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婚約破棄からのザマァを知る

※本物の祭りとは少し違うところもあります。異世界アレンジしています。


また何もない空間を歩いていくと、また騒がしい集団がいた。



「「よっちょれよ!!」」


「「よっちょれよ!!」」


「「よっちょれ!よちょれ!よっちょれよ!!」」



今度は大きな戦車のような物の後から、軍隊のように整列した集団がやってきた。先ほどの暴走していた男たちとはまた違う、カラフルな羽織物を着ている。大きな旗を振り回している者、変わった帽子を被っている者、白いランプのような物を持った者、色んな人たちが集団で踊り狂っている。


ダイナミックな動きで一糸乱れぬ舞いをする集団に、思わず足を止めて見惚れてしまった。舞い踊る列を見守る人の中には、勲章だろうか?メダルのようなものを踊る人の首に掛けている人もいた。

よく見ると、酒を飲んでいる人もいた。


案内人の男を見て、戦車から流れる爆音に対抗するように大声を張り、「これは何だ」と問うと、男は首を振って黙っていた。この集団が通り過ぎるまでは聞こえないということだろうか。


集団が通り過ぎて、また静寂が訪れた。改めて男に問うと、なげやりな態度でこう言った。


「あれも祭りだよ。祭り祭り祭り。どこでも祭りに取り憑かれた人間はいるものさ」


「そうか、集団で賑やかに狂ったような熱量を発散させることをマツリと言うのだな」


一人、マツリの解釈を呟いていると、男はまたぶつぶつ言いながら行ってしまった。


「また泥酔して寝そべっている奴らを回収しないといけない。あいつら決まって『酔ってない』って言うんだから」



また歩いていると、今度は妙に湿度の高い集団がいた。何やら机がたくさん並び、その上に本が所狭しと並んでいる。人も溢れるほどおり、どうやら本の売買をしているようだ。


人の密度が高すぎて近づけないが、彼ら彼女らから発される熱気は尋常ではなく、静かなる狂気を感じた。何やら剣のような物がたくさん刺さった袋を背負っている男たちもいる。


「あと同人誌三冊分詰めてくださぁい!!」


「卓番どこよ…!」


混沌とした空間には、ちらほら俺と同郷かと思われる髪色や格好をした人たちもいた。その時、俺の側を通り過ぎた、髪の毛を兎の耳や、馬の尾のように垂らした老婆たちの一言が妙に耳に残った。


「とりま、異世界からの婚約破棄からのザマァっしょ」


『婚約破棄からのザマァ?』


俺の国では、国王夫妻が真実の愛によって結ばれたという美談に感化された一部の者たちによって、『真実の愛による婚約破棄』が頻発していた。


生前、俺に怒っていたアイツは、そんな奴らに憤っていたっけ。


「ザマァか」


俺がボソリと呟くと、案内役の男は目を輝かせながら言った。


「これぞ祭りさ!ああ、オレも案内人でなければ参戦したいのに!」


「ええ!?これもマツリなのか!?

確かに熱量はすごいし、人々の目は血走っているが…

これまで見たマツリのように人々に統一感は感じられないが…」


俺が驚いて言うと、案内人の男はうごめく多くの人々を見て笑った。


「ハッハッ、見ろ、人が無数にいるだろう。この数日間のためだけに生きてきた…いや既に死んでいるが…魂をかけてこの戦場にやってきた強者たちさ。これが祭りと言わずして何と言えよう」


俺がポカンとして見ていると、男はソワソワしだして、ちょっと待ってろよ、と言いながら近くの商人から本を買っていた。大きい、それでいて薄っぺらい本を手にした男は興奮で鼻が膨らんでいる。


「読める!!読めるぞ!!!

三分待ってくれ!あ〜!神様!五体投地しちゃう!!目が、目がァァ!!」


そう言って狂喜乱舞する男を見て、俺は納得した。


「なるほどな。統一感はなくとも、一人一人が己の中の狂気と向き合い、発散し、狂喜乱舞する。マツリとは何て奥が深いんだ…」



案内人の男によると、死んだものの、現世でこういったマツリに取り憑かれた者たちが、この空間で気が済むまで各々のマツリを開催し、満足すれば次の『審判の間』に進むそうだ。


しかし、男が言うには、この『マツリの間』の者たちは、ぜーんぜん満足しないそうだ。常にやってくる新しい人間によってもたらされる情報を取り入れつつ、マツリに傾ける熱量はどんどん加速していくので、この先の『審判の間』にいる偉い人たちが困っているそうだ。


「後が支えているから早くしろ、って言われてんだわ」


一通り本に目を通し、少し冷静さを取り戻した案内人の男が言う。

男は本を懐に仕舞い込むと、マツリを楽しむ人たちを羨ましそうに見ながら先を急いだ。


それから、様々なマツリの横を通り過ぎた。特に印象的だったのは、金色のキラキラした羽織ものを着て、独特な髪型をした人たちが舞っていた光景だった。


「ビーバ、サーンバ!!

オ・ソ・ラ・デ・サーンバー!」


そして一斉に俺を見て、


「「オレィ!!!」」」


「お、俺?」


俺がギョッとしていると、金色の羽織を着た女に手を引かれ、輪の中に入れられた。


「踊ろう、セニョール」


腰が引けた俺は、助けを求めるように案内人の男を見た。しかし、案内人の男の横に、先ほどまでいなかった、案内人と同じような格好をした女がおり、何やら真剣な顔をして話し込んでいる。


手を引かれるがままに、金色の人たちの輪に入り、頭に妙な髪型のカツラを被せられ、女たちに踊りを指導される。


足踏みしながら、棒の先に細いピラピラしたものがたくさんついた物を両手に持たされ、言われるがままに、それをユラユラしていると、案内人の男に呼ばれた。


ほっとして金色の輪から抜け出すと、案内人の男と女は難しい顔をして俺に言った。


「お前さん、世界間違ってるわ」


「えっ?」


思わず俺が聞くと、案内人の女が強い口調で俺に答えた。


「貴方は、この世界の人間ではありません。異世界人です。途中で道を逸れましたね?ダメですよ!管轄外です!帰ってください!」


「そんなこと言われても、どうやって帰ればいいか分からない。

それに俺はこの世界のマツリに感銘を受けた。こちらの世界でお世話になりたい」


俺が口答えすると、案内人の女は持っていたファイルを叩きつけ、喚いた。


「お前の戸籍、ねーからァ!」




机と椅子が窓から投げられる。

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