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ファンタジー

身代わりで王になった夫が異世界から戻る日

作者: めみあ


《そちらへの土産を何にしようか迷ったが

 ドラゴンの鱗にした。

 これは一生食べていけるほどの価値がある。

 俺がいなくて大変だったろう。

 これを売って好きなものを買うといい。

 もうすぐ役目も終わる。早く会いたい》

  

「お父さん……」

 手紙を読み終えた娘が何か言いたげに私を見た。

「何も言わないで。お父さんは本気なのよ」


 地球にはドラゴンはいない。ドラゴンの鱗と言われて誰が信じるのか。変わった形の屋根の瓦ですねと言われるのが関の山だ。あちらでは貴重なものかもしれないが、ここでは無価値。

 

「たった十年の間でそんなこともわからなくなる?」

「それだけ必死に生きているのよ。あまりお父さんを責めないでね」

「責めてるわけじゃないけど、他にもあるでしょ。宝飾品とかさ」

「王族の宝飾品……見てみたい気もするわね」

 

 母娘の会話を黙って聞いていた王様が「うむ」と言って大きく頷いた。


「お父さんの顔でうむとか言うと笑っちゃうね」

「こら、王様に失礼でしょ、ふふっ」

「そなたも笑っておるではないか。母娘揃って無礼であるな」


 今、我が家には異世界の王がいる。10年眠りから覚めない呪いをかけられて10年目、今朝眠りから覚めた。


「十年もの間、大義であった」

「うちは王様が入った棺のような箱を保管していただけです。王様の国の方は大変だったと思いますよ。夫が王様のお仕事ができていたかどうか」

「それは心配ない。我が国は優秀な家臣ばかりだからほとんど座っているだけだ」


 そう言って快活に笑った王は、夫と瓜二つの顔をしている。夫は王の身代わりとして異世界に呼ばれた。魔術で王様と同じ顔を探し、夫を見つけたという。

 娘が言うには、異世界へは突然召喚されるのが基本らしいが、この国の人はちゃんとインターホンを鳴らしてやってきた。


 異世界人だと信じた理由は魔法で花粉症を治してくれたから。それだけで私と娘は無条件に信じた。


『貴公にしか頼めない。どうか国の安寧のために協力してもらえないだろうか』


 あの日宰相に頭を下げられ、私たちは家族会議の末に了承した。

 夫と私はその時40歳。娘は16歳。夫は身体を壊して休職中だったし、娘も金銭以外は親の手を必要としなくなった。家族間も変化を望んでいたからこの話は良い機会だった。


 都内のマンション住まい。隣近所の付き合いもない。さらに夫は親兄弟とほぼ絶縁状態で私の実家も遠方ときたら、人ひとりが十年消えても気づかれないものだ。


 金銭面で不安はあったけれどなんとかなった。いや、なんとかした。一生大病をしない&美肌というニンジン(ごほうび)が目の前にぶら下がっていたら誰だって本気を出す。

  


「宝飾品と交換しましょうか」

 ずっと部屋の隅で成り行きを見ていた宰相が遠慮がちに声をかけてきた。宰相は数日前からここにいる。夫は異世界から物を持ち込めないので土産と手紙を届けてくれた。


「お気遣いなく。つける機会もありませんし」


 私の言葉に王が「ふむ」と言って初めて視線を合わせてきた。


「そなたは着飾れば美しいであろうに。遠慮せずとも受け取るがいい」


「美しいって……」


 夫と同じ顔で言われると妙に照れてしまう。なぜか娘がニヤニヤして肘打ちしてくる。


「……王妃もそなたのように表情がわかりやすければいいのだが。十年ぶりの再会で喜ぶ顔が見られるかどうか」


 ポツリと王がつぶやいた。

 

「目覚めてすぐだから不安にもなりますよ。じゃあ、もう少しだけここにいたらどうですか? 王様、こっちの世界をまだ見てないじゃないですか」


 娘が「ね、お母さんもそう思うよね」と続ける。


「なによ急に」

「だって……お父さんがお母さんを褒めてるの見たことないし……この十年、お母さんがオシャレもしないで頑張ってきたのを見てきたから、これをキッカケに綺麗にしてくれたら嬉しいと思って」


「それは違うぞ。わたしからの褒め言葉など意味がない。そのように愚かなところをみると、人を愛したことがないのであろう」


 王の言い方にカチンときた。夫と同じ顔で娘を馬鹿にされたからかもしれない。


「そうやって敵をつくるから呪われたんじゃないですか? ただ眠っていただけの王様が国に戻っても、また同じことが起きるかもしれませんね」


 呪われた理由は教えてもらっていないが、王弟が絡んでいるらしいことを宰相が匂わせたことはある。解決したとはいえ遺恨が残っていそう。


「ほう、ここは王を侮辱しても許される国のようだ。我が国であったら首を刎ねられているぞ」


 王の言葉に体がこわばる。宰相の隣で直立不動だった護衛が剣に手をかけていたからだ。

 

「まあよい。間違ってはいない。だがそのようにあけすけにものを言われるのは新鮮だ。娘の言うとおりもう少しここにいようか」


 私が勢いよく首を横に振ると、王は「ハッ」と笑い声のようなものをあげた。


「冗談だ。わたしも王妃に会いたくなった。王妃はな、表情のない人形などと陰で言われていて、一部の臣下はまだ他の妃を勧めてくるのだが、わたしは今のままがいいのだ」


「何の話ですか」


「長く共に過ごした者にしかわからぬ情もあるということだ。さて、もう戻らねば。もし我が国に来ることがあれば歓迎しよう。世話になった。さらばだ」



 と言って、王達は玄関から出ていった。箱を忘れているのに気づき慌てて外にでると既に姿はなかった。

  

「やっぱりドラゴンの鱗をお土産にするお父さんの方がいいね」


「そうね」


(長く一緒にいるからわかることもある……か。この十年をカウントしなくても連れ添って二十年。まだまだヒヨッコみたいなもの。あと数十年後はどんな心境になるのかな)


「異世界がどんななのか詳しく聞きたかったなあ。いざとなったらあっちに住もうか。ドラゴンのうろこを売ってさ」 


「そうね」


 ふと鏡を見れば疲れた表情の自分。姿勢も猫背気味に見える。

 

「あーー! ご褒美をもらってないじゃない!! 健康と美肌!!!」





 




「ただいまー」


 のんきに帰宅した夫が最初に見たものは、鏡の前で騒いでいる妻と娘。「あ、おかえり」とついでのように迎えられた。


 

 その後判明したのは、王が置いていった箱に入り眠れば健康体になり美肌効果もあるということだった。


 箱が異世界と繋がっていて力を注がれているそうだが、望めばあちらにも行けるらしい。


「お母さん行こうよ」

「綺麗なところがたくさんあるんだ。君に見せたい」


 二人から行こう行こうと頻繁に誘われるが、私は気乗りしない。君に見せたいなんて今までの夫なら言わなかった。聞けば、すぐに夫を偽物と見抜いた王妃から、しょっちゅう言葉が足りないとイヤミを言われていたそうだ。



 王妃にちょっとヤキモチをやいているから会うのを躊躇っているだなんて、言えるわけがない。



 



 


 




エラーが頻繁にでて、コピーするたびにドキドキしました……でもあとがきやあらすじをゆっくり考えられるのは助かりますね。


【追記】  

 あとでちゃんと読み返したら、セリフの切り貼りが失敗していてわかりにくい箇所がありましたので、少しセリフを追加しました。



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