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106 誕生日の過ごし方

「え? 今……なんて言ったの?」


「……今日は、カッシアの誕生日だそうです」


朝食をとるために食堂に着いた時、シーニーがよろけていたので「どうしたの?」と尋ねた答えが、「カッシアの誕生日と言われました……」だったのだ。

耳を疑った私が聞き返したのが、冒頭のシーニーとの会話になる。


「え!? カッシア、誕生日なの!?」


「うん! 今日で8歳になったの! お兄ちゃんが教えてくれたんだ」


ニマニマしているカッシアの頭を、幸せそうな面持ちでアピオスが撫でている。


ん? ってことは、カッシアは覚えていなかったってこと?

あー、そっか。奴隷になってからは祝ってもらってなかっただろうから、いつが自分の誕生日かなんて気にさえしてなかったんだろうな。

私のバカ! そういうのは先に調べておいて、サプライズでお祝いをしてあげるべきなのに!


「カッシア、おめでとう。1つお姉さんになったからか、いつもより綺麗に見えるよ」


ポプルスがポプルスらしいお祝いを述べていて、私も続けて言おうとした。


「先生、ありがとう! 誕生日はみんなで過ごせるんだよね。嬉しい!」


んん? この世界の誕生日って、そうやって過ごすの?

いや、まぁ、前世でも集まってカラオケとかパーティーとかあったけど、そういうこと?


私が戸惑ってしまったからか、アピオスが慌てふためきながらポプルスに問いかけた。


「先生。僕の家は誕生日は1日みんなで過ごすっていう日だったんですけど、先生の家では違いましたか?」


内容的に私じゃなくてポプルスに尋ねたあたり、アピオスは賢い。

だって、390年生きている魔女の私が、誕生日に何かするとか思わないよね。

何かしていたとしても参考にならないよね。


正解だよ。

あの男が去ってからは、ノワールは誕生日を祝ってないんだよ。

だから、意見は出せない。ごめんよ。


「んー、俺の家は、夜に俺の好きなご飯が2、3個出てきてって感じだったかな」


「そ、そうなんですね」


2人の会話に、カッシアは「一緒に過ごせるわけじゃない」と気づいたようで、反省するように唇を固く閉じた。

「我が儘を言っちゃった。怒られるかな?」とか思っていそうだ。


体に力が入っているカッシアにも、「どうしよう」と狼狽えているアピオスにも、愛しさが込み上げてくる。


「カッシア、おめでとう。今日は1日いっぱい楽しみましょう」


「いちにち?」


「ええ、夜中の12時までは誕生日だものね。みんなで何がしたい?」


「いいの?」


「もちろんよ。今日はお勉強もお休みにして遊ぶの」


「やった! 私、森をお散歩して、湖でご飯を食べて、えっと、お水をかけあって、追いかけっこして、お姉ちゃんと一緒に寝る」


可愛いなぁと思いながら聞いていたが、最後の一緒に寝るの部分で笑いそうになった。

呆れてとかじゃなくて、そこまで好きでいてくれることが擽ったくて笑いそうになったのだ。


「時間はあるわ。全部しましょ」


「嬉しー!」


カッシアは、椅子の上なのに飛び跳ねるように喜んでいる。

その横で、目を細めて嬉しそうに微笑んでいるアピオスに声をかける。


「アピオスは、いつが誕生日なの?」


今日は後手に回ってしまったが、次からはここ数年分を纏めて、朝起きた時から祝ってあげたい。

プレゼントだって用意したい。


「9月です」


眩しいばかりの笑顔で答えてくれたが、今はその可愛い笑顔は凶器そのものだ。

胸を抉られる。

だって、今日は11月1日なのだから。


「え? もう11歳になっているの?」


「はい」


マジか……この居た堪れなさ……シーニーも同じ気持ちのようで、そこだけが救いだよ。

ポプルスは微妙な顔をしているけど、「誕生日ってそんなに大事?」みたいな感情が透けて見えるんだよね。


誕生日は大事でしょうが!

欲しい物買ってもらえて、ケーキを食べられる素晴らしい日でしょうが!


まぁ、ケーキはシーニーがよく作ってくれているから、そこまで特別感はないだろうけど。

だとしても、今日の夜は、イチゴをふんだんに使ったバースデーケーキを作ってもらおう。


「そうなのね。遅くなったけど、今日はアピオスの分もお祝いしましょう」


「い、いえ。今日はカッシアの誕生日ですから」


「みんなで過ごすんだから、一緒にお祝いしても問題ないわよ。来年からは、きちんと1人ずつお祝いしましょうね」


「あ、ありがとうございます」


アピオスは顔を隠すように俯いたが、頬と耳が赤くなっているのは丸見えだった。

ポプルスの朗らかな「アピオスも誕生日おめでとう」という声に、恥ずかしそうに「ありがとうございます」と返している。


驚愕続きの会話が終わり、立ち直ったシーニーがご飯を運んできてくれ、穏やかな朝食が始まった。


「2人とも、今何が欲しい?」


アピオスとカッシアは顔を見合わせて、同時に首を傾げている。


「誕生日プレゼントよ。お祝いだからあるわよ」


「だだ大丈夫です」


「わたしもない」


2人の反応に違いこそあれ、いらないという意見は同じようだ。


「何でもいいのよ?」


「はい! 俺は、ノワールちゃんとお揃いの物が欲しい!」


「ポプルスに聞いてないわよ」


「でも、俺も誕生日あるじゃん」


「えー、んー、そうね。いつ?」


「アピオスとカッシアが可愛いからって、俺への対応と違いすぎる!」


「うるさい。今言わないと誕生日祝わないから」


「ごめんなさい。4月8日です」


「よろしい」


アピオスとカッシアが可笑しそうに笑っていて、この流れでポロッと溢してくれないかなと話を振ってみる。

ポプルス自体が誕生日を特別視していないように感じるのに、要求をしてきたということは、そういう意図が含まれていたんだと思う。


「ポプルスの誕生日は、一緒に色々と準備しましょうね」


「楽しみ!」


「はい」


「アピオスとカッシアは、本当に欲しい物ないの?」


「ありません」


アピオスの言葉に、カッシアもモグモグしながら頷いている。

これはもう勝手に買って贈るしかない。


「あ、あの、ノワール様の誕生日はいつですか?」


なぜか緊張を纏っているアピオスを不思議に思いながら、笑顔で答える。


あれか? 女性に年齢を聞いたらいけないとか、ポプルスから習ったのかな?

でも、もう年齢を教えているからなぁ。

魔女の個人情報を聞いていいのかって悩んだのかな?


「1月1日よ。シーニーたちも、みんな一緒なの」


「はい。魔女と眷属は全員、1月1日生まれです」


「それって、シャホルちゃんやアスワドちゃん達もってこと?」


「そうです。眷属もですので、ルーフスもパッチャたちもです。」


シーニーが補足をしてくれ、ポプルスは「へー、覚えやすくていいね」と、アピオスとカッシアと意味深な視線を絡ませながら微笑み合っている。


私の誕生日はどうでもいいとして、シーニーたちは日頃の感謝を込めてお祝いしないとな。

カーちゃんとキューちゃんには、これからは年1で帰ってきてもらうようにしよう。

何十年って会えないのはやっぱり寂しいし、2匹のことだけ祝わないっていうのは違うからね。

後で、シーニーに伝えなきゃ。


こうして、それぞれの誕生日に向けて、それぞれの思惑が抱かれたのだが、残念なことにノワールの誕生日ははちゃめちゃな1日になってしまうのだった。




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