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9 救出

「うーん……このまま飛ぶと寒いよね。服は見当たらないし、シーツやカーテンは大きすぎて重そうだからなぁ。タオルもらうか」


少女を抱えたまま廊下に出ると、すぐに掃除をしている侍女たちに出会った。


目を剥く侍女たちに挨拶代わりに方手を上げただけなのに、侍女たちは皆後ろに倒れてしまった。

王城での出来事を知っているんだろう。

公爵家だし、私が現れた謁見室に当主がいたのかもしれない。


「大きめのタオルが欲しいんだけど」


「ぇ、え、え」


腰を抜かせて震えている侍女たちは、顔を青くして泣いている。

そこまで怖がらなくていいじゃないかと思うが、これが世間一般の反応だということも理解している。


「だから、大きめのタオルが欲しいの。持ってきてくれないなら取りに行くわ。どこにあるの?」


「ぁ、あ、あちらに……」


あっちだけじゃ分かんないから。

指しているのは方向なの? それとも、目の前のドアなの?どっち?


試しに目の前のドアを開けてみたが、少女がいた部屋と変わりない普通の部屋だった。


これは、もう私のローブの中にこの子を入れて、帰った方がいいかもしれないな。


少し我慢してもらうしかないと思って飛ぼうとした時、天井からツツツッと糸を使って蜘蛛が降りてきた。


「ランちゃん、来てくれたの?」


「当然やないの。うちが案内するやないの、ご主人」


「ありがとう」


お礼を伝えると、ランちゃんは嬉しそうにゆらゆら揺れた。


蜘蛛だけど魔物だからか、お尻以外からも糸を吐き出せるようで、ランちゃんは8本ある足のうちの2本を使って、足から糸を飛ばし華麗なアクロバティックを披露しながら進んでいく。


ランちゃんを見失わないように、尻餅をついている侍女たちの横を通り抜ける。


浴室に到着するまでの間に、何人もの使用人に出会ったが、皆一様に目を疑い固まっていた。

尻餅をついた侍女のように腰を抜かす人もいた。


その全てを無視して、少女を抱えたままランちゃんを追いかける。


「あったあった」


着いた先は、浴室ではなくシーツやタオルや寝具や洗面用具などの収納庫だった。

その中からバスタオルを1枚拝借し、少女を一旦降ろしてからバスタオルで包み、再度抱え上げる。


「……ぁり、がと」


抱きつくようにローブを掴まれ、柔らかく少女の背中を叩いた。


友達の子供が着替えている途中で裸で駆け回ってた記憶があるから、裸を気にしないと思ったんだけど、状況も年齢も違いすぎたわ。

そりゃ裸は嫌だよね。

手っ取り早く帰ろうとしてたことは、永久に黙っておこう。

ランちゃんが来てくれて本当によかった。


「騎士が集まっているやないの、ご主人」


「え? どこに?」


「玄関ホールやないの、ご主人」


あ、そっか。

ランちゃんは、近くの蜘蛛と念話できるんだった。

タオルの場所もだけど、屋敷にいる蜘蛛が教えてくれたのね。


「だったら、この子を連れて行くこと話しとこっか。誘拐したって騒がれても困るしね」


と、言ってみるが玄関ホールの場所は分からない。

素直にランちゃんに場所を聞き、玄関ホールまで連れて行ってもらった。

そこには鎧を着た屈強な騎士たちが剣や槍を構えていて、騎士たちの前にはひょろっとした男性が威張るように立っている。

私に気づくと、男性は目尻を吊り上げて怒鳴ってきた。


「私の物に手を出すな!」


小刻みに体を震わせながらしがみついてくる少女を落ち着かせるように、背中を優しく撫でた。


いやー、怒鳴り声に私も体がビクつくかと思ったけど、全くないわ。

心穏やかな平常心だなんて、本当にいいとこ取りの性格になったのね。


「うるさいわね。怒鳴らないと会話できないって小心者がすることよ」


「なっ! 貴様、魔女だからといって生意気だぞ!」


「どっちが生意気なのよ」


「私は、この国で代々続いているレペスデーザ公爵家の当主だ!」


「だから? 魔女の私に人族、ましてやたかが1国の階級なんて関係ないに決まっているでしょ」


「私の物を奪おうとしているくせに関係ないわけがないだろ!」


いや、そこに階級関係ないから。

公爵家だから奪っちゃいけないけど、平民からならいいって法則ないからね。


「奪うんじゃなくて、はじめからお金を渡そうと思ってたわよ。この子をいくらで買ったの?」


「売るわけないだろうが!」


鬱陶しいし、うるさいなぁ。

普通に会話できる人が少ないって、この国ってクズばっかなのかな?

本当、驚き桃の木20世紀だよね。


あ、久しぶりの昭和臭が出てきた。

こっち来てから消えつつある昭和臭。

ノワールと混じるのに要らないとされた昭和臭が残ってて嬉しいわ。


「お金か、死ぬか、どっちがいい?」


「なっなにを!」


だって、この子を置いていく選択肢なんてないんだから、ウダウダされたら埒が明かないじゃない。


「だから、お金か、死ぬか、選ばせてあげるって言ってるの」


うーん、肌がピリピリするのは殺気なんだろうなぁ。

数名睨んでいるもんね。

殺したくないし戦意喪失してもらおう。


公爵と騎士たちから視線を逸らさずに、片手を階段に向け『マデン』と唱えた。

瞬時に階段の一部と壁が爆発し、庭が顔を覗かせる。


息を飲み込む音が何個も聞こえ、騎士たちの顔から表情が抜け落ちていく。

後ろに倒れるように転けた公爵の顔色は悪く、震えているため後退できていない。

足をバタつかせていて、みっともない恰好を晒している。


「で、この子はいくらで買ったわけ?」


いつの間にか横からいなくなっていたランちゃんが、天井から降りてきた。


「大金貨5枚やないの、ご主人」


「ランちゃん、調べてくれたの? ありがとう」


嬉しそうに揺れるランちゃんから、怯えて立てそうにない公爵に瞳を向けた。

短い悲鳴をあげられるが気にしない。気にもならない。


「今持ち合わせていないから、後で持ってくるわ。いい?」


コクコクと頷くのを確認してから、穴を空けた壁から外に出て空に向かって飛んだ。


家の中にいる者たちがノワールから視線を元の場所に戻すが、そこに蜘蛛の姿はなくなっていた。




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