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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第4部 エンズガルドの向こう側。

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第180話 新女王と新総支配人。

「――女王陛下、おめでとう」

「女王陛下ーっ、戻ってくれてありがとー」

「ありがとうございます。混血で若輩の身ではございますが、皆様の力となるべく良い統治者として学び、成長してまいりたいと思っております」


 まずは、午前中に行われた新女王の就任式を見届ける。


「なんかいつも通りだったね」

「うん。おべべが変わったくらい?」


 クメイリアーナさんは女王陛下になったわけだ。けれど王家まるごととっ捕まってるもんだから、側近にヒストゼイラ・レジライデ侯爵夫人が就任してる。

 実質この国は狼人族の国ではなく、犬人族の国。クメイリアーナさんに血が半分混ざっているだけなんだよね。だから側近に犬人族の女性がいてもおかしくないってことなんだろうな。


 就任式を見届けて、俺たちは神殿へ向かった。そこには、ずらっと並んだ治療待ちの人々。その列を仕切っていたのが、新しく伯爵になったゲーネアスさん。屋敷も旧伯爵家をそのまま引き継いだ。隠し持っていた魔石はすべて王家へ移動。趣味の悪い調度品や服、宝飾品などは処分する予定だってさ。


「お待ちしていました。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

「はいはい。慣れたもんだから、さ、始めますか」

「うんうん。じゃ、こっちは麻夜が受け持つね。どうぞー」


 あらかじめ、左が軽度、右がそれ以上の状態。そうして並んでもらってる。仮設のテント村でも治療をしていたから、おそらくこの人数で一段落するんだ。


「よし、こっち側も始めます。では、どうぞー」


 ▼


「ありがとうございました」

「ほいほい。そしたらゲーネアスさんのお屋敷だよねん?」

「そだね」

「慌ただしくて申し訳ありません」


 伯爵になったゲーネアスさんの担当は、神殿の運営と飲み水の配布なんだ。販売から配布に変更したから、これはちょっと準備が必要になるわけ。

 伯爵家の屋敷に移動して、大きな水瓶を見る。ものすごーく大きい。縦横高さが5メートルくらいの大きさはある石材の水瓶というより水タンク。それが4つもある。25トンと考えても100トン。かなり持ちそう、というよりぼったくりだったんだろうな。


「どう?」

「んー、3%?」

「駄目じゃん。でもこれで回復属性持ちに解毒させてたってことだろうね」

「うん。アホ王と同じことやってたのよきっと」


 麻夜ちゃんのいうアホ王とは、旧ダイオラーデンの国王だった男のことだ。


「まったくだ」


 水の多さに、魔道具がまともに追いついてない。俺は箱魔道具を撤去。聖銀製の杖を取り出して水に突っ込む。


「『デトキシ』、どう?」

「わぁお。一発ですよ、兄さん。0%」

「んー、効果が上がったんかね、それとこの杖」

「だね。じゃ、残りのもささっと」

「うん。やってしまおう」


 俺は残りのタンクも解毒して、準備完了。これでかなりの日数持つと思うんだ。

 聖銀製の杖を麻夜ちゃんに渡して完了。俺には今のところ必要がないから、こういうときだけインベントリから出してもらってる。ちなみに麻夜ちゃんは治療の際に使ってるみたい。膝の上に乗せてるだけで効果があるとか言ってたっけ?


「じゃ、あとはお願いね。ワッターヒルズから戻ったらまた段取り教えるからね」

「かしこまりました。では、いってらっしゃいませ」

「あいあい」

「それじゃ」


 俺たちはセントレナとアレシヲンに乗って、一度エンズガルド公爵家(おうち)のお屋敷へ。お昼を食べたあと、お茶を飲みながら打ち合わせ。


「ジャムさん、どんな感じ?」


 代理とはいえ実質総支配人になったから、ジャムさんは直属の部下になったんだ。


「はい。ウェアエルズへ支部を設置する準備は整っています。旧男爵家の屋敷をそのまま流用。外壁のみ工事をするので、数日で施工は完了の予定です」

「そしたら戻ってくるときには終わってるね?」

「はい」

「麻夜ちゃん」

「うん。あのね、スイグレーフェンにいる麻昼ちゃんの報告から察するにね、滞在は1日で大丈夫っぽいよ」

「そっか。二人でまとめて治療したら半日ってことだね?」

「そっそ。日帰りだねん」

「了解。そしたらワッターヒルズ行って、治療は何日くらいになりそう?」

「はい。飛文鳥の文面から三日というところかと」

「それなら二日弱だね。ロザリエールさん、どうする?」

「あたくしは、部隊の再教育がございますし、マイラ陛下のお引っ越しもありますので、此度はお留守番ということでよろしいでしょうか?」

「お願いね、色々と大変だろうけど」

「いえ。何かございましたら、飛文鳥でお知らせいたしますので」


 ロザリエールさんも飛文鳥をもらったんだって。それと部隊というのはなんと、元ベルベリーグルさんの部下、忍者部隊とメイド部隊、総勢10名。ジャムさんから『どうにかならない?』したら、一部譲り受けちゃったんだ。

 ロザリエールさんを頂点として、コントロールできるように再教育するんだってさ。おそらく、メイド部隊と執事部隊になるんだろうね。


「麻夜ちゃん。これで足りるかしら?」

「ありがとうダンナお母さん」


 麻夜ちゃんはひしっと抱きついてる。ついでにくんかくんか。行って帰ってくる間のお昼ご飯にするためのお弁当をもらってるんだって。インベントリに突っ込んでる。


「なるべく早く帰ってきてくださいね?」

「大丈夫ですよ。俺の家はここですから。マイラさん」


 元々王位継承権第一位だったプライヴィア母さんがこの国の女王代理に就任してから、女王の彼女は肩の荷が若干下りたみたい。表情も以前より柔らかくなってる。肩書きは女王だけど、実質は王女と同等。

 本当ならクメイリアーナさんの就任式典に出席するはずだったんだけど、今回は見送り。一年後の式典には参加するんだってさ。一応、エンズガルドが親会社みたいなものだからね、今のウェアエルズはさ。


「マイラお姉さん、いってきますねー」

「いってらっしゃい、麻夜ちゃん。気をつけるのですよ」


 またくんかくんか。そろそろ不敬になるんじゃないの? 大丈夫だろうけど。


「ロザリエールお姉さんもいってきます」

「はい。いってらっしゃいませ。タツマ様をお願いしますね」


 ロザリエールさんってば、くんかくんか攻撃を紙一重でかわしてる。うわ、麻夜ちゃん頭撫でられて敗北してるよ。これが大人の力か……。


「みーちゃん、あとお願いね-」

「はい、いってらっしゃいませ」

「べるさんもいってきます」

「御意」

「じゃ、アレシヲンたん、いこっか」

『ぐぅっ』


 屋敷の玄関から俺を見送るプライヴィア母さんとダンナ母さん。ロザリエールさんとマイラ陛下に見送られて俺も飛び立つことにした。


「それじゃいってきます。セントレナ、いくよ」

『くぅっ』


 おおよそ、10日から2週間の旅。結構ハードなスケジュールだったりするんだよねー。



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