スカラ・アドミラの結末
「武器商人様!?」
飛び起きる。ベッドでモニカは寝かされていた。
狭間の家の、自分に割り当てられた部屋だ。慌てて家の中を探す。
「武器商人様! 武器商人様!」
何度も呼びかけるが、返事はない。
武器商人の部屋に行くが、そこにもいない。
だが、見慣れないものがあった。
作業台の上に手紙が置いてある。
「これは……けど、今は!」
今は時間がない。
予備の腕時計を探し出して装着すると、武器商人に教わった通り転移する。
行き先について明確な心当たりはない。
けれど、誰の元に向かったかはわかっている。
ウィルゼム・オクトバー。
武器商人を一度出し抜いた男。
武器商人が武器を売ってはいけないと判断した人。
「どこですか……どこにいるんですか!」
最初に訪れた場所は工房だが、すぐに的外れであると気づく。
それまでの日常が繰り返されていた。
世界が滅びようがおかまいなし。
自分たちの武器のせいで、誰が犠牲になろうが……。
「デイコックさん!」
デイコックを探したが、彼はいない。もしかすると同じように探しているのかもしれない。
すぐに転移する。次に訪れたのは立ち入り禁止とされた世界だった。
だが、すぐに過ちに気付く。
「なっ、これは……」
モニカが目の当たりにしたのは、終焉した世界だった。
広がるのは黒い世界。高濃度の汚染物資が蔓延し、あらゆる生命体が即死する惑星。
モニカが生きていられるのは、生まれた世界がそれ以上に汚れていたせいだ。
「ウィルゼムは本当に……自分の星を……」
滅ぼしたとは聞いていたが、ここまでとは。
愕然としたモニカだが、今はそれ以上に大事なことがある。
「くそッ! どこです、どこに……!」
必死に思考を回す。武器商人は、ウィルゼムはどこにいる。
どこで戦う。彼女たちは。
どこを決戦の場所に――。
「あ……そうか……」
モニカは腕時計のヒューズを回す。X軸を固定。Y軸を可変。
「あそこに、いるんだ」
黒の世界に光が輝く。
そして、辿り着く。
もう一つの、絶滅した惑星へと。
「武器商人様の……スカラ・アドミラ様の、世界」
その赤色に、目が眩む。
割れた大地に足が竦む。
それ以上の恐怖が心に巣食っている。
「武器商人様……」
モニカが立つのは武器商人の故郷とされる国だった。
なんとなくここを選ぶ気がした。人は馴染みない場所よりも、馴染みがある場所を優先的に選ぶ傾向がある。
ただの探索ならば前者かもしれない。
けれど、最後の決戦で選ぶなら、慣れ親しんだフィールドだろう。
「でも……」
それでも、広い。
街一つ捜索するのだって困難なのだ。
惑星一つよりはマシだとしても、国の中から見つけ出さなければならないというのは……。
「やるしか、ない」
モニカは目を瞑る。
全神経を周囲の捜索に集中した。
生まれつき持つ特殊能力。
精神感応能力。ミシェプに拾われた理由であり、売り飛ばされた訳でもある。
深淵生物のコントロールは難しかった。
けれど、ひとりの居場所なら探し出せる……かもしれない。
(どこです、どこに……!)
だが、武器商人の精神をなかなか補足できない。
精度が低い。妙な感覚はするのだが、その精確な場所がわからない。
そもそもここは滅びた世界だ。
あらゆる場所にこびりついた精神の残滓が邪魔をしてくる。
「何か……依り代となるようなもの……そうだ!」
懐から取り出す。作業台の上に置いてあった手紙を。
モニカへ、と書かれた封筒を開けて、中の手紙を取り出す。
そして読み込む。武器商人が残した精神の痕跡を吸収していく。
「これ、は……」
素早く手紙を読み終えたモニカは走り出した。
――モニカへ。
まず最初に、ごめんなさい。きちんと謝罪するべきでしたが、このような形になってしまいました。
「武器商人様……!」
体力の限界値など考慮しない。ただがむしゃらに走っていく。
――あなたは、怒っているでしょう。それとも、悲しんでいますか。
私はあなたに傷ついて欲しくなかった。あなたに、死んで欲しくなかった。
あなたの居場所は戦場ではありません。あなたは武器ではないのですから。
許して欲しい、とは言いません。
「ずるいです……酷いですよ……!!」
叫びながら駆ける。地面の亀裂を飛び越える。
――なんて強がりを書きましたが、本当は怖いんです。
私は戦うことが怖い。昔からでした。死ぬのは怖いし、殺すのも怖い。
自分が何もしないせいで、誰かが傷つくのが怖い。
自分が何かしたせいで、誰かを傷つけてしまうのが怖い。
あなたのことも、傷つけてしまいましたね。
「痛くて……うわッ! 痛くて! たまりません!!」
石に足を引っかけて転んだ。でも、胸を駆け巡る激痛が、痛みを感じさせない。
――ごめんなさい。謝って済むことではないとわかっています。
……それでも、言わせてください。あなたにだけは。
あなたを傷つけたくなかった。幸せに生きて欲しかった。それなのに、たくさん嫌なものを見せてしまいました。
本当にごめんなさい。
「謝らないでくださいよ……! こっちの気持ちも考えて!」
――それなのに、不思議なんです。
あなたへの罪悪感と同時に、なぜか、感謝の気持ちも芽生えているんです。矛盾しているとは思うのですが。
助かりました。あなたが傍にいてくれて。
私について来てくれて、良かったって、そんな風に。
「感謝、って、そんな……! あなたより私の方が!」
肺が苦しい。足が痛い。体力的にも限界に近い。
それでも、身体は止まらない。
――私はずっと、どこかで死にたいと思っていました。もちろん、ただの自殺ではなく、意味のある死に方で。私は多くの人に生かされてきました。生きたいと願う人を犠牲にして、生きてきました。
フレデリカが来た時、思ったんです。私もこれで最期だと。
でも、生き延びてしまった。フレデリカは私を殺さなかった。
それどころか……許してしまった。私の何倍もすごい人です。
彼女だけではありません。私が出会ってきた多くの人たち、私が武器を売った買い手たち、今も懸命に生きている人々。無念にも散ってしまった命たち。
みんな、すごい人たちです。
もちろん、あなたも。
「あなたが一番すごいんですよ! 全ての世界の誰よりも! 反論は、認めません!」
息も絶え絶えとなりながら、それでも足を進めていく。
流石に限界を超えたようで歩きになってしまったが、それでも進む。
――私の人生を変えた人は、三人います。
一人目は不知火エレナ。かつての世界での、私の親友。
二人目は先代武器商人。私に生き残るための力をくれた優しい人。
三人目は、モニカ。あなたです。
あなたは、死にたがりの私に、生きる希望をくれました。
世界が滅んだ時に捨て去ったはずの気持ちを、蘇らせてくれました。
「希望は、あなたが……私にっ、くれたん、です……逆です、よ」
ふらつきながらも動く。もう少しだ。強い思念を感じる。
――ありがとう、モニカ。私に生きたいと思わせてくれて。
自分勝手な私といっしょにいてくれて。
私に愛を思い出させてくれて。
本当に、ありがとう――。
「ありがとうは、私の、セリフ……」
苦しくなって立ち止まる。ようやく辿り着いた。下を向き、膝に手をついて息を整えていると、無造作に落ちていたソレが目に入った。
「これは……」
もっとも強く思念が宿るソレを拾い上げる。
色合いは変わっているが、見覚えがあった。気絶する前にも見ている。
「武器商人様の……クリスタル……?」
灰色に変わり果てたクリスタルを手に、周囲を見渡して。
巨大なクレーターを見つけた。
※
暗闇で動く影。赤暗い世界の中で、何者かが不規則な歩みで進んでいた。こつ、こつと響く足音。殺風景な荒野だった。
遠くでは焚き火が燃えている。この世のものとは思えない景色の中で、炎だけは平常を保っていた。
火に近づくごとに、その姿が露となる。
暗闇に負けぬくらい黒色のトレンチコート。そして、同じくらいのダークさを持ったハット。ハットには特殊な加工がしてあった。
黒さに包まれる褐色肌に茶色い髪。自然な活力を持つ少女。
手にはこれまた黒のケースを持ち、しかし歩みは先ほどと変わる様子はなく。
焚き火の元に辿り着く。炎は強い決意の表れのように力強く燃えている。
「誰だてめえ?」
背後から声を掛けられた。灰色の肌の女性が拳銃をこちらに向けている。
「ガバメントですか」
少女の声音は美しく、聞く者を魅了してやまない不思議な力があった。敵の警戒心を溶かして削ぐような、柔らかさが含まれている。
女性は訝しんで少女の様子を確認する。
目と目が合うが、警戒心が先ほどより薄れている。
「もう一度聞く。誰だ?」
「私は武器商人です」
「なるほどね。で、名前は?」
再び問われて、武器商人は名前を口に出した。
「私は――アドミラです」
悲しさを滲ませながらも、誇らしげに。
「そんな武器商人が、俺に何の用だ?」
「武器の売買ですよ」
黒色のアタッシュケースから商品を取り出そうとすると、
「待てよ。俺にはこいつがある」
ガバメントを見せてくる女性だが、アドミラは見抜いていた。
「その武器は中古品ですよね? 壊れた物の中から使えるパーツを取り出して組み立てたリサイクル品です。どうしても劣化は避けられないし、当たり外れもあります」
「そりゃあ、仕方ないだろ。だって」
「この世とあの世の狭間であるここでは、この世から消失した武器で賄うしかありません。ですが、不安でしょう。耐久性に難のある武器では、あなたの悲願は達成できないのでは?」
「……何で知っているんだ?」
「知っているから来たんです。私は、ここではない世界の出身ですから」
「そんなこと話していいのかよ?」
「良くするか悪くするか。それはあなた次第ですよ」
女性はすっかり毒気を抜かれたようで、ケースを指し示す。
「中身はなんだ?」
「これです」
取り出したのは散弾銃だった。ショーティー仕様のポンプ式ショットガンだが、この世界に現存するどの銃器とも符合しないオリジナルだ。
材料もこの世界に存在しない。唯一無二の武器。
「これを使えと?」
「ここでは死者と生者が混在しています。ソウルバレットを用いたとしても、容易く敵は倒せないでしょう。ですが、散弾はとても強力です。倒せなくても敵の動きは確実に止められます。それに」
アドミラは懐からリボルバーを取り出す。ショットガンを地面に置き、リボルバーを撃った。
おい? と声を荒げた女性は、武器の状態を見て驚く。
「ね? 傷一つついてないでしょ。とても丈夫なんです」
「だからって売り物を撃つかよ。だけど、わかりやすいのはいい。気に入った」
女性はショットガンを手に持つと、近くの枯れ木に狙いをつける。
「試射は?」
「もちろん」
ショットシェルを渡すと、女性は慣れた手つきで装填。引き金を引いて木を撃つと、粉々に砕け散った。
「決めた。買うぜ。いくらだ」
「これと同じ銃、持ってますか?」
アドミラはリボルバーを見せた。
「シングルアクションアーミーか。そんなのはごろごろ見つかるぜ。人気が高いからたくさん流れ着くんだ。バージョン違いも選り取り見取り。だが、いいのか? どこでも売ってるぜ。大した価値はないぞ」
「欲しいのは本当ですし、それに」
アドミラは頭を指した。特注のハットから生える、二つの膨らみを。
「同じ獣人のよしみですから」
「いい帽子だな。俺も、帽子を探してみるかな」
女性がアドミラと共通する部位――頭部に生える猫耳へと触れる。
商談は成立した。ショットガンとリボルバーを交換し、アドミラはケースの中に仕舞う。バレルやストックなどが入った専用ケースを渡した。
「けど、いいのか? この銃はシンプルだが、だからこそ強固だ。間違った奴の手に渡ったら大惨事だろうぜ」
「信じていますから」
「信じる、ねぇ。甘いな。だが、甘いのは嫌いじゃない。あんたみたいな人と、昔会ったことがあるぜ」
握手を交わす。腕時計を操作する。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
手を止める。女性はショットガンをいじりながら、
「あんた、本当に武器商人か?」
「自己紹介の通りですよ」
質問に答えたアドミラは転移する。世界に一人分の空白が生まれた。
「武器商人ってのはもっとこう……くそったれだと思ってたんだがな」
それはどこでもない場所。境界の狭間。
誰にも気づかれないが、誰かと話すことはできる。
「……」
沈黙が支配する家の中に、音が侵入してきた。
それを迎えた待ち人へ、アドミラは声を掛ける。
「戻りました」
帰宅した少女は木造の床をゆっくりと歩む。リビングへと進むと、申し訳程度にちくたくと時計が自己主張を始め、
「遅かったな」
同居人が声を掛けてくる。
「フレデリカさん」
フレデリカがリビングでくつろいでいた。リラックスした状態で拳銃のメンテナンスをしている。
「平気だったか、モニカ」
「大丈夫でしたよ。今回は、ですけど」
アドミラ……モニカ・アドミラは、ケースを床に置いて一息ついた。
「次はアタシを連れて行けよ? みんなお行儀がいいとは限らないからな」
「わかってますよ」
「お前は……あいつより圧倒的に経験が少ないんだ。いつ、何をミスってもおかしくない」
「わかってます」
ケースを持って、仕事部屋へ行こうとする。
「おい」
「はい?」
「大丈夫だよな?」
「……もう、大丈夫です」
階段を軋ませながら昇り、廊下を進む。
仕事部屋に入ったモニカはケースを置き、薄暗い部屋の中を見回した。
様々な武器が置いてある。
西洋の剣。東洋の刀。古風な銃。SFチックな銃。
魔術書に、洗脳用の機械。騎士の甲冑にパワードスーツ。
机の上にある一冊の本をモニカは手に取る。
開くと、一番読み込まれているページが出てきた。
――拮抗状態を維持せよ。話はそれからだ。
「拮抗状態にすれば、人々は戦争を止めてくれるかもしれないから」
それは希望的観測に過ぎない。ただの理想論でしかない。
それでも、武器商人は信じ続けた。
そんな武器商人を。スカラ・アドミラを。
モニカは信じている。
……愛している。
リボルバーを懐から取り出し、本の隣に仕舞う。
「新しい物を作らなきゃ……」
平和を作るのは武器ではなく。銃身の文字は力強く刻まれたままだ。
まだ壊れてはいない。丈夫な材質で作られたリボルバーは問題なく動作している。
しかしこの銃はモニカにとって重すぎた。
この銃は二人の物だ。
先代と、武器商人だけの物。
しばらく見つめて、隣に置いてある小さな箱を開けた。
クリスタルが入っている。色を失った。
光が消え失せたそれを見ていると、どうしても思い出す。
あの時の記憶を。
※
「武器商人様! 武器商人様!」
クレーターに向かって走る。身体は限界だったが気にならなかった。
しかし思考とは裏腹に肉体が機能不全を起こしている。
「くッ!」
足がもつれて、クレーターの底へと転がっていく。
全身傷だらけになりながら、立ち上がろうと手をつき、
「熱っ!?」
高温の何かに触れた。苦悶の表情を作り、その原因を見る。
青色の破片だった。
「――ッ!?」
手が火傷するのもおかまいなしに、その破片を手に取った。
火傷よりも鋭い痛みが、全身を貫いている。
「武器商人様!」
破片を置いて、立ち上がる。周辺に目を凝らす。
青いパーツ。青の部品。青色の欠片。
いくつか転がっているが、肝心の本体がない。
クレーターの中を進むと、血の色のような赤の破片もあった。
ウィルゼムの物だ。だが今はどうでも良かった。
「どこですか! 返事をしてください!」
呼び続けながら探す。
「武器商人様!」
しかし返事はない。喉が張り裂けても構わないと、叫び続ける。
「スカラ様!!」
返答はない。焦燥感に駆られたモニカはたまたま目に入った岩が気になった。
「そこですか……!」
根拠もなくその岩を両腕で掴む。これもかなりの熱を帯びていた。
この下にいる。いるはずだ。いて欲しい。いなきゃダメだ。
強く思い込んで、岩を持ち上げようとする。
「うぅ……うわあああああああ!!」
「何やってんだ!」
突然背後から身体を掴まれる。それを必死に振りほどこうとする。
「離して、離してください! 武器商人様が、スカラ様が!!」
「そんなとこにいねえよ! 落ち着け!」
地面へと強引に投げ飛ばされる。フレデリカが自分を見下ろしていた。
「フレデリカさん、武器商人様は!?」
「あいつは……この状況では……」
フレデリカが言葉を濁す。モニカは縋りついた。
「探して、探してください……! 変なんです、おかしいんです! クリスタルも落ちてて、色が消えてて、そこにスカラ様の残留思念が……なぜか、それが一番強いんです! 生きてる人間がもっとも強く思念を発してるはずなのに!」
「モニカ……」
「お願いします、お願いします! 見つけてください、今もどこかにいるはずなんです。フレデリカさんならたぶん、見つけられます。お願いします、お願いします」
それから何度お願いしますと言ったかわからない。
その間、フレデリカはずっと受け止めてくれた。
少しして、フレデリカはモニカを少し離れたところに移動させた。
そこにデイコックがやってくる。彼も冷静を装っているが憔悴していた。
「あいつは……そうか……間に合わなかったか……」
あなたが遅かったせいで。
という言葉が一瞬胸の内に宿ったが、すぐに流された。
たぶん、デイコックもまた奮闘していたのだ。ウィルゼムを止めるために奔走していた。でも、間に合わなかった。できる手は全て打っていたはずだ。
「家に帰ろう。君が丈夫だとしても、この環境が身体にいいとは思えない」
「最後に確認させてください。武器商人様は、スカラ様は、本当に死んだんですか……?」
デイコックとフレデリカが顔を見合わせる。言葉に詰まりながら、デイコックはモニカが握って離さないクリスタルを指した。
「そのクリスタルが……光を、失ってるだろ。あいつの生命反応とそのクリスタルは……連動している。つまり……」
「光が消えている以上、あいつはもう……」
「ウィルゼムに殺された……?」
フレデリカが首を横に振った。
「少し調べたが、自爆だろう。殺されたという表現に間違いはないがな」
「そうですか……」
意味もない自殺はしない。つまり、武器商人は必要だから自爆した。
人々を守るために死んだ。
誰かを犠牲にして、自分が幸せになることが耐えられなかった。
モニカの中に一つの、いや二つの感情が芽生える。
「フレデリカさん、私も、嫌いになったかもしれません」
「……何をだ?」
「救世主」
「そうか……」
「でも、変ですよね、大好きなんです。大嫌いなのに、大好きなんです……どうして、ですかね……」
涙がボロボロと溢れてくる。好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。
しばらく泣いて、涙を拭う。自分の足で立ち上がると、デイコックを見据えた。
「デイコックさん、お願いがあります」
「……お前もか」
デイコックは察しているようだった。
モニカは胸に宿した決意を口に出す。
「私を――武器商人にしてください」
※
苦い思い出を咀嚼する。格闘の末、呑み込んだ。
未だにトラウマだし、信じられない気持ちもある。
「自分勝手ですよ、本当に。私を置いて行っちゃうなんて……帰って来ないなんて、酷いですよ……」
クリスタルに言葉を投げる。返事はない。灰色のままだ。
「私は、許しませんからね、スカラ様」
言葉とは裏腹に心は違う。
矛盾した気持ちを抱えながら、クリスタルに背を向けて。
――ピコン。
奇妙な音を聞いて目撃する。
明滅するクリスタル。その青い輝きを。




