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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第5部 走竜が先か龍人か?

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第198話 伯爵様は管理職。

 ジルビエッタさんは楽しそうに、じゃじゃーんという感じで布シートみたいなものを剥ぎ取る。そこには俺も忘れてたけど、天人族のベガルイデがいたわけだ。


「……はて? どこかで見たような?」


 あ、そっか。俺が羽を消しちゃったからわからないんだよきっと。

 ベガルイデを改めて見ると、羽がないだけじゃなく特徴的なものが多いんだ。人より長くとがった耳。病的なほどに色白い肌と白い髪。瞳の色が薄いんだよ。

 なんだっけ? 何かで見たような気がする。それにしても、嫌みなほどに顔かたちが整ってるんだよ。


「ネルガテイク伯爵閣下」

「あのね、閣下ではなくここでは警備伯と呼ぶように言わなかったかな?」


 優しげに諭すようにジルビエッタさんへ微笑みかける。なんていうんだろうね、優しい上司という感じ? 旧ウェアエルズの伯爵とは偉い違いだわ。


「なんかすみませんね。俺が羽を消しちゃったものだから」

「いえ、タツマ様のせいではありませんよ」

「そうですよ。おかげでこいつをこうして捕らえることができたんですから」


 ベガルイデは猿ぐつわの状態だからか、唸ることしかできていない。けれどこちらを睨んでいる。あのね、睨んだからといってお前に何ができるんだっていうのさ? 麻夜ちゃんだったら『処す?』で終わらせるよ?


「そうでした。報告が遅れて申し訳ございません。タツマ様のご助力により、この手配犯でもあるベガルイデを捕らえることに成功したというわけです」

「なんだって? あの『人攫いのベガルイデ』かい?」


 ネルガテイクさんの表情が険しくなった。なんていう二つ名。『人攫いのベガルイデ』とか。


「タツマ様、この件は私だけで判断できない案件となってしまいました」


 ネルガテイクさんはもの凄く複雑な表情をしてる。


「本当であれば、この場で首を刎ねてしまいたい。此奴(こやつ)らのせいで……」


 ベガルイデはぎょっとした表情をしてる。


「タツマ様タツマ様」

「あぁそういうことね? できますよ。逃げるのを許さないだけじゃなく、好きなだけ恐怖を植え込むことだって可能ですからね。あー、さっき言ったとおり、気が触れたらわからないですよ? そればかりは戻せませんからね」

「……あの、タツマ様は何を仰っておられるのでしょう?」


 きょとんとするネルガテイク伯爵閣下。やっぱり俺も警備伯さんと呼ぶべきかな? 他にはいないっぽいからね。


「あとは二人に聞いてください。俺ちょっと色々と疲れてしまったものですから……。そうだ、この国に冒険者ギルドはありますか?」

「冒険者ギルドというと、どの国へ行っても建物をみたらわかるというあの?」

「……ということはない、んですね?」

「えぇ。申し訳ございません。この国にも作るべきと、近年議題に上がっていはするのですが……」

「構いませんよ。俺は非公式でここにいるわけじゃないんです。本来であれば招かれざる客かもしれません。面倒があってはまずいなと思うんです。だからというわけじゃありませんが、秘密を守ってくれる宿舎を紹介してもらえませんか? 多少高くても構いませんので」

「そうですか。それならフェイルラウドくん」

「はい」

「『飛粋(ひすい)』に案内してくれるかな?」

「わーぉ、すっごいお高いお宿」

「そうなんです?」

「はい。この公都でも一、二を争うといわれてます。争ってはいませんけどね」

「大丈夫です。宿泊費は警備部で出しますので」

「そうなんですか。ではお言葉に甘えます」

「では、此奴の処遇も含め、明日早めにお迎えにあがりますので」

「フェイルラウドくん。頼んだよ?」


 そりゃ女性に送らせるわけにはいかないか。いくら走竜に乗るとはいえね。


「はい。では終わり次第戻ってまいりますので」

「大丈夫。『お楽しみは残して』おくからね」


 うわ。まじおっかない。


「じゃ、ジルビエッタさん。例の件はまだ秘密ということで」

「は、はいっ。かしこまりましたっ」


 俺とフェイルラウドさんを見送ってくれる。


 すぐに立派な宿に到着。飛粋というからに、落ち着いた宿屋なんだな。フェイルラウドさんがガルフォレダくんの背中から飛び降りると、先に中へ入って、一緒に出てきたのは宿屋の主人? いや、女将さんなのかな?


「では、あとはよろしくお願いいたします」

「はい。承りました」


『ぐぅ』

「うん。ありがとう。お疲れ様だね」

「走竜とすぐに仲良くなれるんですね」

「きっとうちにいる子の匂いがするのかもしれませんけどね」

「では、明日お迎えにあがりますので。ゆっくりとお休みください」

「お疲れ様でした」


 扉が閉まると中は凄く暖かい。


「飛粋をご利用ありがとうございます。当宿の主人、リリャルデアと申します。ご用の際はなんなくお申し付けください」


 俺は鍵をもらった。


「ありがとうございます」

「二階の右奥になっております。ここは三階がありませんので、静かな部屋でございます故」

「風呂はありますか?」

「はい。お部屋にひとつずつ、ございますよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「夕食はどういたしましょうか?」

「風呂から上がったら、また降りてきますからそのときに」

「かしこまりました」


 二階に上がって右を向いて、突き当たりの部屋。鍵を回して、重そうなドアを開ける。


「おぉ、凄くいい匂いがするな」


 木の匂いかな? それとも、草の香りかな? ふわっと香るのがとても心地よく感じる。


 ドアを閉めて鍵も閉める。テーブルに備え付けられた椅子に座って、インベントリから暖かいお茶を取り出してずずっとすする。


「――ふぅ。うまぁ」


 さてと。俺はベッドからなぜか二つある枕を持ってくる。インベントリからスマホを取り出すと枕と枕の間に押し込んだ。


『ぺこん』


 やっぱりね。


『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』『ぺこん』


 うーわ、『ぺこん』の嵐だわ。


 うん。どれを見ても麻夜ちゃんが心配して寄越してるメッセージだった。文面もちょっとずつ、力のないものになっていた。心配させちゃったな……。


「『俺も今朝、気がついたところなんですよ』、送信っと」


 あれ? 俺が最後に覚えてるのって、麻夜ちゃんの誕生日。四月四日じゃなかったっけ? それなら翌日だとしても四月五日? でも最後のメッセージって、四月十五日になってる。てことは十日経ってるってこと? いったいどういうこと?



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