119 ポプルスの冒険
森の中が様変わりしてしまったので、青い実を取って帰るのに、最短で6日になってしまった。
リュックの中には1週間分の食料を入れてもらっているが、もしもがあるかもしれないので毎食2割ずつ残していこうとしたら、ラン師匠に怒られた。
「足りなくなったら、森の果物を食べればいいやないの。ポプルスは怯えすぎやないの」
「慎重だって言ってほしいな。それに、果物をまだ見てないよ」
「ここに来るまで3つはあったやないの」
「えー! うそー! 全然気づかなかったよ」
「もっと周りを見るやないの。それと、1時間毎くらいに杖で道は調べた方がいいやないの」
「え? 真っ直ぐじゃないの?」
「3日が4日になったやないの」
楽しそうに瞳を細めて揺れるラン師匠に脱力した。
そして、猛省した。
これは俺に対しての試験なのに、手取り足取り導いてもらえると思いすぎていた。
おつかい程度にしか考えていなさすぎたんだ。
「覚えたよ。1時間毎に杖で道を調べるよ」
「いい心構えやないの。ポプルス、結界を教えるやないの」
「やった! 習いたいと思ってたんだよね」
残りの夕食をかき込み、頬をパンパンにしながら立ち上がった。
呆れた瞳をされているが、お腹が膨れればいいので、食事の仕方は問題ない。
それよりも、結界を習えることの方が重要だ。
「守りたい範囲を杖で囲うやないの。魔力を流しながら杖を移動させるやないの」
「円を書くってこと?」
「円じゃなくても囲えばいいやないの。はじめは地面に直接描いた方が分かりやすいやないの」
歪でもいいのなら円が描きやすそうなので、杖で地面に大きな丸を描いた。
ラン師匠に俺が眠れるくらいと言われたので、少しだけ余裕をもたせて描いている。
「魔力を流しながらって、結構難しいね」
「血を使うんやったら、流さないでいいやないの」
「ううん。毎回血を使っていられないから、慣れるようにする」
ゆらゆら揺れたラン師匠曰く、後は囲んだ中心に杖を差して、『ヤヂサヲマーカ』と唱えるだけでいいらしい。
いいらしいのだが、何回やっても何も起こらない。
成功したら描いた円が光ると教えてくれたが、薄らとした光さえ灯らない。
「ちゃんと魔力を流しながら、円を描いたやないの?」
「やったよ。はぁ、でも失敗したみたいだから、もう一度上からなぞってみるよ」
さっきよりもゆっくりと丁寧に円を描くと、今度は1回で成功した。
杖と同じ色、ムーングレー色の薄い膜が半球状にかかっている。
「成功したー!」
と、両手を挙げて喜んだのに、結界はラン師匠が体当たりしただけで、あっという間に粉々になって消えた。
「こんな弱い結界で、何も守れないやないの」
正論を言われているが、とても悲しい。
ノワールちゃんが相手なら、嘘泣きをして慰めてもらっているところだ。
「……もっと魔力を流せばいいの?」
「やってみたらいいやないの」
ラン師匠は、優しいけど厳しい。
楽しそうに揺れている姿は可愛いけど、意地悪だ。
でも、出来ていないのに出来ていると褒められるのは違うと分かる。
それに、結界は命を守るために必要な魔法だ。
こんなに脆かったら意味がない。
だから、頑張ろう。
ラン師匠にぶつかられても大丈夫な結界を作ってみせよう。
この日は1時間ほど作っては壊されを繰り返し、肩を落としながら眠りについた。
2日目
こまめに杖で進む道を確認し、どうにか軌道修正できたらしい。
そして、昨日は発見できなかった果物を、見つけることができて喜んだ。
焦っていないと思っていたけど、気持ちが急いていたのかもしれない。
やっと周りを見る余裕ができた気がして、嬉しかった。
ただこの日も、結界を成功させることはできなかった。
3日目
魔物には会わなかったけど、凶暴なリスに追いかけ回された。
1匹で寂しそうにしていたから、昨日採った果物をあげようと思ったら威嚇され、短い足で跳び蹴りされ、噛まれそうになった。
小さなリスを殴る蹴るなんてできないので、避けながら移動していたら、また青い実から遠のいたらしい。
泣きそうになって蹲っていると、凶暴だったリスに可哀想な奴と思われたのか、擦り寄って慰めてくれた。
4日目
リスが離れなくなったので、「ヴァイス」と名付け、一緒に青い実を目指すことにした。
ノワールちゃんが居たら、「可愛い」って喜んでリスと遊ぶかな。
その光景いいな。ノワールちゃんを抱きしめたくなる。
一生懸命ヴァイスと共に進み、昨日の遅れを取り戻せたらしい。
ラン師匠に「青い実に着くまでに結界を完成させるやないの」と言われ、この日も何回も挑戦し、ことごとく心を折られた。
5日目
ヴァイスが、果物の場所を教えてくれるようになった。
鳴いて教えてくれる姿が可愛くて、癒してもらっている。
水が透き通っている川を見つけることもでき、ヴァイスとラン師匠と水浴びをした。
ノワールちゃんとお風呂に入りたい。ゆっくりイチャイチャしたい。
6日目
夜だけでは中々上達しないので、ラン師匠に、歩きながら杖の先に魔力を集める練習をするように言われた。
成功しないのは、魔力の扱いが下手だかららしい。
杖に魔力を流すのは難しくないのに、それを杖の先に集めるのは意味が分からなくて難航した。
しかも、この日は低い崖を2個ほど登った。
手も足も限界だ。
7日目
どうにか杖の先に、魔力を集めることに成功した。
もう信じられないくらい集中力が必要で、歩きながらだと、何度も転けかけた。
果物はヴァイスが教えてくれているので、周りに気を配らなくても問題ない。
飢えることはないので、魔力操作の練習に集中できる。
杖の先に集めた魔力は球体になるのだが、魔力の密が低いと、ラン師匠が触っただけで弾けてなくなってしまう。
結界と同じだ。すぐに消えてしまう。
ラン師匠曰く、もっと自信を持って魔力を放出した方がいいそうだ。
悔しい。頑張る。
8日目
やっと青い実を見つけることができた。
これで、ノワールちゃんたちのところに帰られる。
嬉しい。もう少し頑張れば、ノワールちゃんに会える。
ヴァイスが食べたがったが、キューちゃんカーちゃんの言葉を守って、これは食べたらダメだと説明した。
俺の言葉が分かるのか、拗ねていたが実を食べるようなことはしなかった。
ラン師匠に「ヴァイス、賢くない?」とうちの子自慢したら、「今更やないの」と返された。
どういうことだろう?
次話から、視点はノワールに戻ります。
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