17 恐怖
クインスの「珍しい色味だから受け付けられない」という言葉に、ポプルスは大袈裟にフラついて泣き真似をした。
言葉を発せられないので、態度で示してきたのだ。
オレアはポプルスの泣き真似を本気のしたのか、オロオロした後、クインスを睨んでいる。
「そっか。もしかしたら、クインスさんがいいって言うかもしれないしね」
「ははっ。子供に好かれるのは嬉しいですから、その時は私が家庭教師で来ますよ」
笑ったら爽やかー。
絶対にモテる人だわ。
私も一瞬目を奪われちゃったもん。
泣き真似をしながら両腕でバツを作って抗議しているポプルスに、クインスは「仕方がないことだろ」と笑っている。
オレアは大きく頷いているので、そうなってほしいと思っているようだ。
そんな3人を横目に、シーニーにアピオスとカッシアを呼んできてもらうことにした。
「ここまで深くおうかがいしていいのか分かりませんが、10歳の男の子というのはリアトリス国の王女の奴隷だった子でよろしいですか?」
ポプルスを軽くあしらっていたクインスが問うてきた。
一瞬、冷え冷えした空気が漂う。
誰が纏ったのか、それとも3人から放たれたのかは、瞬きの時間よりも短い瞬間的だったので分からなかった。
「うん、そう。女の子は、その子の妹」
「保護されたんですか?」
「うーん、そういうことになるのかなぁ」
「それはどうしてですか?」
やっぱり気になるのか。
「理由なんてないよ。ただの気まぐれ」
「その子たちだから、とかではなくですか?」
「ん? あ、もしかして魔法が使える子供かもと思った?」
「助けられたので、その可能性を視野に入れていました」
なるほどねぇ。
弟子をとって、後継者を育てるとでも思ったのかな?
そういう考え自体が間違っているんだけどなぁ。
真実は教えないけどね。
「全然違うよ。扱いの酷さに胸クソ悪くなって行動しちゃっただけだから。それに、面倒を見るのは3年だけって伝えているしね。
まぁ、あの子たちが運がよかったと思うかどうかは、大人になってからじゃないと分からないと思うしね」
「どういう意味ですか?」
「奴隷でよかったと思うかもしれないでしょ」
「あるわけないだろ!」
途端にオレアに怒鳴られた。
どうやら我慢の限界だったようだ。
オレアを鬱陶しいと思う気持ちを息に乗せ、小さく吐き出してから静かに話しはじめた。
「分からないでしょ。あのままも辛かっただろうけど、この先だって何があるか分からないんだから。幸せを見つけて楽しく暮らすかもしれないし、奴隷の日々よりも嫌なことが起こるかもしれない。這い上がるには苦労するけど、落ちるのは一瞬なんだから」
「貴様は全部他人事すぎるんだよ! 全てを助けられる力があるんだろ! どうして助けない! どうして見殺しにする! 力を持っているなら使えよ! 魔女っていう化け物なんだから!」
クインスが、慌ててオレアの肩を掴んだが遅かった。
怒りで我を忘れているように見えるオレアは、ポプルスの白けた雰囲気にも気づいていない。
「全部他人事よ。私は、人ではなく化け物だからね」
ようやく何を言ったのか気づいたようだ。
緊張を顔に走らせ、瞳を鋭くさせているブラウとパランを見て唇を震わせている。
そこに足音が近づいてきて、シーニーがアピオスとカッシアを連れて戻ってきたことが分かった。
子供たちにこの雰囲気はよくないと笑顔を作って振り返った時、丁度カッシアが顔を真っ青にして尻餅をついたところだった。
震えているカッシアを抱きしめるために、しゃがんだアピオスの面持ちにも恐怖が張り付いている。
ガタンッという大きな音が聞こえて視線を動かすと、オレアが立ち上がっていた。
どうやら椅子を倒す勢いで立ち上がったようだ。
「……ぃゃ……ぃやだ……」
泣き出したカッシアに、何も見せないようにアピオスが覆いかぶさった。
アピオスの体も、また震えている。
「おま……おまえたち……」
子供たちに近づこうとしたオレアの前に、道を塞ぐため体を滑り込ませた。
尋常ではないほど怖がっているのに、近づけさせるわけがない。
横目でクインスとポプルスを確認するが、2人は何が起きているのか分からないというようにポカンとしている。
「オレアさん、2人と知り合いなの?」
「いや、えっと、その……」
瞳を彷徨わせている様子から、困惑している様がありありと分かる。
あんなに怯えているのだから、知り合いに決まっている。
子供たちは話せる状態ではない。
それに、オレアは話す気がないようだ。
であるなら、オレアに構っている場合ではない。
先に子供たちを安心させてあげたい。
オレアを睨んでから子供たちの元に行き、アピオスの背中を撫でた。
「大丈夫よ。私は強いんだから」
ゆっくりと体を起こして見てきたアピオスも泣いていた。
震える手で、助けを求めるようにローブを掴んでくる。
アピオスが退いて見えたカッシアは、流れる大量の涙で頬や服を濡らしている。
アピオスの頭を撫でながらしゃがみ、カッシアを抱き上げた。
少し重たくなっているが、まだまだ抱き上げられる重さだ。
首にしがみつかれ、カッシアの嗚咽が体に響いてくる。
「シーニー、私が戻ってくるまで逃さないようにしといて」
「分かりました」
「ブラウ、パラン。2人の側にいてもらっていい?」
「もちろんですわぁ」
「任せろッス」
アピオスの肩に腕を回し、縋りついてくる2人を守るように屋敷の中に入ったのだった。
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