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俺のマツリ


気がつくと俺は、木でできた机と椅子に掴まった状態で、浜に打ち上げられていた。


「俺は…生きている…?」


先ほどまで感じなかった喉の渇きや飢え、そして身体の痛みが襲ってくる。どうやら、あの世から帰ってきたようだ。不思議な体験をした。


疲れで意識が朦朧としていると、誰かがこちらに走ってくるのが見える。そうして俺は保護された。



-----




次に目を覚ました時、俺はベッドに寝かされていた。なんだかフカフカだ。周りを見渡すと、使用人だろうか?急いで誰かを呼びに行った。


しばらくすると身なりの整った夫婦が慌ててやってきた。


「おお!目を覚ましたぞ!」


「大丈夫?すぐに医者を呼んで!」


どうやら彼らの屋敷に保護されたらしい。感謝を伝え、少し水をもらう。

医者を待つ間、自己紹介をしようと思ったが、自分が誰だか分からない。

あの世の記憶はあるのに、死ぬまで何をしていたか、思い出せなかった。


医者に診てもらったところ、記憶が一部喪失しているとのことだった。所持品は何もなかったが、服装がこの国の国軍の物であったことから軍の関係者だろうと思わる、とのことだった。


この屋敷の主人である夫婦は、この国の貴族らしい。


「少し時間はかかると思うが、国軍に君のことを問い合わせてみよう。君が誰だか分かるはずだ」


「そうね。それがいいわ。貴方は身体が回復して身元が分かるまで、ここで療養するといいわ」


優しい夫婦は得体の知れない俺をここに置いてくれるようだ。本当にありがたい。


数日経ち、時間を持て余した俺は庭を散歩させてもらうことにした。常に俺に付いてくれている使用人と庭に出ると、東屋に可愛らしい少女がいた。


「あら、貴方が記憶喪失の軍人さんね?ごきげんよう。私はこの家の娘よ」


そう言って挨拶を交わした後、お茶に誘ってもらい、同席させてもらう。俺からしたらまだ子供のように見えるが、貴族としては立派な令嬢なのだろう。所作がとても綺麗だった。


何日か、そんな交流が続いたある日、令嬢の婚約者が屋敷を訪れた。

窓から様子を見ていると、二人は少し間隔を空けて庭を歩いている。青年はスタスタと早足で歩き、令嬢は俯いてトボトボとついて行っている。とてもじゃないが仲が良さそうには見えなかった。


その日の夜、家族の夕食に招かれた俺は、助けてくれた夫婦と、娘である令嬢とともに夕食を楽しんだ。


しかし令嬢は浮かない表情をしており、夫婦もそんな娘のことを心配そうに見ている。もしかして、婚約者との仲のことで悩んでいるんだろうか。俺は、素直に聞いてみることにした。


「ご令嬢、昼間に来ていた婚約者と、仲が良くないのか?」


直球すぎただろうか。一瞬、周りの者たちが固まった気がした。しかし、夫婦を見ると、娘の答えを聞きたそうにソワソワしている。


令嬢はひとつため息をついてこう言った。


「…ええ。彼は、私のことなど、どうでも良いのでしょう。いつも従妹の話ばかりしているわ。今日だって、従妹に『行かないで』と言われたそうだけれど、義務だからと渋々こちらに来た様子で、それを隠そうともしないのです」


娘の答えを聞いて、夫婦は憤っている。


「なんてことだ。あちらから望んだ婚約だというのに。こちらの方が立場が弱いからと、娘まで雑に扱うとは許せない!」


「やっぱりそうだったのね。気がついてあげられなくてごめんなさい」


ハンカチを目に当てる奥方に、娘である令嬢は首を振る。


「いいえ、お母様。力の及ばない私が悪いのです。でも、じきにあちらから婚約破棄されると思いますわ。その従妹とは『真実の愛』らしいですから」


婚約破棄…だと?

その瞬間、あの世で経験したことが頭の中を駆け巡った。


「婚約破棄からのザマァ!」


いきなり立ち上がってそう言った俺を見て、夫婦や令嬢は驚いている。


「この案件、任せてもらえないだろうか」



-----




その後、俺が徹夜してまとめた計画を、令嬢の父である当主が全面的にバックアップしてくれることになった。


「面白い!娘を傷つけたアイツらにギャフンと言わせてくれ!

幸い、当家には金がある!アイツらも当家の金だけが目当てなのだろう。アイツらにくれてやるくらいなら、その突飛な計画に使ってくれ!」


俺は当主に、作ってもらいたい物と、計画に必要な人員の確保を依頼した。


「へへ…」


俺は計画実行の準備を進めながら妙な高揚感を味わっていた。これがマツリか…。病み付きになりそうだ。


「こんな記憶喪失になってるときだってのに、わくわくしてきやがった…!」


そしていよいよその日がやってきた。完成した物を見ながら俺は満足していた。


「待たせたな…こいつが俺のマツリだ」

わくわく

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