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13 畑仕事

アピオスとカッシアが来てから、1ヶ月経とうとしていた。

2人は発声練習の代わりに柔軟体操をし、屋敷の周りを歩くのではなくジョギング程度に走れるようになっていた。

まだ細いが、徐々にふっくらしてきている。

それに、だいぶと顔色が明るくなり、はじめの頃は響かなかった元気な声もはっきりと聞こえてくるようになった。


私は読めるだけ読んでおこうと、薬の研究より先に知識を得ることにした。

さすが知らないことがあると悔しい思う脳みそ。

どんどんと吸収していく。

天才によくある「すぐに理解してしまうから面白くない」とか、そんなことは思わず、際限なく吸収しようと努力する姿勢に感心する。

自分のことなのだが、まだ混じりきっていないのか不思議な感覚だ。


ふいにドアがノックされ、「はーい」と軽く返事をした。


「ノワール様、森に人族がやってきました」


というシーニーの声が聞こえたのに、ドアが開く様子はない。


首を傾げながらドアを開けると、体に土がついているシーニーが立っていた。

自分の体が汚れているからと、遠慮して部屋に入ってこようとしなかったのだろう。


畑作業はシーニーの指揮のもと行われていて、シーニーも楽しそうに土をいじっているのだ。

今日は種を植えると、アピオスとカッシアが朝から胸を躍らせていた。


「人? 何しに来たんだろ?」


「迷い込んだのではなく、森に入る手前で何か話し合っているそうです」


「パランに行ってもらおうかな。後、ブラウかランちゃんに陰から偵察させておいて」


「分かりました」


開け放たれた窓に近づいたシーニーは、窓枠に向かって命令をしている。

「ん?」と目を凝らすと、小さな蜘蛛がちょこんと黒い点を作っていた。

どうやら森の至る所にいるらしい小さな蜘蛛が、教えに来てくれたようだ。

ぴょんと跳んでいったので、行動を開始したのだろう。


「何か分かり次第、ご報告に来ますね」


頭を下げて去っていくシーニーの背中を見送った後、部屋に戻り、種を植えているっぽいアピオスとカッシアを窓から確認してから読書に戻った。


夕方になり、森に来た人たちが誰なのか判明した。

高速移動したパランが話したそうで、人族たちは「クライスト国の使者」と名乗ったそうだ。


「そういえば、森にて話し合いをしようって言ったんだったわ」


「では、パランに道案内をさせますね」


「お願い。もし道標を残そうとしたら、面倒だけど全て排除してね」


「もちろんです。お任せください」


ノワールの屋敷はというか、魔女の住む森は迷宮に近く、邪心を持つと必ず迷子になり一生森の中を彷徨い歩くことになる。

森を荒らされないために幻術魔法をかけているので、魔女たちが許可した者しか迷わずに歩けないのだ。

故に屋敷を襲うことは叶わない。


それなのに、過去で襲おうとしてきた者たちは何度も現れた。

その度に全滅させ、心を折ったところで契約を提案したのだ。

魔物から国を守る結界を維持してあげるから、こちらが望む物を寄越せと。

一方的な交渉だったが締結され、煩わしかった侵入者はほぼいなくなった。

たまにチャレンジ精神旺盛な者が森を攻略しようと挑んでくるけど、幻術魔法で森の外に誘導している。


森の手前で話していたということは、きっと何度も森の外に出てしまって困っていたからだろう。

パランがいれば、人の足で3日ほどで着くはずだ。

なので、のんびりと待つことにした。


「お姉ちゃん。今日ね、種をたくさん植えたんだよ」


「野菜の種です。じゃいもとさっまいもとキャーベとタマギです」


カッシアは夕食時に、その日あったことを話してくれる。

そして、アピオスはカッシアの言葉に添えるように詳しく教えてくれる。


ちなみに、じゃいもはじゃがいも・さっまいもはさつまいも・キャーベはキャベツ・タマギはタマネギだ。

「本当に似てるよねぇ」と事ある毎に心で頷いている。


ただ気候については、ノワールの記憶にある書物での知識しかないが、春夏秋冬はなく地域によって異なってくる。

1年中暑い地域もあれば、1年中雪が降っている場所もあるそうだ。


彼女は、研究が大好きな引き篭もり魔女なのである。

旅行が好きな私と足し合ったのだから、今いい塩梅になっていると思う。


ノワールが住んでいる所は春のような秋のような気温で、家の中でも外でも、とても暮らしやすくて気に入っている。


「トトマを植えると思ってたわ」


トトマはトマトで、トマトは家庭菜園の定番だからだ。

深い意味はない。


「すみません……トトマを植えればよかったです……」


シーニーも含めて3人の雰囲気が暗くなり、悲しそうに頭を垂らされた。


ただトトマが頭に浮かんだから言っただけで、虐めや意地悪をしたかったわけじゃない。

本当に深い意味はないから、肩を落とされると悪いことをした気がして胸が痛くなる。


「ごめんごめん。別にトトマがよかったわけじゃないから。トトマが初心者向きだと思っただけ」


「あ、それですと、確かにトトマは初心者向けです。育て方の差が分かった方がいいと思いまして、簡単な物ばかりではなく少し難しい物もと思い除外したんです。じゃいもとさっまいもは腹持ちがいいですので、育てられた方がいいと思い選びました」


「シーニーってば、本当に優秀ね」


「へへ、ありがとうございます」


カッシアは分からなかったようだが、アピオスはシーニーの意図を理解したようだった。


ここにいられるのは3年。

その後は自分たちの力で生きていくしかない。

だから、育てやすく腹持ちがいい野菜を選んでくれたということに気づいたのだ。


アピオスは、涙目になりながらシーニーに小さくお辞儀していた。




次話、新しい人物が登場します。


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