シーン10-6/名誉なき戦い
★セットアッププロセス/3ラウンド目
ラウンド処理が進み遂に3ラウンド目に突入する戦闘を、朦朧とする意識に鞭打って見守り続ける。
ディーチェは倒れ伏す俺を泣きそうな顔で見ながら、返事の代わりに練技を使って自身を強化した。最後まで手を抜かずに戦い抜くという意思表示だろう。
一方でダリルは俺が予想した通り、これ以上強くなる事はない様子だ。であれば、勝利を掴むための条件は残り2つ……いよいよ最終局面だ。
★先攻陣営のメインプロセス/3ラウンド目
「オリエ、お願い……!」
ディーチェの陣術が輝き、自陣に残された唯一のダメージソースであるオリエさんに強化効果を与える。
一応、彼女自身が接敵して物理攻撃を行なうという選択肢もあるが……敵の能力値を考えると、【革命力】を使い切ったディーチェでは流石に心許ない。
回避される可能性が高い攻撃でメインプロセスを無駄にするくらいならば、味方のアタッカーを強化して命中率を底上げした方が有利を取れる。
ディーチェは判断を間違わず、自身の役割である仲間の支援を完遂した。これで、クリアすべき条件はあと1つ……!
「……任されました。本を正せば身内の不祥事です。ならばせめて……決着は、私の手で」
決然と格闘術の構えを取るオリエさんへと、メインプロセスの権利が移る。力強く踏み込んだ彼女の拳が、唸りを上げて敵の顔面へと突き進む。
勝利に必要な最後の条件。それは、ダリルが反撃手段を使い切っている事だ。
俺の予想が正しければ、ダリルが使用してきたのは1戦闘にスキルLv回まで使用できる効果を持つ《反撃拳》のスキル。スキルLvの上限は3。ダリルが戦闘中に《反撃拳》使った回数は2回。もしまだ使用回数が残っていれば、オリエさんはカウンターダメージを受けて戦闘不能となり、ダリルは《HP吸収》で回復して持ちこたえるだろう。
しかし俺は、そうなる可能性は低いと踏んでいた。なぜなら。
「(……お前がオリエさんの攻撃で【HP】1まで追い詰められた時……反撃して回復しなかったもんなぁ……!)」
果たして、オリエさんが繰り出した一撃に対しダリルの頭上で回避判定のダイスが跳ねる。
オリエさんが敵の回避判定にマイナス修正を与える《フェイント》のスキルを取得している事は、1~2ラウンド目に行なわれた彼女の攻撃で確認済みだ。
ディーチェの支援を受け、オリエさん自身の鍛錬を乗せた拳が、ダリルの頬を強かに殴り抜く。
「よっしゃー! これはやったでしょ!」
余計なフラグを建てるなディーチェ!
彼女の発言が影響したのかは不明だが、殴り抜かれ大きく仰け反っていたダリルの口から嘲笑の言葉が飛び出してくる。
「オリエェ……身軽な斥候騎士としてお前を指導して正解だったなァ……! 一撃の軽さが、お前の弱点だと言った筈だァ!!!」
巨漢を支える筋肉をバネに、仰け反った体勢から上体を跳ね起こすダリル。絶望に打ちひしがれたオリエさんの様子を焼き付けようと大きく見開かれた両目に、最後に映し出されたのは――。
「……その通りです。そして、軽さを手数で補い戦えと教えてくれたのも……あなたでした、ダリル先輩」
「ァ――?」
拳を打ち込んだ姿勢から、身体を回転させるように放たれた蹴撃。
スキル《迅脚》による追加ダメージ付きの蹴り技が、勢いよく跳ね起きたダリルの胴体に深々とめり込んだ。
「ガ、ハァ……ッ!?」
その足先には、ダリルの軽鎧に据えられた青の騎士団の紋章。渾身の蹴りの直撃を受けた騎士のエンブレムは、倒れる魔族の身体の上で小さく音を立てて砕け散った。
【HP】計算
ダリル:【HP】11/80 → 【HP】0/80




