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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第3部 秘書ってそういう意味があったの?(仮)

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第124話 忙しい一日 その3。『姉弟』

「あのさ、ロザリエールさん」

「はい、なんでしょう?」


 ロザリエールさんは、俺とマイラヴィルナ陛下にお茶を配膳してくれてる。いい香りだねー。ワッターヒルズで飲んでたお茶、持ってきてくれたんだろうか?


「夕方から俺あっちに行って、またすぐ帰ってくるんだけど」

「はい」

「ロザリエールさんはさ、こっちにいてマイラさんの相手をしててくれるかな?」

「……ご主人様にはあたくしがもう、必要なくなった、ということでしょうか?」


 は? え? ちょっと待って、マイラヴィルナさんまで俺をいぶかしげに見てる。いやいや違うから、そういうんじゃなくてさ。


「え、いやちょっと待って。そういうわけじゃなくて。ほ、ほら、今朝方さ、セントレナが俺の部屋にいたじゃない?」

「えぇ、確かに……」

「あの子ね、部屋の外で寝ようとしてたから入れたんだけどさ、聞いたら寒さをあまり感じないらしいんだよ」

「そう、なんですか?」

「だからね、セントレナが飛べる限界の高さまで行ってもらおうかと思ってるんだ」

「それはどういうことでしょう?」

「あのね、こっちの人はわかんないかもだけど、上空はね、高度が高ければ高いほどね、空気が薄くなって、温度も下がるんだ」

「……あ」


 先にマイラヴィルナ陛下のほうが気づいてくれたっぽい。


「もしや、ロザさん。寒くて凍えてしまうのでは?」


 ロザリエールさんに説明してくれてる。助かった。


「なるほど。あたくしがいると、……いえ、ご主人様でも一時的に命を落としてしまう可能性が高いのかもしれない。そういうことでしょうか?」

「ご名答。俺はほら、ほっといても大丈夫だから、どれだけ早くあっちに行けるかを試してみたいんだよね」

「……わかりました」


 ふぅ、やっとわかってくれたよ。


「あ、そうだ。麻夜ちゃんのことだけどさ」

「はい」

「危険な場所へ行かないように、見ててくれると助かるんだ。色々調べてもらうことになってるからさ」

「かしこまりました。2人で一緒に同行するようにいたしましょうか」

「えぇ。わたくしも久しぶりに外へ出たいと思っていましたから」

「え? 王族でも外に出ていいの?」


 俺はジェノルイーラさんを見たんだけど、彼女は頭を左右に振ってる。『とんでもないです』という表情だよ。


「町中ではありませんよ? 王城(ここ)の中庭にですね、川が流れているところがあるんです。散歩くらいは普通にできますよ」

「あぁ、城下町から見たら、裏側になるんだ」

「あたくしも行ったことがないので、楽しみです」


 ジェノルイーラさん、うんうんしてる。そういうことかー。それなら、サンプルなんかも取れそうだし、いいのかもだね。一応、麻夜ちゃんも王族扱いになるんだからさ。


「それじゃ、いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ」

「ジェノルイーラさん。タツマ様のこと、お願いしますね?」

「ジェノルイーラ、失礼のないように頼みましたよ?」

「は、はいっ、承りましたっ」


 ありゃー、ガチガチだよわ。再起動するまで2分かかるくらいに緊張しちゃってるんだよね。


 『個人情報表示謎システム』上の時間は9時を回ったあたり。馬車に乗り込んで、これからギルドへ顔を出す予定。ポケットからスマホを出して、と。


「『おはよう。水や土の採取は、王城の中庭でしなさいね。女王陛下とロザリエールさんが一緒に行ってくれるとのこと』、送信っ」

『ぺこん』

『まじですかっ! そりは楽しみデス。お兄様は治療開始?』

「『ぞわぞわするから『お兄様』はやめてちょうだい。これからギルド行って、神殿行って、昼から色々と準備の予定。夕方は、ご飯食べないでワッターヒルズに向かうつもり』、送信っ」

『ぺこん』

『りょ。気をつけて行ってくれたまい』

「『ありがと』、送信っ」


 バッテリー残量73%、一度インベントリに入れてすぐに出すと100%。そのままポケットにIN。いやこれ便利だわ。麻夜ちゃん、よく気がついたよね。


 馬車がいつの間にか走り出してた。もう、赤煉瓦っぽいモザイク柄が見えてきてる。裏口の扉が開いて馬車のまま入る。ジェノルイーラさんよりも早く馬車の扉を開けて降りる。


「早めに戻ってくるから、寒くないところで待っててもらえますか?」

「はい、タツマ様。いってらっしゃいませ」


 ホールまでの一本道な通路を抜けて、最後の扉を開くと大柄な虎人族男性の背中が見えた。


「あ、ジャムさん」


 隠れてない。まったく隠れることができてないってば。


「はいっ、あ、お姉様はいないんですね」

「だろうと思って、待ってもらってます」

「……助かりました。苦手、というわけではないんですが、小さいときからの名残で反射的に、ですね」

「うんうん。怒られたんでしょう?」

「そうなんですよ。あ、みんな、この話は秘密にするように」


 受付のお姉さんから男性職員さんまで、苦笑してるんだけど。


「それで、お願いしてた件はどうでした?」

「はい。症状の重い人はおおよそ、150人ほどです」


 現在9時ちょっと過ぎ。んー、前倒しでできないかな?


「そのうち、身動き取れない人は?」

「はい。10人ほどです」

「神殿のジェフィさんには午後からって話をしてたけど、前倒しでやっちゃうか。ちょっと早いけどね、神殿まで搬送できるかな?」

「はい。すぐに手配します」

「うん。お願いね。症状の重い人は今日中に全員治療しちゃうからさ」

「まじですか?」


 こっちでも案外通じるんだ。誰よ? これ伝えたのは。


「うん。まじもまじまじ。一日250人治療したことあるからいけると思う」

「え?」

「受付の2人が先にまいっちゃってね。それ以上は無理しないことにしたんだよね」

「ジェフィ姉さん、お大事に……」

「あははは」


 ホールでジャムさんと別れて、通路を戻ってジェノルイーラさんに報告。


「ごめん。すぐに神殿向かってもらえるかな?」

「はいっ」


 馬車の扉を自分で開けて、さっさと乗り込んで着席。


「では、まいります」

「うん。お願い」


 急ぐとはいえ、事故が起きない程度。ただ、王家の馬車ということもあって、優先的に進むことができているみたいだ。あっという間に神殿が見えてきた。ギルドと同じように裏へ回って馬車ごとこんにちは。


「悪い、すぐにジェフィさんと話がしたいから」

「かしこまりました」


 早足のジェノルイーラさん、彼女のあとを追って俺は小走り。俺のが身長あるはずなのに、足、長いな……。


「入りますよ」


 出た。長女ならではのごり押しタイム。


『ちょっと待ってくだ――』


 このお構いなし感。ある意味無敵。あ、お茶飲んでたんだ。ほんとジェフィさん、姉弟だね。ジャムさんそっくりなところがあるわ。


「――こほん。午後というお話でしたので、油断していたわたくしがいけないのですが……」

「悪かったわよ」


 この胸を張って謝るスタイル。何かで見たことあったな……。


「とにかく、ジェフィさん」

「はいっ、タツマ様」

「さっきギルドに寄ったんだけど、ジャムさん曰く。『重症の人が150人で、そのうち身動きがとれない人、10人いる』って報告受けちゃったんで、順次こっちへ連れてきてもらうことになったんですよ」

「そうだったのですね。わたくしなんて軽いほうだった。そういうことでしたか……」

「はいはい。落ち込むのは後ね。えっと、どこで治療したらいいかな?」

「こちらへ」


 ジェフィさん自ら先導してくれる。神殿長室を出て、ご本尊の間を左折。なるほどね、ここか。ギルドの治療室を4~5倍に大きくした感じ。ベッドも6つあっていかにもという部屋。


「こちらが回復室になっています」

「ここでいいんですね?」

「はい。わたくしもお手伝いいたします」



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