表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/125

119 ポプルスの冒険

森の中が様変わりしてしまったので、青い実を取って帰るのに、最短で6日になってしまった。

リュックの中には1週間分の食料を入れてもらっているが、もしもがあるかもしれないので毎食2割ずつ残していこうとしたら、ラン師匠に怒られた。


「足りなくなったら、森の果物を食べればいいやないの。ポプルスは怯えすぎやないの」


「慎重だって言ってほしいな。それに、果物をまだ見てないよ」


「ここに来るまで3つはあったやないの」


「えー! うそー! 全然気づかなかったよ」


「もっと周りを見るやないの。それと、1時間毎くらいに杖で道は調べた方がいいやないの」


「え? 真っ直ぐじゃないの?」


「3日が4日になったやないの」


楽しそうに瞳を細めて揺れるラン師匠に脱力した。

そして、猛省した。

これは俺に対しての試験なのに、手取り足取り導いてもらえると思いすぎていた。

おつかい程度にしか考えていなさすぎたんだ。


「覚えたよ。1時間毎に杖で道を調べるよ」


「いい心構えやないの。ポプルス、結界を教えるやないの」


「やった! 習いたいと思ってたんだよね」


残りの夕食をかき込み、頬をパンパンにしながら立ち上がった。

呆れた瞳をされているが、お腹が膨れればいいので、食事の仕方は問題ない。

それよりも、結界を習えることの方が重要だ。


「守りたい範囲を杖で囲うやないの。魔力を流しながら杖を移動させるやないの」


「円を書くってこと?」


「円じゃなくても囲えばいいやないの。はじめは地面に直接描いた方が分かりやすいやないの」


歪でもいいのなら円が描きやすそうなので、杖で地面に大きな丸を描いた。

ラン師匠に俺が眠れるくらいと言われたので、少しだけ余裕をもたせて描いている。


「魔力を流しながらって、結構難しいね」


「血を使うんやったら、流さないでいいやないの」


「ううん。毎回血を使っていられないから、慣れるようにする」


ゆらゆら揺れたラン師匠曰く、後は囲んだ中心に杖を差して、『ヤヂサヲマーカ』と唱えるだけでいいらしい。


いいらしいのだが、何回やっても何も起こらない。

成功したら描いた円が光ると教えてくれたが、薄らとした光さえ灯らない。


「ちゃんと魔力を流しながら、円を描いたやないの?」


「やったよ。はぁ、でも失敗したみたいだから、もう一度上からなぞってみるよ」


さっきよりもゆっくりと丁寧に円を描くと、今度は1回で成功した。

杖と同じ色、ムーングレー色の薄い膜が半球状にかかっている。


「成功したー!」


と、両手を挙げて喜んだのに、結界はラン師匠が体当たりしただけで、あっという間に粉々になって消えた。


「こんな弱い結界で、何も守れないやないの」


正論を言われているが、とても悲しい。

ノワールちゃんが相手なら、嘘泣きをして慰めてもらっているところだ。


「……もっと魔力を流せばいいの?」


「やってみたらいいやないの」


ラン師匠は、優しいけど厳しい。

楽しそうに揺れている姿は可愛いけど、意地悪だ。

でも、出来ていないのに出来ていると褒められるのは違うと分かる。


それに、結界は命を守るために必要な魔法だ。

こんなに脆かったら意味がない。


だから、頑張ろう。

ラン師匠にぶつかられても大丈夫な結界を作ってみせよう。


この日は1時間ほど作っては壊されを繰り返し、肩を落としながら眠りについた。



2日目


こまめに杖で進む道を確認し、どうにか軌道修正できたらしい。

そして、昨日は発見できなかった果物を、見つけることができて喜んだ。


焦っていないと思っていたけど、気持ちが急いていたのかもしれない。

やっと周りを見る余裕ができた気がして、嬉しかった。


ただこの日も、結界を成功させることはできなかった。



3日目


魔物には会わなかったけど、凶暴なリスに追いかけ回された。

1匹で寂しそうにしていたから、昨日採った果物をあげようと思ったら威嚇され、短い足で跳び蹴りされ、噛まれそうになった。


小さなリスを殴る蹴るなんてできないので、避けながら移動していたら、また青い実から遠のいたらしい。


泣きそうになって蹲っていると、凶暴だったリスに可哀想な奴と思われたのか、擦り寄って慰めてくれた。



4日目


リスが離れなくなったので、「ヴァイス」と名付け、一緒に青い実を目指すことにした。


ノワールちゃんが居たら、「可愛い」って喜んでリスと遊ぶかな。

その光景いいな。ノワールちゃんを抱きしめたくなる。


一生懸命ヴァイスと共に進み、昨日の遅れを取り戻せたらしい。


ラン師匠に「青い実に着くまでに結界を完成させるやないの」と言われ、この日も何回も挑戦し、ことごとく心を折られた。



5日目


ヴァイスが、果物の場所を教えてくれるようになった。

鳴いて教えてくれる姿が可愛くて、癒してもらっている。

水が透き通っている川を見つけることもでき、ヴァイスとラン師匠と水浴びをした。


ノワールちゃんとお風呂に入りたい。ゆっくりイチャイチャしたい。



6日目


夜だけでは中々上達しないので、ラン師匠に、歩きながら杖の先に魔力を集める練習をするように言われた。

成功しないのは、魔力の扱いが下手だかららしい。

杖に魔力を流すのは難しくないのに、それを杖の先に集めるのは意味が分からなくて難航した。


しかも、この日は低い崖を2個ほど登った。

手も足も限界だ。



7日目


どうにか杖の先に、魔力を集めることに成功した。

もう信じられないくらい集中力が必要で、歩きながらだと、何度も転けかけた。


果物はヴァイスが教えてくれているので、周りに気を配らなくても問題ない。

飢えることはないので、魔力操作の練習に集中できる。


杖の先に集めた魔力は球体になるのだが、魔力の密が低いと、ラン師匠が触っただけで弾けてなくなってしまう。

結界と同じだ。すぐに消えてしまう。


ラン師匠曰く、もっと自信を持って魔力を放出した方がいいそうだ。

悔しい。頑張る。



8日目


やっと青い実を見つけることができた。

これで、ノワールちゃんたちのところに帰られる。

嬉しい。もう少し頑張れば、ノワールちゃんに会える。


ヴァイスが食べたがったが、キューちゃんカーちゃんの言葉を守って、これは食べたらダメだと説明した。

俺の言葉が分かるのか、拗ねていたが実を食べるようなことはしなかった。

ラン師匠に「ヴァイス、賢くない?」とうちの子自慢したら、「今更やないの」と返された。


どういうことだろう?




次話から、視点はノワールに戻ります。


リアクション・ブックマーク登録・読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ