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110 ノワールに感謝

「はいはい。で、俺の何に気を揉んでいるの? 俺が解決してあげるよ」


打ち明けていいのかどうかの不安はまだあるが、勝ち気に微笑んでいるポプルスを信じてみようと、覚悟を決めて深呼吸した。

首を傾げるポプルスが、不思議そうに見てくる。


「ポプルス。ルクリアのことは、もういいんだな?」


ポプルスの顔が歪むかもと思っていたが、予想とは違い、ポプルスは穏やかに微笑んだ。


その瞬間、ストンと何かが胸に落ちてきた。

安堵? 安心感? 何かは分からない。

でも、過去を乗り越えたと思えるポプルスに、泣きたくなるほど心が温かくなったのだ。

こいつはもう大丈夫だと、嬉しくなったのだ。


「うん、もう大丈夫だよ。グースたちに会えない間にさ、結構色々あったんだよ。俺って生きている意味あるのかなぁって考えたりもした。俺の存在が、たくさんの人を不幸にしたんじゃないかって。でもさ、こんな俺を愛してくれた人、愛してくれている人がいて、その人たちは自分を不幸だとは言わないんだよね。お前のせいで不幸だって言われたこともない。俺が勝手にそう思ってるんだ。なんかさ、それって失礼だなって気づいて。俺がその人を幸せか不幸か決めつけるなんて傲慢だな、最低だなって思ったんだ。だけど、どうしても俺が居なかったら、もっと幸せじゃないのかなっていうのも考えちゃって……もう本当に泥沼だったよ」


「抜け出せたのは、ノワールのおかげか?」


「大部分はノワールちゃんのおかげだけど、アピオスとカッシアのおかげでもあるかな。眩しいんだよね。真っ直ぐで優しくて頑張り屋で、いっつも俺に笑顔をくれる。シーニーたちも俺を俺として扱ってくれる。


ノワールちゃんと出会えてから、なんかさ、世界が広がったんだよ。あそこって人と違う生き物の集まりでしょ。でも、みんな何にも気にしてないの。ノワールちゃんも『魔女よ。それ以外何かあるの』って感じだし、アピオスたちは金色なのを喜んでいる。ノワールちゃんやシャホルちゃんに綺麗だって褒められるからだと思う。


そういうのを見てるとさ、俺ってなんて小さいことで萎縮してたんだろうって思ったんだ。それで、過去を思い返してさ、グース・クインス・タクサスは俺を1度も変な目で見たことがないし、花街に居た時も常に2番人気だった。あれ? 俺って見た目を本当に気にする必要ないよね? 俺も綺麗って褒められて喜んでいるもんねって、目が覚めたんだ。


まぁ、それでも俺のせいでって、どうしても拭えない気持ちがこびりついちゃってて前を向けなかったんだけどね。足踏みしてたら、ノワールちゃんに胸ぐら掴まれて、悩み事を遠くに投げ飛ばされたって感じ。すごいよね、ノワールちゃん」


クスクス笑うポプルスが嘘偽りなく幸せそうに見えて、今までの苦しかったこと辛かったことやるせなかったこと、そして腹立たしかったこと、全てがどうでもよくなった。


過去は過去だ。

上ってきた階段の数段、歩いてきた道の遥か後ろ、もう戻ることがない場所だ。

過去が今を作っているのだとしても、過去にしがみつく必要はない。

嫌な出来事だったのなら振り返らなくていい。


「ああ、ノワールはすごいよ。俺も心を軽くしてもらったからな」


「ん? どういうこと? なんで? いつ?」


「あー、いつだったかなぁ。ちょっと覚えてねぇなって、おい、何をしようと……ぃって!」


ゆらっと近づいてきたポプルスに顔を固定され、睨んでくるポプルスの顔が近づいてきたと思ったら、顎を噛まれた。


「おまっ、やめろ!」


そのまま首も噛まれ、止めようとした腕さえも歯型を残される。


「いってー。信じらんねぇ」


「ふふん。これでグースはもうモテないね。歯型をつけられるほどの恋人がいるって噂されるだろうし、俺が相手だって囁かれるだろうしね」


「モテたくてモテてるわけじゃねぇよ。あー、いてー。というか、お前だってノワールに勘違いされるぞ。いいのかよ」


「大丈夫だよ。だってもう俺、ノワールちゃんのモノだもん」


「捨てられるとか思わないのか?」


「うーん、ないかなぁ。言えないアレコレがあるしね」


「そうかよ。じゃ徹底的に、この歯型は利用させてもらうぞ」


「お好きにどうぞ」


可笑しそうに笑うポプルスの肩を軽く叩くと、頭突きを返される。

勢いを間違えたのか、激突してきたポプルスの方が頭を抱えた姿が面白くて、「バーカ」とお腹を抱えた。

そして、頬を膨らませたポプルスと擽り合い、息も絶え絶えのところで、2人して大声で笑ったのだった。


「ったく、俺ら何歳だよ」


「たまにはいいじゃん。あー、楽しかった」


今度こそ寝ようとしているポプルスを放って、俺はベッドから降りた。

何も気にしていないポプルスから「俺にも水ちょうだい」と言われ、水と共に、引き出しの中に隠していた簪を取ってベッドに戻る。

ポプルスの言葉を信用して、渡すなら今がいいと判断した。


簪をポプルスの足の上に投げ、自分は水で喉を潤す。


「これ……」


簪を見ているポプルスの顔は窺えないが、声は震えている。

もう大丈夫だと思ったが、まだ無理だったのかもしれない。


「売られていてな。とりあえず買っておいたんだ」


「……そっか。ねぇ、グース、胸貸してくれる」


「ああ」


「それと、墓地の一画にルクリアのお墓を建てたい。簪はそこに埋めるよ」


「分かった」


静かに泣き始めたポプルスを抱き寄せ、本当に前に進んだんだなと、心の底からノワールに感謝したのだった。




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