124 優しい子供たち
帰宅途中で子供に「飛ぶって気持ちいいでしょ」「私の家には子供が2人いるのよ。きっと仲良く遊べるわ」「帰ったら、何か食べたいものはある?」「髪の毛も綺麗に切り揃えなくちゃね」と話しかけてみたが、反応が返ってくることはなかった。
「「え? ええ!?」」
「ノノノワール様! だだだだれですか!? その子!」
「ポプルスが縮んだッスカ?」
「ポプルスとそっくりネ……だとすると……」
「ポプルスの子供でごわすか……」
「でもぉ、ポプルスの子供はあれですのよぉ」
アピオスとカッシアがいるからだろう。
「あれ」で濁したブラウに、笑いそうになる。
「先生の子供ですか?」
「お姉ちゃんと結婚するんじゃないの?」
シーニーたちも動揺しているが、アピオスたちも挙動不審だ。動きが大袈裟すぎる。
とっても賑やかだ。
それなのに、多種多様の生き物に注目されても、子供は視線1つ動かさない。
「はいはい。みんな、静かに」
手を2回ほど叩くと、全員背筋を伸ばして、真っ直ぐ立った。
みんなが同じ動作をするのが不思議で、首を傾げてしまう。
「合わせようって、話し合ったりしていたの?」
「ううん。シーニーがいつもピシってしているから、こうするんだと思ったの」
「間違っていましたか?」
アピオスたちはきちんと周りを見ていて、自分で考えて行動している。
そして、こちらの顔色を窺って話していた時と比べ、堂々と意見を述べてくれるようになった。
本当にこの2人は、自由にのびのび過ごしてくれるようになった。
「いいえ、一度で静かになってくれて有り難いわ。ポプルスなんて、五月蝿い時は五月蝿いでしょ」
我が儘を言うポプルスを思い出したのか、2人は可笑しそうに笑い出した。
ポプルスを慕っていると分かる2人の無邪気な笑顔に、嫌な村人たちを見てきた私の心が癒される。
「ポプルスの子供かどうかはまだ分からないけど、今日から一緒に住むわ。仲良くしてね」
みんな頷いてくれ、シーニーから順番に自己紹介をした。
子供は突っ立ったままで表情を変えないが、誰もそのことを突っ込まない。
アピオスとカッシアも、返事がなくても笑顔で話しかけている。
「シーニー、お風呂に入れるついでに、髪の毛を切り揃えてあげて」
「分かりました」
「パラン。この子のことは、あなたに全部任せようと思うの。どう?」
「任せてほしいッス!」
「当分の間は、寝る時も一緒にいてあげてね。頼んだわよ」
「はいッス!」
シーニーとパランに子供が託し、シーニーたちが屋敷の中に入る姿を見送った後、アピオスとカッシアに向き直った。
2人に微笑んだはずなのに、2人からは真剣な顔を返される。
私が何を話そうとしているか、察したのだろう。
私としては知っておいてほしいくらいだったが、2人はあの子の傷も受け入れようとしている。
自分たちの傷もまだ完全に癒えていないはずなのに、優しい子たちすぎて胸が締め付けられそうだ。
「アピオス、カッシア。あの子はね、人形として育てられてきたそうなのよ。だから、笑っていいのかも、泣いていいのかも、話していいのかも分からないと思うの。何かを伝えたいと思っていたとしても、上手く話せないのかもしれないわ。だから、会話ができるまで気長に待ってあげてね」
「はい。一緒に発声練習してみます」
「うん、わたしもお兄ちゃんも話せるようになったもん。あの子も話せるようになるよ」
「そうね、2人が一緒なら心強いわ」
嬉し恥ずかしそうに「へへ」と笑う2人の頭を撫でる。
「お姉ちゃん。あの子の名前は、なんて言うの?」
「それがね、まだ無いそうなのよ。だから、ポプルスが帰ってきたら決めてもらおうと思っているの」
「ノワール様が決めないんですか?」
「うん、わたしたちと一緒の方がいいと思うの」
そうなの?
確実にポプルスの子供だろうから、ポプルスが決めた方がいいと思ったんだけどな。
「一緒だね」って言い合える方がいいってこと?
分からないけど、子供の感覚は信じた方がいいわよね。
「分かった。考えてみるわ」
にっこりと微笑んだアピオスとカッシアは、「何をして一緒に遊ぼうか?」と楽しそうに相談をし始めた。
底抜けに明るいパランが纏わりついてくれるし、同年代のアピオスとカッシアと友達になれたら、きっとあの子の心も戻ってきてくれるだろう。
そう信じたい。
「あ、キューちゃん、カーちゃん。子蜘蛛にお願いしたいことがあるんだけど、伝言頼んでいい?」
「承るネ」
「ごわす、ごわす」
「パパウェル村を詳しく調べてほしいのと、後、監視もしてもらって。それと、ポプルスの髪の毛を一本持ってきてもらってほしいの」
「ポプルスの髪ネ?」
「何をするでごわすか?」
「ちょっとね」
頭に「?」を浮かべる2匹にアピオスとカッシアを任せて、私はお風呂に入っている子供の様子を確認しに屋敷に入った。
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部屋の中の物が壊れる音が、空間を支配している。
屋敷にいる眷属たちは、青い顔し、体を震わせている。
「クソ! クソ! クソ! あの小娘! なんだって私の邪魔ばっかりするのよ!」
「おち、おちついて――
「うるさい! 私に指図するなって言っているでしょ!」
肌を叩いたような乾いた音の後に、悲鳴が聞こえ、何かがぶつかった拍子に壁が壊れた。
「許さない! 絶対に許さないから! できるくせに、何もしないあの小娘のせいで、こんなことになっているのにっ! どうしてノワールなんかに渡したのよ! どうして私じゃなかったの! 許さない! 絶対に許さないんだから!」
震えて泣いている眷属たちは、主人を止めることも慰めることもできず、ただただ怒り狂う主人に耐えるしかなかった。
皆様……ストックが無くなりました……正真正銘ゼロです……
それにともない、1〜2ヶ月ほど更新をお休みいたします。
再開しましたら、一気に完結まで駆け抜けたいと思っています。
リアクションもブックマーク登録も、とても喜んでいます。
読んでくださっている皆様には、心の底より感謝しております。
本当にありがとうございます。
少しの間お休みしますが、どうか完結まで何卒よろしくお願いいたします。




