインスとポプルスだったが、シーニーが2人の首にナイフを当てている。

魔法や魔術しか使わないと思ったのか、油断しすぎだ。

険悪なムードなんだから、素直に言うことを聞いて帰るべきだったんだ。


オレアを殴った右手を軽く振り、横たわったままのオレアに近づいて、お腹を勢いよく蹴った。


本当は殴った時に森まで飛ばせると思っていたが、予想以上にオレアが筋肉の塊で重たかったようで飛ばなかったのだ。

だから、仕方なしに蹴りを追加したのだ。


ふっ飛んだオレアは、庭と森との境目を越えると姿を消した。

息を飲み込む音が聞こえて、クインスとポプルスに振り返る。


「森の外に強制送還しただけよ。骨は折れていると思うけど無事よ」


「どうしてオレアを……」


クインスの声は掠れている。


「帰れって言った時に帰らないからよ」


「それだけですか?」


仲間を殴られ蹴られたのだ。

戸惑いもあれば、仲間を痛めつけるノワールに憤りも感じているだろう。

もしてや、自分たちも今ナイフで動きを抑えられているのだから。


「なんだかムカついたのよね。人を2人も殺し、その子供たちを売ったという人物が言い訳をするから」


息を止めるクインスとポプルスに、感情のない瞳を向ける。


この2人に対して思うことは何もない。

ただ今回はオレアを置いてきていたら、こんな騒動は起こらず、気持ちよく契約できたのにとは思う。


「心配しなくても結界は明日張るわ。ただあのクズが、子供たちに会ったり私の前に現れるようなら契約は破棄よ。その時点でポプルスは返すわ。後、森に1歩入れば森の外に移動するから。さっさと帰って。シーニー、もう大丈夫よ。ありがとう」


シーニーは2人の首からナイフを下げ、私の元にやってきた。

驚愕したまま動かないクインスとポプルスを残し、私たちは屋敷の中に入った。




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