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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第4部 エンズガルドの向こう側。

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第157話 お疲れ様。

 うん。このスマホはそれなり以上の超最先端(ウルトラハイエンド)なものだからさ、カメラももちろんだけど、暗視カメラの機能はなくてもあそこまで明るければある程度見えるもんだってばさ。

 あまりの明るさに信じられなくて俺はつい、『どうなのこれ?』って感じにロザリエールさんを見たんだ。するとさ、彼女の表情は呆れてた。ドン引きまでいかなくとも、かなり呆れてた。多分俺も、同じだったと思うよ。


 だからプライヴィア母さんがドン引きしてるって麻夜ちゃんの言葉は、わかったような気がする。なんていうのかな? 漁というより、養殖場餌蒔いてに網持ってずぶずぶ入り込んですくい上げてる感じ?

 俺だってロザリエールさんだって、麻夜ちゃんが『カメラカメラ』って言わなきゃただ呆然としてただけかもしれないんだ。


『タツマくん』

「はい。母さん」

『此度の乱獲はもう、防げないだろうからね』


 プライヴィア母さんの声ももう勢いというか、怒ってる感じがないんだ。


「俺もそう思います」

『だから一度戻ってきなさい。いろいろと聞かなければならない者たちも、いるからね……』


 あ、口調が変わった。マジだこれ……。


「は、はい」

『タツマくんもロザリエールくんもお疲れ様。夜も遅い、気をつけて戻ってきなさい。いいかな?』

「うん、ありがとう。母さん」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 いやそれにしたってプライヴィア母さんが言ってたさっきのあれって、やっぱり拷問、いや尋問だよね?

 ロザリエールさんを振り向いたら、肩をすくませて『さもありなん』という表情。ダイオラーデン(あのとき)のことを思い出すと、納得せざるを得ない感じかな。

 あのときは麻夜ちゃんの救出がメインだったし、元王家(あいつら)の尋問はついでだったから。今回みたいに捕虜を連れて行くのはちょっとばかり難儀だなと思ったり思わなかったり。


『ということで待ってるねん』


 麻夜ちゃんがプライヴィア母さんと入れ替わって画面に映った。


「あいあい」

「これから戻りますね」

『気をつけてくださいね、ロザリエールさん』


 麻夜ちゃんってば相変わらず、俺とロザリエールさんへの当たりが違うんだなー。それだけ彼女は尊敬してるんだろうね、きっと。


「じゃ、戻ろう。セントレナ」

『くぅっ』


 これからウェアエルズ(あちら)に乗り込んだとして、食べ物として扱われていないオオマスはいくら冬場でも駄目になっちゃうんだろう。まぁ、ウェアエルズ側も稚魚までは捕らないだろうし、全滅させるつもりもないだろうから。

 これまでもこれからも行われてきたのが『乱獲』であって、『駆除』じゃなければなんだけどね……。


 湖はそれなりに広大だけど、セントレナならあっという間にエンズガルド側の拠点に戻ってこられる。こちら側ももう、明かりをつけていて俺の目にもちょっと眩しい。


「ご主人様、そのですね」

「うん?」

「暗視の魔法、解除をお願いしたいのですが」

「あー、そっか。これはやっぱり補助支援魔法(バフ)扱いなんだね」

「バフ、でございますか? 麻夜さんもおっしゃっていましたが……」

「あ、あのね。補助や支援を目的とした、効果時間が過ぎると自然に解除されるタイプの魔法の効果のことをね、俺と麻夜ちゃんはバフって言ってるんだ」

「なるほど。確かに間違いはございません。まだしばらく効果が続きますので、明かりの下では眩しいと思われますのでその」

「うん。わかってるよ。気遣いありがとうね」

「いえ、どういたしまして」

『くぅっ』

「ありがとうございます、セントレナさん」

『くぅ』


 セントレナも褒めてるんだろうね、きっとさ。

 えっと、バフもデバフも魔法の解除ならこっちかな?


「『ディスペル(解呪)』」


 まずはロザリエールさんから。次に俺。


「俺も『ディスペル』っと、あ、ほんとに眩しくなくなった」

「ありがとうございます」

「セントレナは大丈夫?」

『くぅ』

「そっか。よし、じゃお願いね」

『くぅっ』


 ゆっくり降りてくれるセントレナ。お、白いそっくりさんが見えてきた。アレシヲンの隣には麻夜ちゃんがいて、両手を振ってお出迎え。


 着地。セントレナはその場に伏せてくれて、俺が先に降りて、振り向いてロザリエールさんに手を差し伸べ――あれ? もういない。


「兄さん何してるのん?」

「いや、ロザリエールさんが降りるのを手伝おうかと思ってさ」

「セントレナたんは馬車じゃないんだから、それにほらもう、建物に入って言っちゃったよん」

「あらま」

「麻夜にこそっと、『お茶の用意をしてきます』だって」

「あー、これから打ち合わせかー」

「だと思うよん。じゃ、麻夜たちもいきまっしょん」

「あいあい。セントレナ、アレシヲン。あとでね」

『くぅっ』

『ぐぅっ』


 詰め所の入り口で麻夜ちゃんが立ち止まって俺が入るのを促してくれるんだ。


「ささ、兄さん。どうぞどうぞ」

「ん? ありが――うぎゃっ」


 久しぶりにくらった、プライヴィア母さんの『虎ハッグ』。死んじゃう死んじゃう、多分生き返るけど。俺は必死にタップをしてるけど、プライヴィア母さん早く気づいて。


「よくやってくれた。これで突破口も開けるという、……おや?」

「麻夜もさっき、危なかったんだよねー。危うく兄さんに蘇生してもらう羽目になりそうだったし……」

「プライヴィア様。タツマ様が気絶しそうになっていますが」

「あ、あぁすまないね」


 やっと力を緩めてくれた。けれどまだ、胸元でぎゅっと抱かれたまま離してくれない。足、浮いてるんだけど……。


 プライヴィア母さんって俺よりも二回りくらい大きな身体だけど、これまた温かくて、いい匂いがするんだ。筋肉質なのに、すっごくそのなんだ。俺の母さんだけはあってそのね、安心するんだよ。


 俺が母さんを見上げてると、口元から牙を覗かせて豪快に微笑みながら。


「とにかくだ。タツマくんと麻夜くん、ロザリエールくん、よくやってくれた」


 俺をそのまま小さな子供を抱えるみたいにして、椅子に座らせてくれるんだけど。麻夜ちゃんがクスクス笑ってるんだよな。


 俺の隣に麻夜ちゃん、斜め向かいにジャムさんが座ってる。その隣に母さん。俺の正面だね。

 ジャムさんはなにかほっとした表情になってるよ。一仕事終えたって感じ?


「タツマ様、お、お疲れ様でした。これで上の姉様からあれこれ言われずに済みます。ありがとうございました」


 大きく乗り出して、俺の両手を握ってるジャムさん。上のお姉さん、ジェフィリオーナさんにプレッシャーかけられてたんだろうな……。


 ロザリエールさんがお茶をそっと置いてくれる。いい匂い。


「ありがと」

「いえ」

「いただきまーす」

「はい」


 一礼して俺の後ろにそっと立ってるロザリエールさん。


「さて、いいかな?」

「は、はい」

「はい」

「はーい」


 俺と麻夜ちゃんはいつものことだから別にだけど、ジャムさんはまた緊張して大きな身体を小さくしちゃってるよ。こう並んでみると、ジャムさんのほうが大きいんだね。縦にも横にもさ。


「ジャムリーベルくん」

「は、はいっ」

「捕虜はギルドの地下牢に。鹵獲(ろかく)した船舶は、明日の朝から調査をしなさい」

「はいっ、かしこまりましたっ」


 うわぁ、ジャムさんってばその場に立ち上がって敬礼してるよ。ギルドって軍隊式の教育してるのかな? それともギルドじゃなくジャムさんのおうち?



お読みいただきありがとうございます。

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