イーッスターガール
お腹を空かせた女の子は星を食べたのです。
美味しいお星様。口の中で弾けるお星様。舌の上で溶けるお星様。
さあ、女の子はどうなるのでしょうか?綺麗になるのか?光っていくのか?
それとも・・・。
あるところに女の子がいました。名前を美空ちゃんと言います。そんな彼女は夜になるといつも泣いていました。
なぜなら、いつもお腹が空いていたからです。だから、彼女はよく笑わない子供でした。そして、美空ちゃんはお腹を空かせながら、お部屋の中からお星様を見ているのです。澄み渡った夜空にきらきら輝くお星様は、美空ちゃんの心のなぐさめでした。それと同時に、お星様を食べられたらいったいどうなるのだろうか?と言うこともいつも思っていました。
きらきら光って美味しそうだったからです。
ある時、あまりにもお腹がすいたので美空ちゃんは窓を開けて夜空に手を伸ばし、お星様をつかもうとしました。
するとどうでしょう?
美空ちゃんの指でお星様をつかむことが出来きました。覗き込んでみるとお星様が手の平の中できらきら瞬いています。
「こんな綺麗なもの今まで見たことないわ!眩しいくらいに輝いている」
美空ちゃんはしばらく手の上でお星様を転がすと、一息にそれを口の中に放り込みました。そして、お星様が口の中に入った瞬間、彼女のほっぺが光って明るくなります。どうでしょう、お星様は口の中でパチパチとはじけ飛ぶと消えてなくなってしまいしました。
「何これ?!すごく美味しい!」
美空ちゃんは目を見開きました。お星様がこんなに美味しいものだとは思ってなかったですし、パチパチとはじける感じがとても刺激的だったのです。
その夜はそれでやめときましたが、次の日の夜にはまた一つ星を食べてみました。
やっぱり美味しくて刺激的で美空ちゃんはほっぺをおさえて喜びました。そして、また一つ、二つと星を摘まみ、お口に入れました。
何しろ空にはいくらでも星があるのです。
いくら食べても食べきれない!
美空ちゃんはお腹がいっぱいになるまで星を詰め込みました。
昼間はお腹をすかせている美空ちゃんも、夜になれば幸せで大満足になります。それなので、彼女は昼間でも笑っていられました。
星を食べる前だったらいつもうつむいて悲しい顔をしていたのに、今ではいつも笑顔でいられるようになりました。大変身!
だから、美空ちゃんは夜が来るのが楽しくなりました。夜になれば星がいくらだって、心もお腹もすっかり満たしてくれるからです。
夜空には色々なお星様がまたたいて、美空ちゃんを見下ろしています。青白く光る星や赤く光る星。口の中で小さくはじける星や一気にはじける星。暑くなって消える星や冷たく長く舌に残る星もありました。
でも、どんな星も美味しくて色々な味があるので、美空ちゃんは飽きずに十分すぎるくらい楽しめたので大満足でした。
あまりに陽気に変わっていく美空ちゃんに、周りのお友達は不思議がりました。
「美空ちゃん最近とても生き生きしているわね。いったいどうしたの?」
美空ちゃんはすました顔で答えました。
「そう?私はいつもと変わらないわよ」
心の中で美空ちゃんは笑いました。きっとお星様のおかげね。私だけの大切な秘密。
「何か喋り方まで変わったわよ。前はあまり喋らなかったし、笑わなかったのに」
美空ちゃんはくすくす笑いました。みんなの知らないことだもの。私のお星様。
「そうかしら?ふふふ」
そんな彼女にお友達は首を傾げましたが、言葉には出しませんでした。
それからの美空ちゃんは次第に夜が待ち遠しくて仕方なくなりました。昼間もお星様の事で頭がいっぱいです。そして、夜になるとむさぼるように星を食べました。今では、一つだけ食べるだけでは満足できなくなっていて、手当たりしだいに星を食べていきました。
それでも、夜空に星はたくさんありました。
だから、安心して星を食べることが出来たのです。ご想像の通り、昼間の美空ちゃんはますます輝いていきました。街を歩くときもすれ違う人が振り向くくらいで、みんなに可愛い女の子だと言われる様になったのです。
美空ちゃんはそれで嬉しくて得意で満足でした。寂しさも悲しみも、嫌な事は全部吹き飛んでいきます。
ただ、真美ちゃんが輝きだせば輝きだすほど、不思議な事に周りにいたお友達は真美ちゃんから遠ざかっていきました。
それでも、美空ちゃんはお星様に夢中です。何しろお星様は限りなくあるのですから。
そんなある年の冬でした。
美空ちゃんがいつものように街を歩いていると、小さな女の子がお母さんにこんな事を言っているのが耳に入りました。
「ままぁ、最近リボンのお星が見れないね」
美空ちゃんははっと思いました。リボンの形をしたオリオン座はこの前食べてしまったばっかりなのです。女の子はさらに続けます。
「いつもお空見てもお星様が見えないね。ママ、お星様何処行っちゃったの?私、またお星様見たい。キラキラ星を見たいわ」
女の子はそう言ってお母さんの袖を振っています。小さな目には涙すら浮かんでいます。
美空ちゃんはそれを聞いて、すぐに心がズキッと痛くなりました。
お星様は私が食べたからなくなっちゃったんだわ。お星様はみんなのお星様だったのに、私は自分だけで食べちゃった。でも、私、お腹が空いていたし、お星様のおかげで輝けた。今の私はお星様なしでは生きていけない。
でも・・・・。美空ちゃんは悩みました。
そして、夜になりました。その日の夜は澄み渡ってきれいな空でした。美空ちゃんはいつものように窓に寄りかかりながら、夜空を見上げてため息をつきました。
気がつけば、確かにお星様は少なくなっていて、数えるほどしかなくなっています。美空ちゃんは遠くでかすかに光っている星に手を伸ばしてそれを手に取りました。そして、それをよく見てみてみました。小さく手のひらで光っている星。ピチピチしているのが美空ちゃんにもよく分かります。
「この星は生まれたての星だわ」
美空ちゃんはその星を夜空に返しました。
本当は食べたかったのだけど、昼間に見た女の子の顔が浮かんだのです。
美空ちゃんは目を閉じて、もう一度自分に問いかけてみました。
私のために皆がお星様を見れなくなってるなんてどうしよう。確かに私は輝いていったけど、お星様は少なくなくなってしまったわ。あの女の子みたいにそれを悲しく思っている人も沢山いるだろうに。
全部私の責任だわ。
私どうしたらいいんだろう?
美空ちゃんは立ち上がってベランダに出て行きました。夜空には大きな満月が優しく光っています。顔が映りそうなきれいなお月様。
お月様は何も言わずに美空ちゃんの顔を照らしています。思わず引き込まれてしまいそうな、夜空を照らすぴかぴかなお月様。
「私、間違ったことしちゃった。どうしよう・・・。私どうしたらいいんだろう?」
美空ちゃんは自分の心がお月様に映った気がしてお月様に語りかけました。
「お月様。私は一体どうしたらいいんですか?一体どうしたらいいんですか?」
しかし、お月様は何も言ってはきません。何も答える事無く、美空ちゃんをその柔らかな光で照らすだけです。
「何とかして元に戻して・・・・。私心が痛くなっちゃうわ。お願い、お月様」
美空ちゃんは声を上げてさらに泣きました。するとどうでしょう、美空ちゃんの瞳からお星様を食べて以来出てこなかった涙が溢れてきました。いくつもいくつもぼろぼろ涙がとめどなくあふれてくるのです。彼女は心からあふれ出す後悔をとめることが出来ません。
すると、不思議なことが起きました。
美空ちゃんからあふれ出た涙の粒が次々と光だしお星様になっていったのです。いくつもいくつも、大きいのから小さいのまでマミちゃんの目から光る星が空に昇ってゆきます。彼女が泣き続けるたびに、夜空の星が増えていき、いつしか満天の星空になりました。
美空ちゃんの驚く顔といったら!あまりの輝きに彼女は目を見張りました。
「あぁ、すごい!お星様がもどってきた!」
美空ちゃんにはお月様が笑っているような、喜んでいるような、そんな感じに見えます。
「よかった。本当によかった。」
美空ちゃんはそう言いってにっこりと笑いました。そんな彼女に前のような輝きはありませんでした。しかし、彼女はそれよりもっと大きな輝きを手に入れたようです。
それは、優しさと自信と言うどの夜空にも浮かんでいない自分自身の輝く星です。
美空ちゃんの素直な気持ちがその星を輝かせたのでしょう。だから、美空ちゃんには自分の輝きは見えませんが、その星は他の人には見えるのです。とても美しい輝きです。
次の日、やっぱり美空ちゃんは街を歩くとその輝きで人々を振り向かせました。
そして、お友達も近くによって、前みたいに話しかけてきます。
そして、美空ちゃんは町の中で、星を見たがっていた女の子に会いました。
「ママ、昨日のお星様きれいだったね!」
女の子のその言葉を聞いて、美空ちゃんは心のそこから笑顔になりました。
そして、彼女はいつまでも輝く夜空を心からの笑顔で見ているのでした。
おしまい