115 2匹の帰還
屋敷に向かって空を飛んでいる間、ポプルスは本当に五月蝿かった。
どっかに捨てて帰ろうかと悩んでしまうくらい、鬱陶しいかった。
「ポプルス、いい加減にしてよ。どうでもいいことで騒がないで」
「どうでもよくないよね? ノワールちゃんの恋人は俺で、結婚するのも俺なんだよ。それなのに、どうしてグースとの噂を放っておくの? 後、ビデンスとかいう奴、なに? 俺のノワールちゃんに求婚するとか、信じられないんだけど」
「だーかーらー、グースとのことは、そうしていた方が国が安定するからっていう理由からでしょ。ポプルスもその方がいいんじゃないの? 後、ビデンスは本当に好みじゃないから、絶対に間違いは起きないわ」
「待って! 今の言い方だと、好みのグースとは間違いが起きるかもって聞こえるんだけど! え? なになに? ノワールちゃんも、偽装恋愛からの本気恋愛に憧れていたりするの?」
「ないわよ。というか、何なの? その具体的な話?」
まさかポプルスも私と同じ世界から来たのかって、勘違いしてしまいそうな設定じゃない。
「娼館で働いていた時に、そんな感じで愛されたいからって、わざわざ小説を読まされたの。初めは好きじゃないのに、あっという間に好きになって溺愛が始まるんだよ。不思議な話だったなぁ。普段すっごいチヤホヤされている奴が、どうせこいつもって思っていたら、迫られなくて好きになるの。他にもそんな態度取らない人いるはずなのにね。で、実際、普通に会話できている人が出てくるの。ん? じゃあ、この人を好きになってもよくなかった? って本気で悩んじゃった」
「想像していた人と違ったから、好きになったってことじゃないの?」
ギャップ萌えとか、好感度マイナスからのプラスで、一気に好きになるってことでしょ。
「そう! まさしくノワールちゃんはそれなの!」
「何の話よ。小説の話はどこにいったのよ」
「それは例え話! いい? 魔女ってお伽噺に近いんだよ。文句の1つでも言おうものなら、容赦なく心臓を抉られるの」
「概ね合っているわね」
「どこが!? ノワールちゃん、そんなことしないじゃん。ノリツッコミだってしてくれるし、冷静に話し合いできるし、可愛いし、優しいし、エロいし、あったかいし、寝顔も美人だし、明るいし、笑顔なんてちょー愛らしいし。本当にもう想像していた魔女と全然違うんだよ」
「そんなの、シャホルさんもアスワドさんもでしょ」
「そうだけど、違うよー。ノワールちゃんは違うんだよー」
「はいはい。で、何が言いたいのよ」
「ノワールちゃんを知ったみんながみんな、ノワールちゃんを好きになっちゃうの! だから、俺が夫として防波堤になりたいの! それなのに、グースとの噂が邪魔で何もできなくなるよー」
「大丈夫よ。誰も彼も私を好きにならないし、私の男が1人だなんて決めなくていいんだから。グースには愛されたいけど、ポプルスは愛したいみたいな使い分けでもいいんだし」
「俺1人で、2つともできるよー」
はぁ、やっと屋敷に着いた。
さっさとポプルスを授業の用意に向かわせて、私はのんびりしよう。
「「ノワール様ー」」
降りようと思っていた庭から、男性2人に両手を大きく振られながら名前を呼ばれた。
久しぶりに見る2人に嬉しくて、早くきちんと顔をあわせたくて、ポプルスの腕を引っ張って急降下した。
「ノワールちゃん、あれだ……っわー!」なんて聞こえた気がするが、怪我のないように庭に下ろしてあげたから大丈夫だろう。
今はポプルスよりも目の前の2人、いや、人間に化けている眷属2匹だ。
「キューちゃん! カーちゃん!」
2匹にガバって抱き付くと、2匹は息を詰まらせてしまった。
そうだった。2匹は、まだ性格が変わったノワールを知らなかった。
それに、前回はノワールが引きこもっている時に帰ってきているはずだから、ノワールと2匹は会えていない。
必死に記憶を手繰り寄せないと、最後いつ会ったのか分からないくらい久しぶりなのだ。
「ノノノノワール様!」
「ええええええええええ!」
2匹が狼狽えるのは当たり前だけど、ここはもうシーニーたちの時と同様に、押し切るしかない。
シーニーたちだって驚いていたけど、すぐに受け入れてくれた。
キューちゃんとカーちゃんも同じ眷属なんだから、きっと大丈夫。
「キューちゃんとカーちゃんに会えるの、まだ先だと思っていたから嬉しい。帰ってきてくれてありがとう」
「ノワール様……ううっ……嬉しいネ……会いたかったネ」
「シーニーに言われて……ぐす……帰ってきてよかったでごわす」
「シーニー? シーニーが呼び戻したの?」
2匹の手を借りたい何かがあったのかな?
シーニーは嫌がるだろうけど、相談してくれたら私も手伝うのになぁ。
2匹を呼び戻すほどなんだから、きっと大変なことだと思うのよね。
「はいネ。ノワール様の結婚式ネ」
「指輪を一緒に作るでごわす」
「それで、わざわざ帰ってきてくれたの?」
「もちろんネ。教えてくれて嬉しかったネ」
「そうでごわす。知らないうちに終わっていたら悲しかったでごわす」
みんなからの愛が大きすぎて、泣きそうなほど嬉しいよ。
私からも、いっぱいお返しするからね。
とりあえず、もう1回抱きついておこう。
「ノワール様、出迎えが遅くなりました。すみません」
シーニーが、慌てた様子で屋敷から出てきた。
すかさず、キューちゃんカーちゃんからシーニーに抱きつき直す。
「あああ、わわわ、ノワール様、どうされました?」
「シーニー、ありがとう。キューちゃんとカーちゃんに会えて、結婚を祝ってもらえるって聞いて、本当に嬉しいわ」
「よ、よかったです! ブラウが提案してくれたんです! そそれで、小蜘蛛にお願いをしまして」
「ブラウにもランちゃんにも、きっとパランもよね。お礼を伝えるわ」
シーニーから離れると、耳まで真っ赤にしたシーニーは「キューとカーのご飯できましたよ。呼びに来たんです」と早口で伝え、まだ泣いているキューちゃんとカーちゃんを連れて行ってしまった。
「あのー、ノワールちゃん」
すっかり忘れてたわ。
ポプルスが居たんだった。
「あの2人は『グース以外にも親しい男がいるなんて』って言っていい相手? 言ったらダメな相手?
どっち?」
ということは、本当に全部わざと五月蝿いのね。
「グース相手でも言わないでほしいんだけど」
「やだよ。合法的に我が儘からのイチャつきができるんだもん。しつこくしても許してもらえる手段を減らせないよ」
「全然非合法よ。ポプルスの株が下がってばかりよ」
「そんなことないよ。無くなったら、絶対寂しくなるはずだからね」
「じゃあ、1回検証してみましょう」
「やだ。もう染み付いてる」
「本当に我が儘ね」
「俺の持ち味だよ」
頭にキスを落として抱きついてくるポプルスの背中を、柔らかく叩くと簡単に離れていく。
今は我が儘を続ける場面ではないらしい。
「私には後2匹、眷属がいるって話をしたでしょ」
「なんとなくそうかなって思っていたけど、さっきの2人がそうなんだね。挨拶しそびれちゃったよ」
「2人じゃなくて2匹よ。人間に化けているだけだから」
「ってことは、動物なの?」
「そうよ。狐と狸ね」
「へー、人間にしか見えなかったよ。ノワールちゃんの眷属って、みんな凄すぎるよね。カッコいい」
「みんな、喜ぶわ。食堂にいると思うから、アピオスたちと一緒に挨拶に行きましょ」
「うん、ノワールちゃんの夫として認めてもらわないとね」
意気込むポプルスと、キューちゃんカーちゃんの挨拶は、思わぬ方向に話が逸れるのだった。
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