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婚約破棄からのツイーッ

頭を空っぽにしてお読みください。

※本物の祭りとは随分違います。

異世界アレンジ効いてます。


国内外のワイン醸造家が集う品評会が海辺の街で開かれた。今年のワインのナンバーワンを決める一大イベントである。


醸造家のご令嬢とその姉、彼女たちの婚約者二人も参加している。

今日は人目があるからか、婚約者の男はおとなしくご令嬢の隣で微笑んでいる。


会が始まってしばらく経つが、婚約者の男と姉は、あまり興味がなさそうにしている。一方で、ご令嬢と姉の婚約者である商家の息子は目を輝かせ、他の醸造家と交流を図っている。


「このワインはもしかして」


「ええ、希少な品種を使っておりましてね」


「まぁ!そちらの地方では斑点病があったとお聞きしましたけれど、無事に醸造できたのですね。素晴らしいわ」


「ええ、ただでさえ希少なのに収穫量が減ってしまったものですから大変でした。日の目を見られて私たちもホッとしているところです」


ご令嬢と他の醸造家が熱心に話している後ろで婚約者の男はただ静かに頷いている。


「私にも試飲させていただけますか?」


そう言って輪に入っていったのは姉の婚約者である商家の息子だ。


「うん、味わいが素晴らしいね。先ほどの会話が少し聞こえてきたのだが、生産量が少なかったとか」


「ええ、あまりにロット数が少ないのでコストが嵩んで困っています。赤字にならなければ御の字という気持ちです」


「まぁ、せっかく素晴らしい出来ですのに」


ご令嬢が悲しそうな顔をすると、醸造家の男は諦めたような笑みを浮かべる。


「老舗醸造家のご令嬢にそういっていただけるだけで、ありがたいです。貴方がたのワインも飲ませていただきましたよ。今年は特に奥深い味わいでしたね」


「まぁ、ありがとうございます」


会話が一区切りついたとき、ここぞとばかりに婚約者の男が言った。


「私は少し食事を取ってくるよ」


この会場にはワインに合う軽食が並べられている。


「私もご一緒するわ」


姉はすかさず男の提案に乗った。二人は輪から抜け出して楽しそうに笑い合っている。


その様子を見て静かにため息をつくご令嬢に、商家の息子も肩をすくめる。そして、醸造家に向き直るとこう言った。


「彼女が言うように、貴方がたのワインはとても素晴らしいと思う。どうだろうか?我が商会が余っている分を全て買い取るというのは。もちろん、値段は交渉させてもらうが、ロット数が少ないことはマイナス点にはしない。むしろ希少価値が上がると考えようではないか」


商家の息子の提案に、醸造家は破顔一笑した。


「ええ、ええ、ぜひ交渉にあたらせてください。私どもは他のワインも造っております。後日、商会にお待ちしますのでそちらも試飲してみてください」


二人の交渉を聞きながら、ご令嬢は嬉しそうだ。商家の息子とご令嬢は目が合うと微笑みあった。

その様子を遠くから目ざとく見つけた婚約者の男は、側で給仕をしていた男から酒をひったくるように取り、一気に飲んだ後、ツカツカとご令嬢の元へ戻って来た。


「随分と仲睦まじい様子じゃないか。おとなしいふりをして、とんだあばずれだ」


急に何を言っているのだろうか。ポカンとする周りの者を無視して、婚約者の男は捲し立てる。


「だいたい、ワインなんてどれも同じではないか。どれもこれも苦い。この味を守るだの、今年の出来はどうだの、どうでもいい!」


よく見ると、男の目が据わっている。酔ってしまって本音が洩れているのだろうか。


「俺の分からない話ばかりしやがって。こんな頭の固い女との婚約は破棄して、俺はこっちのスイーツ脳(笑)の女と結婚する!

会社を乗っ取って、ワイン造りなんて辞めて、ブドウじゅーちゅをつくるんだ!」


そう言って男はご令嬢に向かって指を指した。姉はうん、うん、と頷いている。


「ええ、ええ、私もお酒よりスイーツが好きよ。私が作った新作はこちら。いつもバッグに忍ばせているの。皆様どうぞ…って、ゴルァ!

スイーツ(笑)ってなに?バカにしてますの?おーん?」


そう言って男の口に、自身が作ったと言う棒状の菓子を突っ込んだ。


ガリィィィ!!!


「硬てぇぇぇぇ!!!」


ついでに男が指していた指をへし折る。


「痛てぇぇぇ!!!」


叫ぶ男の前歯が欠けている。姉が配ったお菓子を手にした人たちは震え上がっている。


「あら、これは噛まずに口に含むのよ。そうしたら柔らかくなるわ」


恐る恐る菓子を口に含んだ人たちから感嘆の声が上がる。


「おお!柔らかくなった!素朴な甘さでとても美味しい!」


「お姉様、こんな才能があったなんて知りませんでしたわ!このお菓子、辛口のワインにも合いますね!」


ご令嬢も嬉しそうだ。姉はへへんと照れている。


「私は妹のようにお酒に詳しくありませんからね。我が一族の辛口のワインにも合うスイーツを研究していましたのよ。残念ながら私の婚約者は甘いものが苦手なようで。妹の婚約者殿に試作を渡して感想を聞いたりしていましたのよ」


そう言いながら姉は、自身の婚約者である商家の息子に微笑みかける。


「私、やっぱり甘いものが苦手な貴方とは結婚できそうにないわ。そういうわけで婚約破棄、いいですわよね?貴方にはもっと似合う人がいますでしょう?」


商家の息子は姉の提案に笑いながら承諾する。


「ああ、その提案、ありがたく受けさせていただくよ」


その言葉を聞いて、給仕の男たちが素早く全員にワインを渡す。それを確認してから、姉が声高らかに言った。


「は〜い!婚約破棄一丁、いただきましたァ!さぁさぁ皆さん!一緒に乾杯いたしましょう!せ〜の!」


「「ルネッサンス〜!」」


乾杯の発声と共に、戦車がキャタピラをキュルキュルいわせながら入ってきた。戦車の上には俺の他に、有名な女性歌手が立っている。まるで女将軍のようだ。

戦車の後には、カラフルな衣装を羽織った踊り子たちが列を成している。


「先頭には私が立つ!続けぇ!!!」


俺が指揮を取ると、爆音で演奏と歌手による生歌が始まる。


「よっちょれよ!!」


「よっちょれよ!!」


「よっちょれ!よちょれ!よっちょれよ!!」


商家の息子は列の前の方で大きな旗を振っており、姉も前列でキレッキレの踊りを披露していた。周りの者たちも熱気のあるマツリに吸い込まれるように踊りの列に加わり、好きに踊っている。


その頃、ご令嬢の婚約者である男は、前歯が欠けたまま、ポカーンとしていた。そんな男の元へ、ご令嬢がワインが入っているであろうグラスを持ってくる。


「飲んでみて」


そう言うご令嬢に、男は顰めっ面をした。


「嫌だ。お前らの家のワインは辛口で飲めたもんじゃない」


クスッと笑ったご令嬢は、ズイとグラスを男に差し出す。男はしぶしぶグラスを受け取って口にした。


「む、美味しい…」


思わずそう言った男に、ご令嬢は満足そうな顔で頷く。


「ほら、辛くない。怯えていただけなんだよね、糖質の少なさに。これは私が造った甘口の白ワイン。どう?これなら貴方でも飲めるでしょう」


「あ、あぁ」


男は意外そうな顔で、まじまじとご令嬢を見つめた。しかしご令嬢は視線を逸らし、肩を震わせて顔を伏せてしまった。


「婚約破棄、私も受けさせていただくわ。貴方にもきっと、他に相応しい人がいると思うの…

一緒にじゅーちゅ(笑)を作ってくれる人が」


「おい、今(笑)って聞こえたぞ。思いっきり噛んだことをディスったな!性根の悪い女だ!」


顔を真っ赤にした男はご令嬢に向かって襲いかかってきた。その瞬間、デカい魚が男の身体目掛けてバチーン!と飛んできた。


「ぎゃふん!ギョギョー!!」


そう言って男は魚と一緒にツイーッと滑って行った。


「すみません!一本釣りした魚がこっちに飛んできませんでしたか!?辛口の酒に合うツマミをと思って釣ってきたんですが」



——-



そうして賑わいを見せた品評会は、ご令嬢の家のワインが優勝し、幕を閉じた。


その後、ご令嬢と商家の息子が婚約を結び直し、家を継いで日々最高のワインを作っているという。


姉は剣のように硬く、しかし素朴な甘みのある菓子が大人気となり、『剣ピー』と名づけ、辛口のワインと一緒に販売した。


ご令嬢の元婚約者だった男は、魚と横滑りしていた姿を見たマダムから、素晴らしいパフォーマンスだったと絶賛され、彼女の支援を受けてジュースを製造、販売しているらしい。オーナーであるマダムが名付けた『ぶどうじゅーちゅ』は、子供から大人まで愛される商品となったという。





ツイーッ

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