昔話
誰かぁ〜観てくれよぉ〜
今でも忘れない。あれは、まだ13才だった頃の秋、
俺の住んでいた村 レイミー村の豊作を祈るハーベスト祭で、この世のものとは、思えないほどに美しい少女を見た。
俺は、一目惚れした。
初恋だった。ただ見ているだけでとてもドキドキして、気づいたときには、話しかけていた。
「あの……と、と……友達になってくれませんか?」
頬を染めて、恥ずかしそうな俺に、彼女がいったのは、
「えっ…嫌です。ごめんなさい。」
という言葉だった。
それから俺は、彼女を見るたび声をかけた。彼女は、あからさまに鬱陶しそうな顔をしながらも、無視することはなかった。言葉を返してくれた。それだけで、当時の俺は、満たされていた。
彼女のことを知ってからというもの、彼女のことを考えなかった日はなかった。
あれから半年が過ぎた、ようやく俺は彼女の名前を聞くことができた。彼女の名前は、ルミアと言うそうだ。彼女の名前をしれて、仲良くなれたような気がしていた。
俺は、浮足立った気分のまま帰宅した。
「ただいま〜」
そう言いながら俺は、家の扉を開いた。だが同時に違和感を感じた。俺には弟が二人、妹が一人いる、だから普段家は、うるさいくらいに賑やかだったのだ。だが今は、何の音も聞こえない。俺は、靴を脱ぎリビングへ足を進めた。嫌な予感がする。何故か、回れ右してすぐさま引き返したい気分だ。しかしそれがなぜかはわからない。俺はリビングを見てギョッとした。
それは、あまりにも現実離れしていて、脳が理解することを拒否していた。だが見えてしまった。リビングは、血が大量に飛び散って辺りを汚している。母さんの首と体が離れ離れになっていた。服は破かれなにか白濁色液体がベットリと付着していた。階段から全身ボコボコになり、誰かもわからないような小さい体が見えていた。でもその服は、紛れもなく俺の二つ下の弟バッシュのものだった。
「いやぁぁぁ〜っっ!」
生まれて初めて出す声だった。こんな声が出るのかとおもった。何処に冷静な自分が怖くなった。
叫んだあとすぐに上から二つの足音がした。
「あっ何だ?」
「ヤッベ……誰か来たんじゃないか?」
そう言いながら階段から姿を現したのは、二人の男だった。
「なんだ……ただのガキかぁ。はぁ〜あ、ビックリして損したぜぇ。」
そういった男の容姿は、金髪で、目を瞑っているかのように細い糸目だった。
「ただのガキとはいえ気を抜くな。逃げられでもしたら厄介だ。」
こちらの男は、茶髪で吊り目。かなり怖い印象を受ける顔つきだ。
「はぁ〜あ。真面目なこって、立派ですねぇ。まぁ流石にこんなガキにゃあ遅れは取りませんて。」
「そうならいいがな。」
会話する二人は、仲が悪そうだ。
「おっ、すまねぇなぁガキィ。処分すんのが遅くなっちまってよぉ。いま家族んとこ連れて行ってやるからまぁ安心しな。」
男はそう言い放つと剣を抜いた。俺には、ほとんどなんにも見えなかった。首は、綺麗に切断された。最後に目が捉えたのは首から上のない、自分の体だった。
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そう確かに死んだはずだったのだ。しかし今俺は、光の中のような、真っ白い空間に立っていた。目の前には輪郭もぼやけて見える、光のような人型のナニカが佇んでいた。
「気がつきましたか?気づきましたね!こほんっ…え〜、ここは、あなたの精神世界。つい先程確かにあなたは、殺されました。しかし、安心してください!喜んでください!あなたには、特別な力がある。あなたが諦めない限り、どんな未来でも作ることができます。まぁやるもやらないもあなた次第です。もう怖いよぉ〜と諦めるならそれは、それでいいのです。」
ナニカは、テンション高めに訳のわからないことを話している。俺に特別な力がある?冗談だろっ?なら何故あのとき、俺は、何も抵抗することもできずに殺されたのか。何故あのときその特別な力とやらが、発動しなかったのか。わからないことは、いくつもある。
でも、
それでも、母さんや弟、家族を守れるのならば。この、よくわからないやつの言うことを信じてみるのもありかもしれないと思った。
決めきれず黙っている俺に、
「騙されることに怯えてチャンスを逃すのは、小物の発想だ。大事なのは、正確に物事を見抜くことだ。騙す気のない相手を疑っている時点で、それは、騙される以上に愚かでしかない。つっっ……やった〜言いたかったランキング第二十三番目のセリフ言えたぁ〜!
別世界は、切り札に微笑んだ、やっぱ最高だなぁ〜!
どうどう君?かっこよかった?くぅうぅぅう!マッジサイコ〜!」
何やら真面目なことを言っていたが最後はやはり意味が分からなかった。
でも覚悟は、決まった。
「お願いします!どうすれば家族を救えますか?どうすれば未来を作ることができますか?教えてください。あなたが悪魔だったとしても、俺が逃げるわけには行かないんだっ!」
覚悟を決めて言った俺に、そいつは、驚いたように言った。
「やだなぁ〜、少年。そう方をこわばらせることないよ。何も君を取って食おうなんて考えてないんだからさぁ〜。私は君で、君は私なんだよ?」
相変わらず不思議なことを言っているが、その言葉で俺は、どこか安心した。
「おっといけない。力を行使する方法だったよね?何も難しいことは無いよ。ただここにいる私にお願いするだけでいいんだ。『生ぎたいっ!』て言うだけでいいんだ。簡単だろっ?さぁ言ってご覧?」
何が起こるかについての説明は一切ない。それでも俺は、
「生きたいっ!」
「まぁ、ちょっと違うけどOK〜。じゃあ、行ってらっしゃぁあい!」
突如目の前が真っ暗になった。一瞬騙されたかと思ったがそうではない。
目を開ける。
すると俺は、自分の部屋で眠ってた。立ち上がり鏡の前まで行く。普段よりもすべてが大きくなっている気がするが、それよりもまず、人の首を確認しなければ。そう思い鏡を見る。しかし首どころの騒ぎではなかった。鏡には、まだ5歳ほどの少年が写っている。それは、まごうことなく過去の自分の姿だった。
「なんじゃこりゃぁぁっ〜!!」
思わず大声を上げてしまった。部屋の外から音がする。階段を駆け上がってくる音だ。俺はあの二人組を思いだし、恐怖で足が竦んだ。
ガチャッ!
ドアが開く。
俺は、恐怖で失神してしまいそうだった。しかし、すぐにそれは誤解だとわかった。
ドアから顔を出したのは、母さんだった。
心配そうな顔をして母さんは、僕に尋ねる。
「どうしたのっ?何があったのっ?」
母さんの声を聞いて、あの光景が、フラッシュバックしてきた。
我慢できなかった。
「うわぁぁぁあっぁあんっ!がぁあざぁああん!」
体の影響もあるのか、溢れ続ける涙を母さんは、頭を撫でながら拭いてくれた。
「よしよ〜し。どうしたのかなぁ?」
そう言われて俺は正直にいってしまった。
「母さんが殺されてっ、バッシュも殺されてたんだっ!だから俺はっ!」
「悪い夢でも見たのかなぁ?怖かったねぇ。でも安心して、ほらここにバッシュだって居るわよぉ〜。」
ドアの方を見ると、バッシュがハイハイしていた。
「もうすぐお昼ごはんができるよぉ〜。今日は、ハガミの大好きなオムレツですからねぇ。もう、お兄ちゃんなんだから早く泣き止むの。バッシュに情けないところ見られちゃうぞぉ。」
母さんは、バッシュ抱え上げ顔の前にもってくる。
「お兄ちゃん、情けないぞぉ!」
と裏声で言ったのだ。
安心からか、自然と口角が上がる。
「はい、泣き止んだっ。じゃあお母さんご飯の準備してくるから、落ち着いたら降りてきてねぇ~。」
そう言って母さんは、バッシュを抱えて1階へ降りていった。
まだ何がどうなっているのか、ちっとも分からないが母さんやバッシュが無事なのは確かだった。
俺は再び鏡へ向き直る。きめ細かな白い肌。幼い顔。小さい体。
どうやら俺は若返った、いや、過去に戻ったようだった。
壁掛けのカレンダーに目をやる。今は、魔法歴3027年の6月7日のようだ。つまり母さん達が殺されたあの日よりも、9年前のようだ。つまり今の俺は、ほかほかの5歳児。当面母さん達は、大丈夫だろう。
ならば俺が、嫌僕がすべきはそうっ!
恐らくまだ5歳程であろうラミアちゃんを見ることだっ!
おっと不味い不味い。想像しただけでついつい鼻血が。にへへ。
「とりあえず、飯食うか。」
そう思い、リビングへ降りていくのだった。
仲吉小学校