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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第5部 走竜が先か龍人か?

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第199話 そんなに時間が過ぎてたなんて。

『ぺこん』

『兄さん? 本当に兄さん?』

「『何を基準に本当と言えばいいのかな?』、送信っと」

『ぽぽぽぽぽぽ』


 通話ボタンをタップ。


『――この馬鹿者がっ!』

「ひっ、ごっ、ごめんなさいっ」


 第一声、いきなりプライヴィア母さんに怒られた。


『どれだけ私たちが心配したと思っているんだね? 君は本当に――』

『プライヴィア、タツマちゃんだって好きでこうなったわけでは』


 奥からダンナヴィナ母さんの声。少しでもプライヴィア母さんの勢いが途切れて助かった。ありがとう、とにかくありがとうございます。


『それはわかってはいるのだが、それでもなんていうか。息子の身を案じてはいけないというのかい?』

『わかっていますよ。タツマちゃん、戻ってきたら大変ですよ? 庇ってあげませんからね?』


 うひー、フォローじゃなく警告だった。これはこってり絞られるな。間違いなく。


「はい。わかっています。ダンナ母さん。それで麻夜ちゃん」

『兄さん、麻夜とロザリエールさんとマイラ陛下には何もないの?』

「はい。麻夜ちゃん、ロザリエールさん、マイラさん。ごめんなさい」

『仕方ないですよ。タツマ様ですもの。そうですね、タツマ様ですからね』


 麻夜ちゃんの後ろからロザリエールさんとマイラヴィルナ陛下の声が聞こえる。二人とも呆れているみたいなんだ。


「いやいやいや。油断していた俺も悪いんだけどさ、とりあえず俺をかっさらった誘拐犯をとっ捕まえたから明日尋問の予定なんですよ。母さん」

『誘拐犯というとそこはどこなんだい?』

「えっとなんだっけ、あそうだ。ほら、アールヘイヴなんです。龍人族さんいるアールヘイヴ公国なんですよ」

『「「「「え?」」」」』


 みんなが驚いた声が聞こえてくるんだけど。


『それは少々おかしいと思うのだが』


 母さんどうしたんだろう?


「なんでです?」

『いやね、走竜に、以前のアレシヲンたちに乗せられた場合、片道二十日以上かかったはずなんだよ。もちろん私も一度お邪魔しているから間違いないと思うんだよね』


 粉々になったとはいえ、俺を入れた棺桶みたいなものを担ぐかなんかして飛んで、その速さの倍で飛んでたってこと?


「……あれ? 確かに計算が合わない。麻夜ちゃん、十日しか経ってないんでしょ?」

『うん。そうなのよね。今のアレシヲンたんやセントレナたんならわからないけど、お母さんからはそう聞いてるから……』

「うん。それも聞き出せるようなら聞き出してみるわ。それでさ、こっちもかなり複雑な状況みたいでさ」

『またまたなんでも背負い込む兄さんの悪い癖?』

「そうじゃなくて、マイラへ、いやマイラさんの言ってた聖女様って、この国の大公家のご息女みたいなんだよ」

『え?』

「だからさ、エンズガルドに来られなくなった理由も気になるから、こっちでちょっとの間、動こうかと思うんだけどさ」

『……兄さん』

「うん」

『お母さんはいいよ、だって』

「助かった。どっちにしたって誰かに迎えに来てもらわないと駄目なんだろうけど、……あ、それとさ麻夜ちゃん」

『なんでしょ?』

「走竜がね、結構いるわけよ」

『え? ほんと?』

「うん。赤い羽の子が多いんだけどね。お願いしたら、ひとり譲ってくれるかも。俺からもお願いしておくからさ」

『まじですか?』

「その代わり、こっちで問題解決したらだろうけどね」

『ねねねね、お母さんお母さん、麻夜が行っていい? うん。べるさん連れて行くから大丈夫。うん。いいの? やったー』


 ベルベリーグルさんも連れてくるわけね。麻夜ちゃんは確定だ。あーでも、新しい子を譲ってもらったとして、連れて帰る場合はどうするんだろう? そうだな、やっぱりセントレナだけで来てもらうのがいいかもだわ。


「ロザリエールさん」

『はい。なんでしょう?』

「ごめんだけど、ロザリエールさんはそっちにいてほしいんだ。何かあったとき、一番頼りにできるから」

『大丈夫ですよ。まだ未熟ではありますが、あたくしの弟子を向かわせますので』


 ロザリエールさんのメイド隊か。そういえば、何人か回してもらったって行ってたっけ?


「それってもしかしてジャムさんところの?」

『はい。そうでございます。可愛らしい子たちですよ』

『そなのよー、可愛い子ちゃんたちなのよー』


 麻夜ちゃんが言うくらいだから、ディエミーレナさんみたいな猫人族さんなんだろうな。


「まぁいいや。アレシヲンはお留守番で、最悪の場合ロザリエールさんが乗ってこっちへ来るための手段。だからセントレナに乗せられて来てくれる?」

『わかったよ。兄さん』

「こっちは雪深いのと、闇も深いからそのつもりで」

『了解。準備ができたら出発するね』

「おっけ。それじゃ定期的にスマホ出してるから。もちろん消音にしてね」

『りょっかーい。さぁ、忙しくなってきました。麻夜も可愛い子をゲットしなければ』

「もうその気なのね。セントレナが場所はわかるって言ってたっけ?」

『うん。そのはずー』

「それなら大丈夫か。それと母さん」

『なんだい?』

「協力者もいるのでなんとか動いてみます。もしかしたらマイラさんがあのようにならざるを得なかった原因がわかるかもしれません」

『無理はしないように、いいね?』

「はい。わかっています」

『そもそも、無理の閾値(しきいち)が兄さんの場合ぶっ飛んでるんだけどね』

「あのねぇ……」


 ここで通話は終わった。こっちに来るのは麻夜ちゃんとベルベリーグルさん、それとロザリエールさん直下のメイド部隊の誰か。おそらくベルベリーグルさんみたいな忍者っぽい人なんだろうな。


 前のセントレナで二十日以上かかるところを、捕らえた俺がいるのに十日足らずで移動した方法。俺が十日も眠らされていた方法。明日聞き出さないとだな。


 スマホをマナーモードにしてインベントリへ。再度取り出すとちゃんとマナーモードになってた。うん、充電されてるし設定状態も保存されてる。便利だな、『個人情報表示謎システム』って。


 よし、とりあえず風呂だ。色々ありすぎて精神的に疲れた。それに俺、十日は風呂に入ってないはずなんだよ。冬場で寒いとはいえよく臭ってこないもんだな。

 インベントリから着替えを出して、着てた服を格納。インベントリ内にでパンツが『汚物』とかにならない。


 そういやここってかなりお高い宿だっけ? 風呂場らしきドアを開けると、見事な風呂。


「温泉? 魔道具? 匂いがしないからどうかわかんないけど、こんこんと湧き続けてる源泉掛け流し状態。いやいいねー」


 湯に入る前に身体を洗おうとしたんだ。けれどあまり汚れてる感がない。


「もしかしたら清浄とかそれ系の魔法。または魔道具があんのかね?」


 俺が運ばれてた物も、そういう感じかもしれない。そうじゃないと辻褄が合わないんだよ。



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