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101 呪いではなく祝福

「あー、疲れた」


「俺、もっと続けられるよ」


「うるさい」


ベッドに寄り添うように寝転がりながらも、体を擦り合わせてくるポプルスを押すが、全く離れてくれない。

諦めたように息を吐き出し、ポプルスを真っ直ぐ見つめる。


「休憩、もういいの?」


「違うわよ。確認しようと思ってね」


首を傾げるポプルスの腕を解いて起き上がると、ポプルスも体を起こした。


「死ぬまで、私のモノで本当にいい?」


柔らかく微笑んだポプルスが、肩におでこをつけてくる。


「ノワールちゃん、好きだよ。愛してる」


「はいはい。欲しかった答えじゃないけど、それでいいわ」


クスクスと笑い声を漏らしながら顔を上げたポプルスは、私の左を取って、薬指にキスをした。


「俺が頑張って稼いで買うから、それまで指輪は待ってね」


「いらないわよ」


「いるよ! いる! 俺がノワールちゃんのモノって印は必要だからね」


「それは首輪を着けてもらうから問題ないわ」


「首輪?」


瞳をパチパチさせるポプルスの首を軽く掴む。


「そう、私以外、外せない首輪よ。私にだけ尻尾を振るんだから、いい考えでしょ」


「いいけど、指輪も必要だよ」


悪どい笑みを浮かべて言ったのに、すんなり受け入れられると、顔から感情を失くしそうになる。


「指輪は俺に買わせてね」


「好きなようにすれば。でも、どこでどう稼ぐの?」


「空いた時間はシーニーの助手になる!」


「シーニーに迷惑がかかるから却下」


「えー、飛べないから出稼ぎにいけないのにー……」


「それもそうね。だったら、作る?」


「俺でも作れるの?」


「作れるわよ。材料は明日にでも採りに行きましょ」


「うんうん! 嬉しい! ノワールちゃん、最高!」


子供みたいに大袈裟に抱きついてくるポプルスの背中を、柔らかく叩く。


「ポプルス、印を付けてしまいたいの」


「分かった。俺はどうすればいい?」


私が「私のモノになれ」って言ったし、印も付けるって話を進めているんだけど……もう少し魔女に対して警戒してほしいくらいだわ。

信用されている、愛されているって喜ぶべきところなんだろうけど、こうも盲信されると逃げたくなるわね。


ニコニコと効果音がつきそうな笑顔で返事を待っているポプルスの頬を引っ張った。


「痛いよー。なんだかノワールちゃん凶暴になってない?」


「なってないわよ」


少し赤くなった頬を自分で撫でているポプルスから視線を逸らし、浮遊魔法で机からペンとインクを手元に持ってくる。


「ポプルス、寝転んで」


頷いて、素直に仰向けで寝転んでくれるポプルスに跨り、血を混ぜたインクでポプルスに胸に魔法陣を描き始めた。


「くすぐったい」


「我慢して。曲がると描き直しになっちゃう」


「ノワールちゃんのモノになるって、具体的にはどうなるの?」


「呼び寄せができるようになるのと、ポプルスの居場所が私に分かるくらいよ」


後は、私以外がポプルスを殺せないようになるんだけど、これはある意味呪いに近いから言わないわよ。

伝えて、滅多なことじゃ死なないからって無茶されるのは嫌だからね。

ただ、成長を止めるわけじゃないから、老いたら死ぬのよね。

だから、祝福って言葉の方が綺麗か。


「それだけ? 死んだ後は何もないの?」


「魂が吸収できるかどうかは試してみるけど、相性があるから難しいのよ」


これに関しては、奴隷紋にもかかっているんだけどね。

どっちも失敗するとは考えられないから、間違いなくポプルスの魂は私のモノね。


「そうなんだ。でも、そこは頑張って吸収してほしいかな」


ポプルスの性格が混ざるのはちょっと……いや、その時も私の我が勝ちそうだわ。


「できたらいいわね」


魔法陣を描き終わり、魔法陣の上に手を置いて『コウナウトウカリ』と唱える。

魔法陣の線の上を魔力が走るように、手を置いている場所から徐々に魔法陣が青くなっていく。

そして、魔法陣が青に染まると淡く光り出し、手のひらから魔力がぬけていく。


初めて使用する魔術のため、どれだけの魔力が必要なのか不安だったが、半分ほどの魔力を使ったくらいに魔法陣が強く光りポプルスの中に入っていった。

異変は感じない。

成功したようだ。


息を吐き出すように体から力を抜き、ポプルスの上に倒れ込んだ。


「大丈夫?」


「大丈夫よ。違和感はない?」


「うん、何も変わらないよ」


「よかったわ」


頬にキスをしてくるポプルスを見つめていると、唇を重ねようとしてきたので、顔を押した。

悲しそうに目尻を下げられるが、無視をして話し出す。


「やっぱり指輪を作るんじゃなくて、刺青でも入れる?」


「どうして?」


「あなた、手元に残らないとか、取られるとか、変なこと言ってたでしょ。刺青なら皮を剥がされない限り大丈夫よ」


「嬉しい! 嬉しいけど、なんか違うから指輪がいい」


「そう。なら、指輪にしましょ」


「うん。それに、俺の中にはノワールちゃんの魔法陣があるからね。これは絶対に取られないから、髪の毛はもう諦めるよ」


まだ髪の毛を引きずっていたの?

しつこすぎない?

常軌を逸脱した心すぎて、本当に早まったかもって遠い目をしそう。


「ねぇ、ノワールちゃん」


「なに?」


「ありがとう」


「何のお礼か分からないけど、どういたしまして」


顔を寄せてくるポプルスと軽いキスをして、微笑み合う。

手を動かそうとするポプルスを止めると唇を尖らせてきたので、尖らせている部分を強く掴んで引っ張ってやった。


抗議を受け付ける気はない。

だって、外が薄暗いということは、夕食の時間が近づいているということ。

アピオスたちを待たせることはできない。


そのことを伝えると、ポプルスはあっけらかんと甘い雰囲気を消した。

ポプルスの切り替えの速さに称賛を送りたい気持ちになり、頭を撫でると、はちきれんばかりの笑顔を向けられた。


ポプルスとこの先を歩むということは、きっとこういうやり取りの連続なんだろうと頭に浮かび、小さく笑ってしまった。

面倒臭いと思うけど嫌じゃない。

心地いいと感じるほど、ポプルスを好きになっていることを改めて実感したのだった。




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