117 2匹との距離
キューちゃんとカーちゃんは食事が終わると、「パランと会ってくるネ」と席を外した。
その間に私たちは昼食を取り、のんびりとお茶までした。
「お待たせしたネ!」
「ごわす!」
大きなリュックを持ったキューちゃんとカーちゃんが戻ってきた。
傍らには飛び跳ねるように走っているパランと、天井から糸を吊るして楽しそうに揺れているランちゃんがいる。
「ブラウがいないやないの。うちが監視役をするやないの」
「ポプルス、頑張るッス! あの実はノワール様にピッタリッス!」
「パラン! ダメネ! 内緒ネ!」
「そうでごわす! 愛の証とか言っちゃダメでごわす!」
「カエルレウム! 言っちゃダメネ!」
慌てて口を隠してもバッチリ聞こえちゃったよ。
そういうところも、本当に愛おしいってなるわ。
みんなおっちょこちょいな所があって、でもちゃんとしっかりしていて、自慢の眷属たちだよ。
キューちゃんとカーちゃんには、数年家に居てもらってもいいな。
コレクションの整理でもしてもらおうかな。
離れている時間が長かったからね。
勤労感謝のプレゼントも贈りたいし、ゆっくり過ごしてもらおう。
「俺、絶対の絶対に採ってくるよ。任せて」
ポプルスも八百長だと気付いていたと思うけど、今の言葉に俄然やる気を出している。
まぁ、さっきの言葉がなかったとしても、ポプルスはノリノリで採取に行くだろう。
場の空気を乱すことはせず、盛り上げようとするのがポプルスだから。
仕切り直すように頷き合った2匹は、腕組みをしてポプルスに真剣な眼差しを向けた。
「よく言ったネ」
「これを持っていくでごわす」
ポプルスの前に、キューちゃんカーちゃんが持ってきた大きなリュックが置かれる。
「1週間、野営できるネ」
「すなわち、1週間で見つけないと、生き残れないでごわす」
「行って帰ってくるだけッス! ポプルスなら4日で大丈夫ッスヨ!」
「パラン、ちょっと黙っているネ」
シーニーが静かに近づき、パランを抱きかかえて離れて行った。
パランは、「何がダメだったッス?」とキョトンとしている。
「採ってくる実は、小さな実が2つぶら下がっている青色の実ネ」
「採ってくるのは1房でいいでごわす。そして、決して1人で食べてはいけないでごわす」
「分かった。でも、みんなで食べないの? みんなの分も採ってくるよ」
「ダメネ。みんなで食べてはいけない実ネ」
「いいでごわすか? 絶対に1房でごわすよ」
「んー、分かった。1房採ってくるよ」
ポプルスは「よいしょ」と口に出しながら、リュックを背負った。
そして、ランちゃんに「よろしくね」と笑顔を見せた後、私に抱きついてきた。
「ノワールちゃん、俺がいなくて寂しいと思うけど、俺頑張ってくるからね。帰ってきたら抱きしめてね」
「はいはい。最短の4日で帰って来られたら、抱きしめてあげるわ」
「本当! ものすっごく頑張れるよ! 待っていてね。美味しい実を採ってくるからね」
「愛してるよ」と囁きながら私の頬にキスをし、アピオスとカッシアを抱き寄せてから、ポプルスはランちゃんと森の中に消えていった。
「ねぇ、シーニー、パラン。一体何の実なの?」
「1房の実を分け合って食べると、永遠に一緒にいられるという実です」
「そんな実があるのね」
「あるッスヨ! 魔物や動物のプロポーズの実ッス!」
だから、愛の証なのね。
キューちゃんとカーちゃんは、粋な計らいをしたって満足しているんだろうな。
ランちゃんが一緒なら魔物に襲われることはないし、遭難することもないものね。
安全を約束されたキャンプ三昧。楽しんできてほしいな。
「パラン、アピオスとカッシアと遊んでてくれる。シーニーと一緒に、キューちゃんとカーちゃんに現状を説明するわ。あの2匹には、お願いしたいこともあるから」
「分かったッス!」
パランに快く了承してもらい、私たちは地下室にて説明会という話し合いをした。
シーニーが要点を押さえた説明を2匹にしてくれ、最後にポプルスの育ての親の日記を見せた。
2匹は、ポプルスたちの資料にも目を通しながら、小さく頷いていた。
「理解したネ」
「オラ達にできることはあるでごわすか?」
「キューちゃんとカーちゃんには、してほしいことがあるの」
「やるネ」
「もちろんでごわす」
力強い視線を送ってくる2匹に、柔らかく微笑む。
「アピオスたちが旅立つまでの残り2年半、あの子たちに力の使い方を教えてあげてほしいの」
2匹の瞳が、みるみると丸くなっていく。
私が一緒に過ごそうと伝えたことが、シーニーは嬉しいのだろう。
予想していたのかもしれない。
2匹みたいに驚かずに、頬を緩ませている姿が視界の端に映っている。
「ノワール様のコレクションを……」
「……集めなくていいでごわすか?」
「うん。ここにいて、今まで集めたコレクションの整理を手伝ってほしいの。アピオスたちが居なくなった後も、10年くらいは残っていてほしいわ。急にみんな居なくなると寂しいでしょ」
ポタポタと涙を溢しはじめた2匹は、腕で目元を覆い、声が漏れないように唇を引き結んでいる。
「私にも、いっぱい旅の話を聞かせてね」
シーニーの鼻を啜る音も聞こえてきて、私まで感極まりそうだ。
「うれっしぃネ」
「ずっと……シーニーたちがっ羨ましかったでごわす……」
そうだよね。ごめんね。
これからは、今まで離れていた分も一緒に楽しいことをしようね。
2匹の頭を撫でて抱き寄せると、庭では抱きしめ返してくれなかった2匹が、背中に腕を回してきてくれた。
たったそれだけのことが、長い間知らず知らずのうちに、できてしまっていた隙間を埋めてくれたような気がした。
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