102 許してもらえた嬉しさ
ポプルスと同室になった初めての夜、眠る前に幸せそうに微笑んだポプルスの瞳は潤んでいた。
「好きだよ」と囁いてきたポプルスと、手を繋いで寄り添うように眠った。
ちなみに、シーニー達には、夕食を食べる前にポプルスと夫婦になることを伝えている。
シーニーはお皿を持ったまま右へ左へと慌て出し、ブラウ・パランは飛び跳ねて騒ぎ出し、アピオスとカッシアはほんの一瞬驚いた後、手を取り合って喜んでくれた。
パランに突撃されて正気を取り戻したシーニーは、「明日はお祝いをしましょう」と意気込んでくれていた。
恥ずかしくて照れてしまう時間だったが、温かい空間に包まれて、とても幸せな報告となったのだった。
そして翌日、森に材料を採りに行くのならと、アピオスとカッシアも誘ってハイキングをすることにした。
2人は喜んでくれたのだが、お弁当を作ってもらうためにシーニーに説明をすると、シーニーは気まずそうに視線を下げ、両手を祈るように握りしめた。
「どうしたの? シーニー」
緊張を纏い、唾を飲み込んだシーニーは勢いよく顔を上げ、口を開きかけて、また俯いた。
「お弁当を作る時間がないなら、森の果物を食べるから大丈夫よ」
シーニーに、高速で首を横に振られる。
これではないらしいが、他に言いにくそうなことが思い当たらない。
「あ! 今日は、森に行かない方がいいとか?」
閃いたというように人差し指を立てて尋ねてみたが、さっき同様、残像が見える速さで顔を左右に振られる。
どうしたものか……と悩んでいたら、机に留まっていたブラウが笑いながらシーニーの頭の上に移動した。
「ふふふ。ノワール様ぁ、シーニーは指輪を作りたいんですのよぉ」
「え? どうして?」
耳まで真っ赤にしたシーニーは、強くズボンを握りしめた。
可笑しそうに笑ったブラウは、「パラーン」と何故かパランを呼んだのだ。
1秒くらいで空いている窓から飛び込んできたパランは、「何スカ? 何スカ?」と楽しそうに顔を輝かせている。
「ノワール様が結婚しますでしょぉ」
「そうッスネ! ポプルスだから許すッス!」
「指輪を森の素材で作るらしいんですのよぉ」
「そうなんスカ!? だったら、俺たちに作らせてほしいッス!」
ウキウキ気分で私の足元をくるくる走るパランに瞳を瞬かせた後、ポプルスを見やった。
ポプルスは、朗らかに微笑みながら頷いている。
「あんなに作りたいって言っていたのに、眷属たちに譲ってくれるなんて」と、ポプルスの優しさに胸が温かくなり、首輪は腕によりをかけて作ろうと決めた。
「じゃあ、みんなにお願いしようかな」
「やったッス!」
「嬉しいですわぁ」
「ありがとうございます!!」
深く頭を下げるシーニーに、ブラウの勘違いではなく、本当に「作りたい」と言い出せなかっただけなんだと分かった。
ブラウは、シーニーが腰を折る際に飛び立ち、元の机に戻っている。
「シーニー、お弁当の用意はできそう? 素材採りじゃなくても、森には行こうと思うの」
「大丈夫です。あの、私も行っていいですか?」
「もちろんよ。ブラウとパランも行けるなら一緒に行きましょうね」
「ご一緒しますわぁ」
「行くッス!」
アピオスとカッシアも、「みんな一緒だ」と胸を弾ませながら微笑み合っている。
朝食は森のどの辺りに行くかを話し合い、庭でコーヒータイムを楽しんでから出発することになった。
「指輪のこと、ありがとう」
目の前に座ってコーヒーを飲んでいるポプルスに、お礼を伝える。
畑に水を撒いているだろうアピオスとカッシアの声が聞こえてくる。
「いいよ。それに、嬉しさもあったから」
「あったの?」
「あったよ。昨日お祝いを言われたから気にしてなかったけど、指輪を作ってくれるってことは、シーニーたちは結婚を許してくれているってことでしょ。それを、さっきパランが声に出してくれたから気づけたんだ。ノワールちゃんの家族に反対されてもおかしくなかったんだって。当たり前だよね。俺は力も地位も名誉も財産もない、ただの人間なんだからさ。それなのに、いつもみんなが優しいから図に乗ってたんだなって。きちんと分かってよかったよ。だから、絶対にノワールちゃんたちを裏切らない、悲しませない、愛を惜しまないでいようと思った。俺にできるのはそれくらいだから」
「期待してるわ」
「任せてよ」
笑顔を見せ合い、小さく声を出して笑い合う。
「でもね、私の大切な眷属は後2匹いるのよ。その2匹にも許してもらわないとね」
「そうなの!? どこにいるの? 俺、会える?」
「後数年で1度帰ってくるから、その時に会えるわよ」
「そっかー。だったらそれまでに、もっとしっかりとした男になれるよう頑張るよ。後、シーニーに情報をもらって好感度上げられるようにしとく」
そんな努力をしなくても、4匹が認めているんだから、カーちゃんもキューちゃんも速攻でポプルスを好きになりそうだけどな。
教えてあげないけどね。
斜め上のような努力をしたら伝えてあげることにしよう。
「グースたちには報告に行くの?」
関係性は違うけど、私の家族がシーニーたちなら、ポプルスの家族はグースたちだ。
特にグースは、ポプルスの幸せを願っている。
それに、そろそろお酒を飲み交わしたいんじゃないかな。
「手紙で済ませようと思ってる」
「会って伝えなくていいの? 怒られるんじゃない?」
「でも、連れて行ってもらわないといけないし、ノワールちゃんとグースを会わせたくないし」
なるほどね。
私とグースを会わせたくないっていうのが本音ね。
だけど、そろそろグースは観賞用だって分かってくれてもいいと思うんだけどな。
「連れて行ってあげるわよ。それに、私も行かなきゃと思っていたし」
「どうして?」
「薬の取り引きをクライスト国とするの。そうだ。そのうちアピオスに教えようと思っていたけど、それまでポプルスが作らない? お給料出すわよ」
「やる! いつ、ノワールちゃんにプレゼントを贈りたいって思うか分からないから、お金はあった方がいい」
「決まりね。明日から授業が始まるし、次の休みの時にでも教えるわ」
そんな話をしていると、水撒きを終えたアピオスとカッシアがやってきた。
同時に、お弁当を持ったシーニーが屋敷から出てくる姿が見える。
アピオスとカッシアが休憩をしなくても大丈夫とのことで、パランの案内でブラウも一緒に光る洞窟に向かった。
パランが案内してくれた光る洞窟は、中の土や岩が星空のようにキラキラしている洞窟だった。
光っている土や石は外に持ち出した瞬間、輝きを失うそうだ。
とても幻想的な景色に、アピオスとカッシアは目を見張っていて、ポプルスは感嘆の息を吐き出していた。
かくいう私も、胸が熱くなるほど感動した。
自分の森なのに知らないことが多すぎて、色んなことに驚嘆する。
魔女や眷属に直結しているらしいのだから、もっと森に興味を持ち、私自身も森に異変があった時にすぐに対処できるようにしようと思った。
何より、こんなにも美しい景色を損なうのは嫌だし、これほど素晴らしい環境は二つとないのだから維持していきたい。
もっとより良い森にしていきたい。
となれば、たくさんの感謝を眷属たちに伝え、愛ある行動をする必要がある。
それは、この世界に来てから心がけていることだ。
この先もずっと、その気持ちを忘れないようにいようと強く思った。
今日は12時10分にも短い1話(余談)を投稿します。




