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第6話 とにかく、飯だ。あと酒。

 とりあえず、宿を探そう。王国ってくらいだから――って、あ? ここの国名、聞いてないかも? 俺知らない。やっちまった。こういうミスが、積もり積もって詰んでしまって、最後にはデスペナに繋がるんだよ……。


 酒場を探せば宿屋も見つかる。歓楽街の近くには、宿泊施設くらいあるはずなんだよ。時間は午後六時を過ぎたあたり。太陽みたいなのも傾いて、ぎりぎり見えるくらいか。もたもたしてると、すぐに夜だ。宿無しはこの状況でムリゲだから、それだけは避けなきゃならない。


 雑貨屋みたいな区画を過ぎて、酒場が見え始める。まだ客はまばらだけど。買っておいた外套を羽織る。そんな人がちらほら見えるから、別に違和感はないだろう。やや暗くなったあたりから、肌寒くなってきたもんな。


「すんません。ここいらで良さそうな宿を知らんですかね? 今日、ここについたばかりでね」


 このあたりは旅人を演じるロールプレイだ。よく遊んだもんな、こうやって。


「おぉ、お疲れさん。ダイオラーデンについたばかりなんだな? それならこの先、10軒くらい行ったところに、宿屋が並んでるよ」


 なるほど、ネリーザさんはこのあたりを『城下』と呼んでたから、おそらくこの国は『ダイオラーデン』で間違いないと思うんだ。それに、思ったよりあちこちから旅する人も多いとみたね。


「ありがとう。助かるよ」

「いやいや。大したことはないからな。湯に入って酒でも飲んで、身体を労ってやってくれな」

「そうさせてもらうよ」


 酒を飲み始めてた、年配のおやじに聞いてみたら、あっさり教えてくれた。酒が入ると、多少のことじゃ動じなくなる。飲み始めると気が大きくなるものだから、訊ね事をしても教えてくれるんじゃないか? ってそう、思ったんだ。


 さて宿屋へ、と歩き始めたときだった。


「おっと」


 何やら柔らかいものを抱き留めるような感触。おそらく誰かとぶつかってしまったんだろう。

 『個人情報表示』のステータスとおりに、もし身体が強化されてしまっていたとしたら、当たり負けするようなことはほぼほぼありえない。だから、筋トレしてるわけでもない俺の身体でも、こうして倒れて尻餅をつくようなことはないんだな。俺の方が驚くわ。


「ごめんなさい。こちらの不注意でした。大丈夫ですか?」

「い、いや。こちらこそ、すまん」


 身長175センチの俺より少しばかり低い感じ? 声の感じから間違いなく女性だろう。漆黒の外套だなんて、センスいいなと思ったんだけど。フードから覗くその、日サロに通ってそうなギャルっぽい色味なんだけど、きめの細かそうな肌の感じ。目が綺麗で印象的なんだ。リア充だったらもっと、気の利いた受け答えができたんだろうけど。


「怪我、ないですか?」

「だ、大事ない。失礼した、ではな」


 外套のフードを下げるようにして、そそくさと行ってしまった。俺は彼女が行ったさきを振り向いて見届けようとしたんだけど、あっという間に見失っちゃったよ。漆黒の外套なんて、いないから目立つんだけどな。それになんか、そこはかとなくいい匂いがしたような。あと、すっごく柔らかかったな……。


 気を取り直して、歩きを再開しておおよそ10軒。なるほど、宿っぽい建物が並んでる。ここで綺麗そうなところを何軒かチョイスしとく。安宿よりは、『個人情報』を守ってくれるだろうからね。


 宿を回って、銀貨1枚で何泊いけるか聞いてみた。そしたらさ、一番高い宿が一泊銀貨1枚だとさ。銀貨1枚でさ、豚っぽい肉の串焼き、50本くらい買えるんだよ。一本200円として、銀貨1枚約1万円強。


 まぁ、妥当と言えばそうかもしれんけど、さすがに高いかなと思ったから、銀貨2枚で三泊できる宿にしたんだ。あまり安いと、それこそ『個人情報』ガバガバになりそうだから。


 ついでにシャツとズボンを二着ずつ。さすがにいつまでも、王城でもらった制服っぽいのはちょっとだから。飲みに行くのも、このままじゃなんだかだしね。


「前払いになりますが、よろしいでしょうか?」

「はいはい。これで」


 人の良さそうな青年が受け付け。俺は三泊分の銀貨2枚を支払う。


「ところでさ」

「はい、なんでしょうか?」

「ここいらで、しっとりと飲める店、知らないかな? あまり安くもなく、高くもないところがいいんだけど?」

「それでしたら――」


 酒を飲みたいし、情報収集も兼ねて、落ち着いた雰囲気の店も教えてもらう。とりあえず、鍵をもらって部屋へ直行。部屋に入って、ベッドに寝転がって。考え事を始めたんだ。


「『悪素』だっけか?」


 この目で見ないことには、どれだけの被害なのかわかったもんじゃないな……。そもそもこの国がどれだけ被害を受けてるのか。それとも、近隣諸国全て危険な状態なのか?

 城下じゃ俺が思うにだけど、それほどピリピリした感じはないんだ。


「とにかく、飯だ。あと酒」


 俺は飛び起きて、部屋を出る。宿に併設されたレストランっぽい食堂で、串焼きにも使われてる豚っぽい肉の、三枚肉の煮込みを食べたんだよ。噛まなくてもいいくらいに、柔らかく煮込んであるんだ。肉の旨味が凄かったな。


 付け合わせの根菜もうまかった。けどなんだかな、味付けが質素というか、塩と胡椒っぽい香辛料。しょう油とまでは言わないけどさ、せめて洋食みたいな味付けを期待してたんだ。無理言っちゃいけないか。うまかったのは、うまかったんだからな。


 宿屋で紹介してもらった酒場なんだけど、とにかく最初の印象が凄かった。なにせ、宿屋まで酒場の従業員が迎えに来るんだよ。会釈が45度っていうのかな? とにかく受け答えが丁寧だった。


 その酒場は、若い女性が接客するところでもあった。キャバクラみたいなチャラチャラした感じじゃなくて、ショットバーとクラブを足して2で割った感じ? カウンターにいる二十代から三十代くらいの女性の従業員がいてね。気に入った子がいたら指名して、ボックス席でまったり飲める、みたいな説明を受けたんだ。


 店も清潔で、嫌らしい感じがしないくらいに照明も明るい。俺が入る前には先客もいて、指名しないでカウンターで飲み続けてる客もいるくらい。宿からの紹介だって言うと、ぼったくられる心配もなさそうだった。


 まぁ、金はインベントリに入ってるから、もし万が一そういう店にひっかかっても、(けつ)の毛まで(むし)られることはないと思うんだ。けどまぁまさか、こんなに早く、『悪素』について話が聞けるとは思わなかったんだけどね。



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