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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第4部 エンズガルドの向こう側。

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第170話 久しぶりの家族の事情。


 ウェアエルズ側の湖沿い、曲がり角を曲がってしばらくしたあと。エドナ湖の全長からみると、三割くらい進んだあたりかな?


「ねぇねぇ、ベルベさんいる?」


 麻夜ちゃんは御者席の上を向いてさも、『いるでしょ』みたいな仕草で呼ぶ。


「はい、麻夜様」


 いるんだ。馬車の天井から覗いてるベルベリーグルさん。ご主人様呼びやめたのね。


「追っ手いるかな?」

「おりませんね。実に拍子抜けでございます」


 ベルベさんもしょぼんとしてる。ある意味、麻夜ちゃん(ごしゅじん)ベルベさん(じゅうしゃ)は似てるかも。


「そういえば麻夜様」

「なんでしょ?」

「ディエミーレナはしっかり努めておりますでしょうか?」

「あれれ、お知り合い?」

「はい。私の従妹にあたります」


 ベルベさんはなんと、レナさんの従兄だった。


「ありゃりゃ、みーちゃんももしかして?」

「はい。護衛の任を任せられる侍女でございますが」


 虎人族も猫人族もさ、戦闘系と非戦闘系と両極端なのかもだね。

 ジェノルイーラさんはほら、戦えそうだけど、神殿長のジェフィリオーナさんは無理っぽい。ジャムさんとか全く戦える感じがしないし、あの身体だけどさ。


「そうだったんだ……、びっくり。よくしてくれてるよー。麻夜のお気に入り」

「それはありがとうございます」


 エンズガルドに到着。結局追っ手はなかったみたい。なんとも本当に拍子抜けと言えるんだろうね。

 俺たちは事の顛末をプライヴィア母さんに伝えた。報告前に俺は『トラハッグ』くらったけどね。あれは避けられない。久しぶりに死ぬかと思った。死なないけど。麻夜ちゃんは優しくハッグ。ちょっと手加減するんだね。

 プライヴィア母さんは俺の提案を聞いて、思ったよりもあっさり決断してくれたんだ。


「あぁ、構わないよ。元々は同じ国の民だから。それにね、国の敷地を広くするだけだから難しく考えなくてもいいんだよ」


 プライヴィア母さんはこの国で亡命者を引き受けると言ってくれた。ワッターヒルズのときみたいにあっさりしてる。プライヴィア母さんにとって、国の敷地は増やせばいいと思っているんだろうね。まるで耕せば畑になるみたいな感じで簡単に言うんだよ。


「それでタツマくん」

「はい」

「君に頼まれた『例のあれ』は、順調にこちらに向かっているんだが、もしやあれなのかな?」

「母さんの思っている通りですよ。きっと」

「なるほど、面白くなりそうだね」


 明後日にまたウェアエルズへ向かう。今度は最初は俺ひとりで訪れて、あとから麻夜ちゃんとロザリエールさんがアレシヲンとセントレナを連れて向かってくる予定。


 その日の夕方、夕食のときにふと聞いてみたんだ。


「マイラ陛下」

「マ・イ・ラ」


 『だ・め・だ・ぞ』みたいに人差し指を俺に向けて注意するんだ。くっそ可愛い。俺もやっぱり猫派なんだろうな。


「あ、はい。マイラさん」

「はい、なんでしょうか? タツマさん」


 この国の女王はこのマイラヴィルナ陛下で間違いない。けれど、プライヴィア母さんがいるときは公爵だけどごく希に、摂政みたいに采配をするらしいんだ。

 まぁこれまでエンズガルドは、悪素以外これといって問題のなかった国だったから。それでもマイラ陛下にも彼女たちのご両親は生前、女王になるべく英才教育を施していたらしいから、しっかりと国の運営はできていたって聞いてるんだ。


「マイラさんは、聖属性のレベルっていくつですか?」

「2ですけど?」

「あぁ、なるほど。やっぱりダンナ母さんの言ってたことってそういうことだったんだ」

「なになにどうしたの?」

「麻夜ちゃんや俺はさ、レベルが上がりやすいってこと」

「あー、それは多分、麻夜たちが異世界人だからじゃないかな?」

「そこにいきつくのかー」


 俺も麻夜ちゃんも、なんらかの加護(チート)があるってことだ。


「たださ、俺は置いといて」

「うん? どしたの兄さん」

「聖化だっけ? あの水を清めるやつ」

「うん」

「マイラ陛下と麻夜ちゃん、どちらの効果が高いもんなの?」

「あーそれね。マイラヴィルナ陛下なのよん」

「まじですかっ」

「前にね、比べたことがあるのよ。それでなんとなーく理解したんだけど」

「はい。比べましたね。あまり長くするとタツマ様に怒られるって止められましたけど」

「あーはい。怒りますよ、もちろん」

「話の腰折るのいくないよ?」

「はい。ごめんなさい」

「それでね、行き着いた結果なんだけど」

「うん」

「麻夜はねマイラヴィルナ陛下よりレベルが上がりやすいけれど、魔法の効果は半分以下なのよ……」

「まじですかー」

「それはおそらくですが」


 マイラ陛下が腕組みしてる。やっぱりプライヴィア母さんと姉妹なんだなって思うよ。仕草が似てるんだ。


「はい」

「はい」

「年数による練度というか、そういうものの違いもあるのかと思いますよ」

「あ、そういうことなのねん。熟練度」

「そんなのあるの?」

「数値では出てないけどね、裏パラメーターとしてあってもおかしくないのよ。だって兄さんチートすぎるもん」

「あーそっか。俺はそれが高いかもってことだ」

「そっそ。レベル上がりやすい上に熟練度も上がりやすい。故に魔法の効果も高い、っと」

「うん、ありがとうございます。マイラさん」

「いえいえ、マイラに興味を持っていただけるなら嬉しいのですよ」

「兄さんモテモテだね」

「家族だからでしょ」

「これだよ。だから麻夜が……」

「ん?」

「なんでもありまっせーん」


 ▼


 俺は二日ぶりにセントレナの背中で寛いでる。テレビがあるわけじゃないから、俺の寝室の入り口にあるリビングに伏せてる彼女に背中をあずけてスマホをみながらぼんやりしてるだけ。竜種なのに羽があるからものすごくあったかい。

 このまま寝そうになるんだけど、襟首噛まれてそのままベッドに連れて行かれるんだ。セントレナは何気に世話好きだったりするのかな? それとも俺がだらしないだけ?


『ぺこん』

『通話いい?』

『ぽぽぽぽぽぽ』


 返事する前にかかってきたよ。着信ぽちっと。


「珍しいね」

『アレシヲンたんちょうだいチャレンジ失敗にございまする』

「あははは。そりゃそうだよ。ベルベリーグルさんは役割の変更だけど、アレシヲンは換えが効かないからね」

『それでも最近乗せてくれるから嬉しいんだけどねー』

「母さんが乗らないときは好きに乗ってもいいって言われるんだっけ?」

『そなのよ。なのにくれない、お母さんの牙城は高い」

「それは仕方ないと思うけどな。母さんまだまだ現役の総支配人だし。あ、麻夜ちゃんがやれば――」

『無理無理無理にございます。各国情勢、冒険者の雇用状態、その他諸々把握すんのよ? それも鑑定スキルなし、スマホなし。飛文鳥のやりとりだけでだよ? お母さんってどんだけお化けなのよーっ』


 なるほど、プライヴィア母さんは国を含めた組織の運営のプロフェッショナル。王の中の女王なんだろうな、きっと。尊敬してるけど見習うことは難しい。ぶっちゃけ、俺にも無理っぽいわ。



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