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第15話 モグリの術師。

 俺が、ギルドでモグリの術師としての活動を始めてから、二月(ふたつき)と半分くらいが過ぎていた。辺りはもう、肌寒くなっていて、冬の気配も感じてる。


 ということはさ、俺がこっちへ来たときはもう、秋だったんだね。ここは比較的雪も少なく、うっすらと被るくらいしか降らないそうだ。ちなみに湖も凍るまではならないとのこと。


 セテアスさんところの宿代も、ギルドで持ってくれてる。宿代を払うことがなくなったから、手持ちのお金が減らなくなってきた。おまけに宿の食堂を使えば、食事もギルド持ちなんだよ。その上で、6日に銀貨5枚ほどもらってるんだ。悪くない待遇だと思うよ。使う暇がないから貯まる一方なんだけどね。


 回復属性のレベルも3A(58)まで上がってるけど近頃なかなか上がらない。悪素毒に対しては、32(50)を超えて使えるようになった『ディズ・リカバー(病治癒)』がもの凄く効果的だった。『リカバー(回復呪文)』で痛みを和らげて、『ディズ・リカバー』でほぼ終わるんだよ。その分、一日あたりさらに多くの人を治療できるようになったことで、正直助かってる。


 ギルドが『個人情報の秘匿』という名目で口止めしてくれてるから、俺がこうしてることは吹聴されることはないみたいだけど、それでも外を歩くと誰かしらに会釈されるんだ。俺はなるべくだったら、目立ちたくないんだけどな……。


 ジュリエーヌさんとは、一時期『これは?』という感じの、よさげな関係になりそうだった。これで俺もリア充に? と思ったんだけど、正直今はもう駄目っすわ。


 友達みたいにはなれたと思うけど、なんだろうね?  受付の手があいてるときは、俺の手伝いをしてもらってる。たとえて言うなら、上司と部下みたいな感じ? もう一人近しい女性がいただろう、って? はい、同じです。ほぼほぼ、お友達ですって。いやぁ惜しかった、実に惜しかった……。


 あのあと、メサージャさんのいる酒場にも行ったんだ。そこでたまたま、ジュリエーヌさんが来ちゃって、俺から悪素毒治療を受けたっていう共通点があるからか、二人はあっさりすっかり打ち解けて、あっという間に仲良くなってるんだよ。ほんと、わけわかんね……。


 ジュリエーヌさんとも、メサージャさんとも、たまに食事に行くくらいに、仲の良い間柄になった。その度に第一声、感謝されるのはどうにかしてほしい。それでも、月に一度くらいは、予防をかねて治療することにしてるんだ。この世から悪素毒が消えたわけじゃないから、根本的な解決に至ってないんだよ。


 ギルドにあるあの、防音効果抜群な小部屋の隣に治療室ってのがあって、そこが俺の仕事場になってる。怪我を負った冒険者の面倒も、俺が見てるってわけね。ほとんどが『リカバー(回復呪文)』で済んじゃうから、『串焼き5本分』だけもらってる。もちろん追加の場合は、その都度別にもらってるよ。


 ギルドのランクも最初はFだったけど、悪素毒治療の術師としての実績だけで、いつの間にかBまで上がってるんだ。ギルドからみたら、それだけ貢献してるってことらしい。空間魔法使った輸送の依頼も、余裕で受けられるようになったけど、絶対に受けないでと言われてるよ。いなくなったら困るということね。そりゃそうか。


 回復属性のレベルがあと2上がれば、現在使えないようにグレーアウトされていてる、ゲーマー時代にも経験のない『リザレクト(蘇生呪文)』が待ってる。


 MMO時代に、高レベルの回復魔法持ちのキャラでは、大規模戦闘(レイド)なんかで、ボスモンスターから理不尽な攻撃を受けて、仲間が死亡状態になった際に使うものなんだ。俺もレイドでは何度も受けたことはあるけど、実際は『蘇生』というより『復帰』か『復活』のイメージなんだよな。


 俺は回復魔法のレベルが『あれ』だったから、盾とハンマー持って前線へ突撃、怪我は自分で治して再突撃。攻撃の合間に、前線で補助的な回復をするようなスタイルで遊んでたんだよね。


 もし、使えるようになったとしても、口外できないよな。大騒ぎになるのは間違いないから。俺は別に、有名になりたいわけじゃない。日本にいたときよりもさ、ちょっとだけ幸せになりたい。リア充みたいに、なりたいだけなんだ、どうやったらなれるのかもわかんないから、……先は長いと思うけどね。


 昨日、ギルド支配人のリズレイリアさんから、何やら物々しくもやたらと古い本をもらった。なんでも、文字が古すぎてギルドでも解読してみたところ、魔法に造詣(ぞうけい)がないものには読める場所が少なくて、有効利用はできなかったらしい。ただ、間違いなく魔道書の類いとのこと。ギルドとしては売るつもりはないんだとさ。暇なときに、読むといいって押しつけられた。


 実際読んでみたんだよ。するとおかしいんだ。読めるんだよ。俺にはなんとなく思い当たる節がある。それはそもそも、『無理やり連れてこられたこの異世界で、言葉を理解している俺がおかしい』ってこと。普通に考えたら、異世界の言葉を話せる、読める、これだけでもありえない。


 多分、『個人情報表示』なんかの元になってる不思議システムみたいなのがあって、それが干渉して言葉や文字が理解できてるんじゃないか? この世界の言葉を理解する、なんらかのフィルターがかかってるんだろうと、俺は思ったわけだ。ただ、読めるからって、内容が理解できるわけじゃない。それでもこの本が、いわゆる魔道書だということだけは、わかってきたんだよ。


 毎日治療に訪れる人も、俺が受け持てる人数を増やしたからか、それなりに多くなってるんだ。暇なのはそれこそ、寝る前の僅かな時間と、七日に一度全休にしてるから、それくらいなんだろうな。合間にじっくり読んでみようと思ってる。実に興味深く、やばそうなものだろうってことだけは、予想できてるんだよ。



お読みいただきありがとうございます。

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