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116 茶番?

アピオスたちを探してと思っていたが、探さなくてもアピオスたちは食堂にいた。


「ここにいるってことは、2人はもう挨拶したの?」


「はい。お庭で挨拶しました」


笑顔で答えてくれた後、アピオスは顔をすぐにキューちゃんとカーちゃんに向けた。

カッシアも、輝かせた瞳でずっとキューちゃんとカーちゃんを見つめている。

人間に化けていると知って、心が強く惹かれているのかもしれない。

摩訶不思議なことには、興味が湧いてしまうものだ。


「2人とも、キューちゃんとカーちゃんが珍しい?」


「ううん、珍しいとかじゃないの」


「はい。色んな場所を旅しているとシーニが教えてくれまして、すごいなぁって思ったんです」


「うん、どんな所を旅しているのか教えてほしいの」


「迷惑じゃなかったらです。聞きたいなと思っています」


元気よく頷いているカッシアと、気恥ずかしそうに視線を下げるアピオスが可愛くて、自然と頭を撫でていた。

アピオスが更に顔を俯かせる姿に、本当に恥ずかしがり屋さんだなと、目元が緩んでしまう。

照れ笑いするカッシアも、もちろん可愛い。


静かにシーニーの食事を堪能していた2匹が突然手を止め、というか、ナイフとフォークを落として震え出した。


「シシシシーニー、何が起こっているネ?」


「そそそそうでごわす。今オラたちは、誰かの魔法で幻覚を見せられているごわすか?」


「何を言っているんですか? 何もありませんでしたよね?」


2匹がガタッと勢いよく立ち上がり、新しい料理を持ってきたシーニーの肩を掴んだ。


「え? 何ですか? ご飯いらないんですか?」


「いるネ! でも、そういう話じゃないネ!」


「そうでごわす! あの人、本当にノワール様でごわすか? 別人でごわすか?」


あー、うん、私がさっき笑ったのが衝撃だったんだね。

やっぱりそうなるよね。

私のイメージって、表情変わらなくてシーニーとしか必要最低限話さない、だと思うもん。


でもさ、さっきも庭で微笑んだんだけどな。

涙で前が見えていなかったのかもな。


「怒りますよ? ノワール様でしかありませんよね。あなた達は、自分の主人が分からない愚か者ですか?」


わお。シーニーが怒っている姿って珍しすぎる。

アピオスとカッシアも、目を点にしちゃったよ。

キューちゃんとカーちゃんは、当たり前の反応をしただけなのにね。青ざめて震えちゃってる。

静かにしているポプルスに至っては、今雰囲気を和ませるために挨拶をした方が、とか考えていそうだわ。


カオスになったら嫌だから、先に介入しよう。


「シーニー、そう怒らないであげて。2匹と会うのは本当に久しぶりだし、私が何の研究をしていて、何の魔術を成功させたかなんて知らないんだから」


「しかし、知らなくても繋がっているんですから、分からないなんてことありません。失言をしたキューとカーが悪いです」


「2匹はお喋りを楽しもうとしただけじゃない?」


シーニーは、私には愛らしく首を傾げて見せたのに、その後「どういうことですか?」とキューちゃんとカーちゃんを睨んだ。

口ごもる2匹に凄むシーニーに、苦笑いが出そうになる。

みんな、私を好いてくれているけど、シーニーはその中でも特段忠誠心が強すぎる気がする。


「私だと分かっているけど、雰囲気が違いすぎるから『ノワール様、もっとこうだった』とか、『ノワール様はこういう時こうする』とか、誰が1番私を知っているか選手権をしたかったのよ」


パアっと顔を輝かせたシーニーは、唇で大きな弧を描いた。

キューちゃんとカーちゃんは視線を合わせ、小刻みに頷き合っている。

私の案に、全力で乗っかると決めたのだろう。


「そうネ! 私たちが一緒に過ごした時間は短くても、私たちもノワール様を知っているネ」


「ごわすごわす! 短くても濃い時間を過ごしているごわす」


「何を言いますか。側で仕えている時間が、誰よりも私が長いんです。私が知らないノワール様はありません」


ん? 話を逸らさせる内容、間違えた?

だってこれ、ちょっとマズくない?

今、ここで昔の私のアレコレを暴露されたら、羞恥心で死ねるってやつになるんじゃない?


それは無理!

アピオスとカッシアの前では、ずっと綺麗なお姉さんでいたいんだから!


「ちょっと待――


「それ、俺も参加したい!」


ここまで大人しく事の成り行きを見守っていたポプルスが、大声で右腕を上げて宣言した。

「シーニーたちよりもこのバカを止めなければ、本当に収集がつかなくなる」と直感が働き、慌ててポプルスの口を手で押さえようとした。


「ダメネ」

「ダメでごわす」


今までの焦っている声とは打って変わって、キューちゃんとカーちゃんの冷静な声に、誰もが時を止めた。

一緒になって騒ごうとしていたシーニーも、瞳を瞬かせている。


「シーニー。きっとあの軽薄そうな男が、ノワール様の相手ネ?」


「ええ、そうです」


「自己紹介まだだもんね。いつしようか悩――


「いらないでごわす」


あれ? まさか2匹はポプルスをというか、人間なんて認めないとかかな?

だとしたら、役所で手続きしないといけないとかじゃないから結婚はしなくていいとして、恋人の状態を認めてくれるかどうかになるな。


ポプルスが五月蝿くなるかもだけど、眷属たちの許しが出ないんだから、諦めてもらうしかないよね。

私は、どんな形であれ一緒にいられる……週末くらいでいいんだけど……一緒にいられたら十分だと思うからね。


「でも、名前が分からないと不便だと思うんだよ」


どうにか取っ掛かりをと、なおも食い下がるポプルスに対して、キューちゃんとカーちゃんは緩く首を横に振った。


「名前なんて、どうでもいいネ」


「大切なのは、お主がノワール様の相手に相応しいかどうかでごわす」


キューちゃんとカーちゃんが、ポプルスの前まで進んできて、品定めするようにポプルスを見始めた。

「人間ごときがどんなもんじゃい」と、鋭くさせた瞳を光らせている。


「えっと、どうしたら相応しいって認めてもらえるかな? 俺、ノワールちゃんを愛している気持ちは、誰にも負けないよ」


2匹は、同時にため息を吐き出した。

寸分違わず、綺麗にシンクロしている。


「何を言ってるネ。眷属の私たちが、誰よりもノワール様を愛してるネ」


「そうでごわす。それが分からない時点で、お主は失格でごわす」


「ままままって! ごめんなさい! 言葉を間違えました! 俺もその中に入らせてください! お願いします!」


深く腰を折るポプルスに対して、キューちゃんとカーちゃんはまたしても同時に舌打ちをした。


私がポプルスと2匹の会話の落とし所をどうしようか悩んでいると、呆れたような面持ちのシーニーが助け舟(?)を出した。


「キューとカーにとって、ポプルスがどんな人間か分からないですからね。仕方がないことだと思います。ですから、何か試験を出してポプルスが合格すれば、ノワール様を愛するのを許してあげるのはどうですか?」


「シーニーがそこまで言うなら、そうしてもいいネ」


「シーニーが言うならでごわすからね」


ふむ、これは茶番なのかもしれないな。

シーニーが「2匹の悪巧みに乗っかってあげます」感を、分かりやすくバシバシ出しているんだよね。


キューちゃんとカーちゃんは、ポプルスと仲良くなる手段として勝負事を選んだってことね。

今までいっぱい頑張ってきてもらったんだし、2匹の好きようにさせてあげよう。


「ありがとう! 俺、頑張るよ! 何をすればいい?」


キューちゃんとカーちゃんの意地悪そうに笑う顔が、悪役にしか見えない。

つまり、ノリノリである。


「森から採ってきてほしいものがあるネ」


「シーニーとパランの協力は、ダメでごわす。ブラウとランなら、道案内なしという条件でオーケーでごわす」


「どうしてシーニーとパランはダメなの?」


素朴に疑問だったので尋ねてみた。


「シーニーとパランは優しすぎるネ」


「絶対にこの男を手助けするでごわす」


なるほどね。確かにシーニーは手助けしそうだし、パランに至っては何も考えず親切心で案内しそうだわ。

ブラウとランちゃんは、面白がって見守るを選ぶそうだもんね。

いい人選……もとい、いい眷属選だわ。


「分かったよ。絶対に採ってくるよ」


こうしてポプルスの、小さな冒険は幕を上げたのだった。




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