16 銀色
「私の仲間は優秀なんだけど子供に教えるとなるとシーニーしかできなくて、でも、シーニーは家のことで忙しいからこれ以上は虐めになっちゃうのよね」
「ノワール様、私は問題ありません」
「ううん、シーニー。いくら魔物だからって体を酷使しちゃダメだよ。ただでさえ私の世話で大変なんだから、休憩する時間作らないと」
「そんな! ノワール様のお世話は私の生き甲斐ですので、大変なんて思ったことありません!」
「ありがとう、シーニー。でもね、ずっと一緒にいたいから、やっぱり働きすぎてほしくないのよ」
「ずっと……一緒……」
赤らめた頬に両手を当ててはにかむシーニーに、自然と顔が綻ぶ。
「ノワール様ぁ、私も一緒ですわぁ」
「もちろんブラウも、パランも一緒だよ。ランちゃんたちもみーんな一緒」
「嬉しいですわぁ」
「やったッス!」
膝に乗ってきたパランを右手で、肩に留まっているブラウを左手で撫でると、2匹は自分たちからも擦り寄ってきた。
和み時間を堪能していると、突然笑い声が上がった。
見ると、ポプルスがお腹を抱えて笑っている。
「魔女のイメージ変わったわー」
「魔女もそれぞれだからね」
「それもそっか。それと、家庭教師だけど俺が来るよ。こう見えて頭はいいからね」
「そうな――
「ダメだ!」
そうだよねぇ。
ポプルスさんがこっち来たら、オレアさんは3年会えないことになるもんねぇ。
「決定権はオレアにないよね? 俺とクインスで決めてこいって言われてるんだから」
「だけど!」
「あー、もう本当にうるさい。ちょっとは黙ってなよ」
修羅場か? これは修羅場なのか?
アベックではないようだから、アウトオブ眼中なんだろうな。
私にはどうでもいいことだけど、目の前で繰り広げられすぎるんだよね。
後で揉めてちょんまげ。
クインスもうるさいと思っているのか、押し黙ったオレアを無視して私に話しかけてきた。
「こちらとしては、ポプルスが乗り気ならポプルスでかまいません。教える子供たちが何歳だろうと、ポプルスなら対応できるでしょうから」
なぬ! このチャラ男、本当に頭がいいの?
私やシーニーたちにビビる様子もないから有り難い人材だけど、クライスト国として必要な人材じゃないのかな?
いや、でもそれを突っ込むと、オレアさんがまた叫んで話が止まりそうだしな。
うん、正直もう面倒くさいからチャラ男でいいや。
オレアさんと揉めるなら勝手に揉めてちょーだい。
「では、ポプルスさんに3年間お願いするわ」
「やったー! あのクソ忙しい書類仕事から解放される!」
両手を上げて喜ぶポプルスに、クインスが苦笑いをしている。
泣きそうになっているオレアが、思い付いたように体を揺らし、身を乗り出してきた。
「護身術の先生も必要だよな!?」
え? いや、もしかして……
「私、剣士なんだ! 護身術も剣も教えられるぞ!」
いやいや、私のこと嫌いなのに、そこまでして一緒にいたいの?
ラブラブの恋人ならまだしも、たぶん付き合ってないよね?
ん? 私がそう思い込んでるだけで、付き合ってるのかな?
あの喧嘩がコミュニケーション?
めっちゃドMとドSじゃない。ドン引きだよ。
「俺1人で十分だから。護身術も、軽くなら剣も教えられるし」
「決めるのは魔女だろ! 口出しするな!」
えー、この人本当に面倒くさい。
必死なんだと思うよ。なりふり構わないほど好きなんだよね。
でもね、ちょっと粘着すぎて聞いているだけでしんどい。
ごめん、無理だわ。
「1人だけで。森の住人をこれ以上増やすつもりないから」
やだやだ、殺す勢いで睨んでくる。
早く話を終わらせて、さっさと帰ってもらおう。
「あー、ここからはクインスさん以外話さないようにして」
ポプルスは肩をすくめただけだったが、オレアが噛みついてこようとした。
だが、クインスがオレアの口を手で塞いで、「話すな」と地を這うような低い声を出した。
あらあら、人がよさそうなクインスさんにもそんな一面が。
って、当たり前だよね。国を興した中心人物の1人なんだから。
でも、それでいったらオレアさんはちょっと残念な感じがするなぁ。
剣の腕を買われてかもしれないけど、落ち着きがなさすぎるもん。
「本当に何度も申し訳ありませんでした」
「謝罪も面倒だから、もういいよ。早く終わらせよう」
「ありがとうございます」
「といっても、もう話すことないよね? 3年後の金額等については、改めて3年後に話し合えばいいと思うし」
「そうしていただけると助かります。あの、時間を取って申し訳ありませんが、子供について質問してもよろしいでしょうか?」
「答えられることなら」
「ありがとうございます。真っ新な状態からの勉強でよろしいですか?」
「うん」
「何歳の子供でしょうか?」
「10歳の男の子と7歳の女の子の2人で」
「2人……同じ授業でよろしいですか?」
「同じでいいわ。もし差が出てきたり、やりたいことが異なったりした時は、新たに雇うようにするから。その人については、こちらで動くから気にしないで」
「分かりました。もしポプルスが合わない場合は、すぐにご連絡ください。代わりの教師を探します」
これだよ、これ。
始めからクインスさんとだけ話すようにすればよかった。
お互いの目的がはっきりしている会談なんだから、サクサクでいいんだよ。
「基礎教材はポプルスに持たせますね」
「よかったー。どの教科書を選べばいいのか悩んでたんだよね」
「あ! よろしければ、今、顔合わせは可能でしょうか? ノワール様は気にされていないようですが、ポプルスの銀の色味は珍しいものでして、生理的に受け付けないかもしれないんです」
うーん、うん? そういえば、銀の色味って魔族に多いんだっけ?
本で、そう読んだ記憶がある。
ポプルスは人間ってことは、どっかで異種族婚があって先祖返りなのかもね。