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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第3部 秘書ってそういう意味があったの?(仮)

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第149話 検証結果と準備と報告。

「ギルドで母さんが使ってるのを見たあの飛文鳥(ひふみちょう)あるじゃない?」


 俺は麻夜ちゃんへ思い出すように、あのどう動いているのが予想すらできない不思議通信用途の魔道具を聞いてみる。


「んむ」


 あ、覚えてくれてた。前に話したこともあるし、プライヴィア母さんからも聞いてるはずなんだよ。


「確かに便利な魔導具だと思うけど、あれはあれでコスパが悪いと思うんだ」

「こことワッターを飛べるっていってもさ、米粒サイズの魔石1つだっけ?」

「そっそ」

「頻繁には使えないのよねん。間違いなく」

「だねぇ」


 アレシヲンのブラッシングをしているディエミーレナさんと一緒に、俺はセントレナのブラッシング。手を動かしながらさっきの検証結果と今後の相談。

 麻夜ちゃんはディエミーレナさんの尻尾をモフってるけど、彼女は気にしてないみたい。淡々とアレシヲンのブラシをかけてる。彼女は侍女としてプロなんだなと思った。さすが俺よりちょっと年上なだけはあるね、うん。


「そしたらさ、兄さん」

「ん?」

「ジャムさんと簡単に連絡取れたらいいんでしょ?」

「うんそだね。ここだとジャムさんくらいかなー」


 ロザリエールさんと離れてるときは、麻夜ちゃんにお願いしたらいいし。プライヴィア母さんもそう。そう考えると消去法でジャムさんなんだ。連絡取りたいなと思う人ってね。


「兄さんあれ。知ってる? 昔の映画に出てた、船なんかで声だけ届けるただの鉄パイプみたいなやつ」


 昔の船? 鉄パイプ?


「……もしかして、『伝声管』のこと? 先がラッパみたいに少し広がってる」

「そそ。それそれ。伝声管って言うんだねー」

「知らなかったんかい?」

「なんて言うか知らなかっただけだいっ」

「そういや昔何かの番組でやっててね。あれってさ、ゴムホースと百均で売ってる塩ビの漏斗(じょうご)でもできるみたいなのよねんー」

「まじですか」

「まじです。で、問題はさ、ここからジャムさんのいるはずなギルドの支配人室までどれくらいの距離があるか」

「えっと確か、直線距離なら890メートル?」

「え?」

「ほら、麻夜って鑑定もってるのよん」

「あ、そうだった。もしかして」

「うん。なんとなーく、測ってみたことがあったのよねん」

「凄いな、麻夜ちゃん」

「えへへへ。もっと褒めてもいいのよん」


 麻夜ちゃん照れ照れ。あー、でもさ。


「あれって普通、金属パイプでしょ? こっちにゴムホースなんてないだろうし。それで内径だか外径だかが5センチとかだった?」

「だったはずー?」

「でもさ」

「んむ?」

「確か戦艦とか空母でも300メートルくらいじゃなかった?」

「はい? それしかないの? 船って?」

「そうだと思ったけど、それよりなにより誰が作るの? 3倍ちかくもある、890メートルのパイプを?」

「あぁ。なるほどぉ……、土属性の魔法とかでどどーんと、麻夜は使えないけど兄さんは?」

「知ってるでしょ? 空間属性と回復属性だけだってばさ」

「ですよねぇ……」


 俺と麻夜ちゃんはちらりとロザリエールさんを見るけど、笑顔で首を左右に振ってる。あれって『持ってません』の意思表示(サイン)だよね。

 逆を振り向いて、ディエミーレナさんを見ると、頭の上で両手を交差させてる。『ペケ』だね、あの仕草はさ。こっちでもやるんだ。へぇ。


「確かにさ、屋根伝いに配管できたらいけるかもだけど、誰かが作れたらなんだよね」

「土から鉄分取り出して、おりゃってできたらいいのに。麻夜、ナイスアイディーアだと思ったんだけどねー」

「おしかった、ねー」


 2、300メートルなら伝わるかもしれないけど、約900メートルはそれこそ、テストしないと無理だろうね。確かにいいアイデアだと思った。惜しいわ。


「タツマ様、あたくしはそろそろよろしいですか?」


 ロザリエールさんを見たらあれ? あー、そうか。もう晩ご飯時か。あたりも暗いもんね。


「あー、うん。いってらっしゃい、いつもありがとう」

「いえ。あたくしの仕事ですので。ではタツマ様、麻夜さん。失礼いたします」

「マヤ様。私も行ってきます」

「はいはいまたねー、みーちゃん」


 ロザリエールさんを追いかけるディエミーレナさん。気がついたらもう、アレシヲンとセントレナの晩ご飯も用意されてるし。


『ぐぅ』

『くぅ?』

「うん。食べてきていいよ。セントレナはまたあとでね」

『ぐぅっ』

『くぅっ』


 二人はそろって用意された晩ご飯へ。肉の焼けたいい匂いがするんだよ。


「あ」

「うん」

「はらへったね」

「そだね」


 ▼


 晩ご飯を食べ終わって、風呂に入ってあぁすっきり。そのままリビングを抜けたらもう、二つ目のリビングの床にセントレナがうつ伏せになって寝息を立ててる。こっちに来てからいつもことだからね。別に驚くようなことはないんだけどさ。

 ワッターヒルズの屋敷はここよりぜんぜん狭いから、敷地にある庭の端にセントレナの厩舎を作ってもらってるけど。それまでは我慢して元の厩舎で寝てたんだよね。

 でもセントレナは寒さに強いから、あっちに戻ったらきっと庭先に寝ちゃうかもしれないね。このままだとさ。


「ま、いっか。お休みセントレナ」


 俺は声をかけて部屋に入った。それでそのままベッドに潜り込む。

 ここはワッターヒルズよりも北に位置してるみたいで、かなーり寒いんだよ。だから風呂入って冷えないうちに、こうして布団に入っちゃうのが一番。

 うん。ぬくぬくだね。これなら冷えて風邪なんて、……いや俺、風邪引くのかわかんないけど。もしそうなったとして、その場で治しちゃうから気にならないんだけどさ。


 布団に入ってぬくぬくになって、天井を見ながら思い出したように『個人情報表示』画面を見る。これって暗闇でも見ることができるんだ。きっと目を閉じてても大丈夫だろうね。

 さておき。魔素のゲージが微妙に減ったり増えたりしてる。うん、だいたい10秒ごとだな。これずっと『あれ』が起動しっぱなしなんだろうね。うん、考えないことにしようそうしよう。


 1000メートル上空あたりでさ。麻夜ちゃんの鑑定スキルも、ロザリエールさんの眠りの魔法も問題なく発動するみたいだし。これで密漁のアナウンスがあったら同行してさ、怪しいのをとっ捕まえて吐かせることができるだろうね。

 たださ。ジャムさんの話から察するに、ウェアエルズ(あちら)側にも闇属性の魔法を使うやつがいるかもしれない。そんな懸念を持ってことにあたるのは必要だと思うんだよ。

 何せ、『何が起きて捕虜になってしまったかわからない』って、ジャムさんも悔しそうに言ってたからね。おそらくは次も、同じ手口を使ってくるはずなんだよ。

 こっち側にウェアエルズ側の内通者がいない限りね。それはないと思うんだよ。なにせ、こっちには、ものすごーくおっかないプライヴィア母さんがいるんだから。


 ま、いいや。とにかく明日からも、ワッターヒルズやスイグレーフェンで何か起きない限りこっちで治療は続けるし。麻夜ちゃんの聖属性の魔法レベルもちょっとずつ上がってるから、目指すレベルまで頑張って――。


「ふぁぁ……」


 寝る、……か。



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