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114 噂を利用する

何かに気づいたのか、男の顔をマジマジ注視し始めたポプルスが、グースの隣にしゃがんだ。


「俺、この顔見たことない気がするんだけど、最近移住してきた?」


「ポプルスさん、本当に記憶力いいよね。正解。こいつ先月頭? いや、先々月後半? それくらいだよ」


「1人で移住じゃなかったら、そいつら仲間かもね。どこから来たの?」


グースは首を横に振り、タクサスはクインスを見た。

眉間に皺を寄せて唸っているクインスが、声を絞り出すように答える。


「えっと、リアトリス国からで、たぶん、女性との2人組みだったはず。その女性が、どこで働いているかはちょっと……」


リアトリス国ね。

確か……グースが周辺国を蹂躙しようとしていると思っていたわよね。

それに、私と結婚間近って噂もあったわね。


どうでもいいから、すっかり忘れてたわ。

ってことは、その噂が本当かどうか確かめるためってこと?


「あー……はぁ……」


「ノワールちゃん、どうしたの?」


「なんでもないわ。いや、でもなぁ、4ヵ国会議があるからなぁ。教えておいた方がいいのかなぁ」


「ノワールちゃん、心の声が漏れているよ」


「わざと漏らしているのよ」


「どうして?」


「ポプルスが五月蝿くなるからよ」


今は可愛らしくコテンと首を倒していても、絶対に発狂する。

面倒臭いから、もう1日置いて帰りたい。

でも、放置したところで、明日駄々を捏ねまくって騒ぐ。

先延ばしにしても、ポプルスが落ち着くことはないと思う。


「ポプルス、先に約束して。怒らない、騒がない、駄々っ子にならない」


「なにそれ。俺、そんな子供じゃないよ」


あなたねぇ、ブラウにまでため息吐かれているのよ。

子供だって自覚しなさいよ。


「分かった。言うわよ。私、リアトリス国の王から求婚されて断ったのよ」


「え!? 聞いてない!」


「で、なぜか知らないけど、グースと私が結婚間近って思われているみたいでね」


「なんでグース! 恋人も婚約者も俺だよ!」


「しかも、グースは私と結婚した後、周辺国を属国にしようと目論んでいるらしいのよ」


「グース! ノワールちゃんは俺のだからね! 手なんて出したら許さないよ!」


「ポプルス、口を閉じてろ。お前のせいで、ノワールの話が半分しか入ってこねぇだろ」


「やだやだやだやだ! ノワールちゃんと結婚するの俺だもん!」


「ポプルスさん、五月蝿いよー」


「グース、ちょっと口を塞いでてくれ」


グースがため息を吐きながら、クインスの言葉通り、ポプルスの口に手のひらを押し付けた。

そこまで強く拘束されていないだろうに、ポプルスは怒り顔で頬を膨らませるという可愛い抵抗しかしていない。

これ以上の邪魔は本気でウザがられると、きちんと分かっているようだ。


「ノワール様、新しい王はビデンス王でしたよね? 会った感想はどうでした?」


「ただのひよっこよ。前王よりマシってくらいね」


「どの噂の真相を確かめたくて潜り込ませたのか知らねぇが、会議で突っかかってきそうってことだよな?」


「確実に突っかかってくると思うわ。外せばよかったわね」


「いや、そこは気にしなくていい。アスワドって魔女のメンツに関わってくるんだろ? 仲良くしているなら、そんなことで拗らせる必要ねぇだろ」


「グースって、本当にいい男ね」


ポプルスの「んー! んー!」という抗議の声が響いているが、もれなく全員聞こえないフリをしている。

ポプルスの相手をしていたら話が進まないのだから、仕方がない。


「ノワール様がよろしければなんですが……」


「なに? クインス」


「その噂を利用させてください」


「好きなようにしたらいいわ。当人たちが誤解していなきゃ問題ないことだもの」


「ありがとうございます。後、もし都合がよろしければ、4ヵ国会議に同席してもらえませんか? もちろんグースの隣に」


「うーん……まぁ、いいわ。その方が話は進みそうだからね」


「ありがとうございます」


「いいわよ。薬の件は、私が巻き込んだんだから」


「俺たちの国にとっては渡りに船なんだ。感謝しかねぇよ。それに、俺とノワールの仲だ……ってーな! おまっ! いた! 噛むな!」


手にまで大きな歯型をつけたグースに、ポプルスは殴られていたが、頭をグリグリとグースの胸に押し付けて反撃している。


2人が戯れついている間に、クインスが今考えたことを説明をしてくれた。


男が目覚めたら解放すること。

この男が、誤情報をリアトリス国に流してくれたら御の字。

他の国からもスパイが紛れ込んでいるかもしれないから、そいつらの耳にも届けば万々歳。


つまり、自分たちから噂を広げるということらしい。

私との仲が知れ渡れば、グースが王の間は要らぬ戦争をしなくていいからとのこと。


グースが周辺国を攻めようとしているという噂は4ヵ国会議で否定するし、私との生活が幸せすぎて周りの国に攻め入っている時間はない、という恋に溺れている噂で上書きを試みるそうだ。


今更、私にどんな噂が流れようが問題ないので、好きなようにしたらいいと再度伝えている。


頭を下げるクインスに「ブラウと遊んであげて」とブラウを預け、グースとイチャついているポプルスの首根っこを掴み、手を振ってくるタクサスに手を振り返して、ようやく帰路に就いた。




次話から彼らが登場します。


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