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99 私のモノになれ

屋敷に戻ると、庭に寝転んでいるポプルスを見つけた。


シーニーにポプルスは昼寝をするって聞いたけど、庭で寝ていたの?

布団もブランケットもなく地面の直って……。


少し呆れながらも、ポプルスの横に降り立った。

ポプルスは気持ちよさそうに太陽の光を浴びながら眠っていて、銀色の髪がキラキラと反射している。

1束掬い上げると、捕らえることができない水のように手から流れ落ちていく。


この恋愛脳バカは、本当に救いようないわ。

そこまで好きな人に盲目になれるって、ある意味才能なんだろうけど、ポプルスの場合は「1人になりたくない」っていう依存のようにしか思えないのよね。

まぁ実際、私に対してもそんな感じがするし。


小さな息を吐き出しながら腰を下ろした。

地面についた私の手を握ってきたポプルスは、口元を緩ませておでこを腕に擦り付けてくる。


「ポプルス、起きたの?」


反応が返ってこないので手を勢いよく離したら、ポプルスは「うー」と唸りながら眉間に皺を寄せている。


眠っているフリをしているのかと、頬を軽くペチペチと叩いてみたが、ポプルスの瞼は開かない。

代わりに叩いてた手を掴まれ、強く握られる。


起きてない?

いや、起きているけど構ってほしいから寝ているフリをしてる?

ってことは、我慢比べでいっか。

ここから動けなくなったけど、考え事をするだけならどこでもできるものね。


ポプルスを放置することが決まり、視線を晴れ渡っている綺麗な空に向けた。

雲1つない青空が、少し目に痛い。

澄んでいる空は心を癒してくれるはずなのに、なぜか目を背けたくなる。


「やだなぁ。なんだろな、このバカ丸出しの気持ち」


ポプルスとルクリアの話を聞いて、真っ黒な気持ちが心で渦を巻いた。

あれほどポプルスがしたいようにすればいいと思っていたのに、今はあんな女のために動いてほしくないと考えてしまっている。


ルクリアという人物の話を聞き始めた時は、「ああ、乙女ゲームのヒロインと同じ愛されキャラか」と思った。

ハーレムルートを完走できるほどの心優しい令嬢、「私のために争わないで」と本気で口にできる人種。

それが、万物に愛されるヒロイン。ご都合主義な設定の絶対王者。


「私にとっては異世界だし、そんな人もいるか」という軽い感想だった。

でも、話が進むにつれて、本当に気持ち悪くて仕方がなかった。


私自身、お互いに特定の相手がいなければいいんじゃないという考え方だから、体を重ねることへの貞操観念は緩い方だという自覚はある。

だけど、相手は選ぶし、お願いされたからってヤることはない。

そこまで簡単に体を渡すことはできない。


ルクリアは異常だ。

全員から愛されたいという願いからの行動なのかどうかも、自分と違いすぎて分からない。

純粋とは違う。

私からすれば、狂気の沙汰としか思えない。


それに、好きな人を悲しませてまですることなのかと聞きたくなる。

絶対にポプルスは悲しんだはずだ。

男の影がない私に対してあそこまで執着するのだから、誰彼構わずベッドを一緒にするルクリアには泣いて懇願したことだろう。

でも、ルクリアは止めなかった。


ポプルスはそんなルクリアを愛し、今もなおルクリアへの想いを秘めている。

私よりもルクリアを好きなんだと思う。


「はぁ、しんど」


狂っている女に負けるとか、無理すぎる。

腹が立つ。

というか、そう思ってしまうほど、ポプルスを好きになっていることがムカつく。


3年経ったら、アピオスたちと一緒に出て行ってもらう予定だった。

真剣に受け入れるにはポプルスは重すぎるから、3年だけの期間限定だからと適当にあしらっていた。

だから、面倒臭いことや鬱陶しいことが起こらないならいっか、くらいだった。


それなのに、ルクリアのために命を落とす勢いで行動するかもしれないポプルスに何度も胸を痛めてきた。

気付かないフリをしてきたが、軋む心はポプルスを愛してしまったと伝えてきていた。


でも、自分が縛られたくないから、ポプルスを縛るつもりはなかった。

私も好きなようにしたいから、ポプルスも自由に動けばいい。

これからどれだけの時を生きるか分からない私の、ほんの一瞬の出来事にしかならない男なのだから。


「あー、私もとことんバカなのか……いやだ……」


あそこまでのお花畑女を好きだったポプルスを嫌いになってもいいはずなのに、わざわざ悩んだり腹を立てたりすることにも嫌気が差してくる。

しかも、考えている最中に「好きだ」だの「愛している」だのと表現してしまっている。

初めて誰にも渡したくないと思うほど、気持ちを強くしてしまっている。


グースに聞いた話で唯一よかった部分は、ルクリアに頼まれても他の女性と寝なかったことだ。

もしそれをしていたのなら、ポプルスを軽蔑して嫌いになっていたと思う。

私は、そこまで心が広くない。

ポプルスさえも気持ち悪いと思うはずだ。


ってか、少しだけ軽蔑というより、ルクリアに好きなように使われてんじゃないわよ! って怒鳴りたいほどには不快感があるけどね。


「はぁ、全部受け入れるか……」


ポプルスを好きなことを認め、離れていかれるのが嫌だということも自覚しよう。

それと、なんかもう全部が全部腹立たしいから、ポプルスを私のモノにしてしまおう。


「ポプルス、起きて」


空いている方の手で、ポプルスの鼻を摘んだ。

段々と顔に皺を寄せていくポプルスを見つめていると、ポプルスは勢いよく目と口を開け、大きく息を吸い込んだ。

数回深呼吸を繰り返したポプルスは、私に気づいて瞳を瞬かせる。


「ふぉれ、フォファールちゃん。ふぁふぃ、ふぉれ?」


鼻を強く引っ張りながら放すと、ポプルスは顔を顰めて、涙目になりながら見てきた。


「ポプルス、あなたを私のモノにするわ」


「へ?」


「結婚をして、あなたに私の印を付けるわ。私から絶対に逃げられないと思いなさい」


「……本当に?」


「これからは、私の許可なく何かをすることは許さないから。全部、私におうかがいを立てるのよ。分かった?」


コクコクと頷くポプルスの頬に手を添える。


「私だけを一生愛しなさい。私以外の女に目もくれようものなら、地下室に放り込んで監禁するからね」


目尻から涙を流したポプルスは、体を起こし、震える腕で抱きしめてきた。

ゆっくりと包み込まれたのに、きつく強く腕の中に閉じ込められる。


「嬉しい。俺、絶対にノワールちゃんから離れない。ずっと一緒にいる。好きだよ。愛してる。だから、ノワールちゃんも他の男に優しくしちゃダメだよ。俺だけを求めてくれないと、俺何をするか分からないよ。好きだよ、大好き。ずっと側にいる。朝も昼も夜も何をするのも、部屋ももちろん一緒だよね。ああ、夢みたい。プロポーズされていたけど、こんなに早く結婚できるなんて、幸せすぎて怖い」


いや、待って。私の方が怖いから!

えー、んー、これ、もしかしなくても早まった?




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