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118 ポプルスの見たもの

ノワールちゃんの屋敷を出発して、黙々と移動し、1回目の休憩の時にランちゃんに尋ねてみた。


「ねぇ、ランちゃん。青い実ってノワールちゃんにあげる用だよね? 愛の証ってどういう意味?」


「そのまんまやないの。プロポーズする時に2人で1つの実を食べるやないの」


「へー、素敵な実があるんだね」


「一生添い遂げられるやないの」


「それ本当!? 絶対見つけないとだね!」


「持って帰らないと、ポプルスは結婚できないやないの」


「え? そこ、本気で言われてたの? お膳立てするためとかじゃなくて?」


「本気やないの。こんな簡単なことできないんやったら、ポプルスはこの先ご主人を支えられないやないの」


ごく、本当にごく当たり前のことを言われたのだが、ノワールちゃんと気持ちが通じ合えたことで、やっぱりどこかに慢心があったのか、ハッとさせられた。

心が引き締まったような気がする。


「うん、そっか。そうだよね。俺だってノワールちゃんを支えたいからね。頑張るよ」


気合いを入れるために、手を強く握りしめる。

ランちゃんは瞳を細めながら、ゆらゆらと揺れている。


「うちもシーニーも、ポプルスには感謝しているやないの」


「え?」


「ほら、出発するやないの」


「ちょ、待って。さっきのどういう意味!?」


慌てて水筒をリュックに片づけ、どんどんと先に進もうとするランちゃんに追いつくように早足になる。


「待って、ランちゃん。俺が先を歩かないと失格になる」


「あ、そうやったやないの」


ランちゃんは恥ずかしそうに頭を掻いて、俺の横に戻ってきてくれた。


出発する時に「ここから森に入るネ」ってわざわざ指定してくれたし、今ランちゃんが進んでくれたから、疑わずに真っ直ぐ歩いて行ける。


本当にノワールちゃんといい、シーニーたち眷属といい、優しすぎて怖くなるよ。

この幸せが幻で、急に奈落の底に突き落とされるかもって、本気で心配になる。


「止まるやないの!」


突然ランちゃんに強く言われて、躓きそうになりながら足を止めた。

メキメキメキと、そこら中から木が軋む音が聞こえてくる。


「え? 魔物に囲まれた?」


「違うやないの。森の中が動いているやないの」


耳を疑って聞き返そうとしたが、それよりも先に見えている景色が変わりはじめた。

目の前の木や草や花が、「よっ」「お前、そこがいいの」「俺、こっちー」と言いながら、楽しそうに場所移動をしている。

しかも、成長しているのか、移動しながら色鮮やかになったり、太くなったり伸びたりと多種多様だ。


自分で自分の頬をつねるが、夢の中ではないらしい。


「なにこれ……」


「ご主人の魔力が上がったやないの」


「え? え? ノワールちゃん、強くなったの?」


「そうやないの。ご主人は、もっと強くなれるやないの」


「そうなの? 魔女でも魔力上がるんだね。すでに最強だと思っていたよ」


「ポプルスも頑張れば上がるかもやないの」


「本当? 俺、強くなりたい。どうすればいい?」


「うちを師と仰ぐんなら、教えてあげるやないの」


「仰ぐよ。ラン師匠! よろしくお願いします!」


「ふふふ。気分いいやないの」


森の中の大移動が終わったのか、辺りは静寂に包まれた。


ノワールちゃんが教えてくれたことだけど、ノワールちゃんか眷属の誰かが一緒だと魔物は近づいてこないらしい。

だから、いつも森を歩く時は自分達が出す音と、時々動物たちの足音や鳴き声が聞こえてくるくらいだ。


今は森の中の大移動があったからか、動物たちも周りを警戒して静かにしているんだと思う。


「ポプルス。まずは、どっちに進むか決めるやないの」


「え? こっち……あ、そっか。青い実も移動しちゃったってことだね」


「そうやないの」


あー、どうしよう。

ラン師匠がわざわざ言ってくれたってことは、真っ直ぐではないってことだから、右か左……斜めが最有力候補かな?

でも、走っていた草や花もあったからな。

右か左という説も捨てられないよね。


「悩む時は、杖を使うやないの」


「杖? どうやって使うの?」


「地面に突き、魔力を流しながら探したいものを念じるやないの。手を離して、杖が倒れた方向に進むやないの」


「魔法じゃないよね?」


「違うやないの。でも、魔力は魔法を使うだけのものやないやないの」


「どういうこと?」


「そのまんまやないの。魔力は念や気を形造り操れるものやないの」


「よく分からないけど、やってみるよ」


ラン師匠に言われた通り、杖を地面に立て、「青い実、青い実」と唱えながら杖に魔力を流した。

そして、手を放し、1歩後ろに下がると、杖は右斜め前に倒れた。


「合ってる?」


窺うようにラン師匠に問うと、ラン師匠は「合っている」とも「違う」とも教えてくれなかったけど、微笑んでくれた。

合っているんだと分かり、安堵の息を吐き出しながら杖を拾う。


「ポプルス、先に教えとくやないの。最短で3日かかるやないの」


「……それは青い実に着くまでを言ってるの?」


「当たり前やないの」


「ノワールちゃんに抱きしめてもらえない……」


「諦めるやないの」


「うん……その代わりラン師匠にしごいてもらうよ。それで、ノワールちゃんを驚かせて惚れ直される」


白けた瞳をラン師匠に向けられたけど、俺はめげないぞ。

ノワールちゃんの気持ちを疑っていないけど、俺だってグースみたいに褒めてもらいたいし、「好き」とか「愛している」とか言われたい。

今も十分構ってもらえていると分かっているけど、もっともっと縛り付けてほしい。


グースとの噂はただ騒いだだけで、どう流れようとどうでもいい。

ノワールちゃんが言っていたように、当事者の俺たちが違うって分かっていたら問題ないからね。

それで、グースたちの身の安全が保証されるなら、どんどん噂を広げていいと思っている。


でも、ビデンスとかいう王みたいに、ノワールちゃんに横恋慕する奴は許せない。

というか、人のこと言えないけど、魔女に告白ってどういうことだよ。普通しないだろ。


ノワールちゃんは優しいし可愛いしエロいし物事をちゃんと見極められるし一緒に騒いでくれるしで、本当に男の理想の塊みたいな女の子なのに、本人はそれを自覚していないんだよね。

それも問題なんだよな。


だから、俺が頑張って頼れる男になって、ノワールちゃんには俺しかいないって周りに見せつけるんだ。

誰も俺には敵わないって分かれば、ノワールちゃんに近づこうとする奴も現れなくなるはずだからね。


ルクリアの時は、俺はただただ耐えるだけの男だったけど、あれは間違いだったって気づいている。

だから、今度は最後まで折れずに、本当に嫌なことは跳ね除けられる男になる。

それがきっと、ノワールちゃんとの未来にも繋がると思うから。


まずは愛の証の青い実を見つけて、ノワールちゃんに惜しみなく気持ちを伝えよう。




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