シーン10-1/名誉なき戦い
「さァ、オリエ……二度と立ち上がれないよう、直々に指導してやろう……!」
堕ちたダリルから放たれた魔力が騎士団の裏切り者達に伝播していく。その影響に晒された彼らは自身を蝕む魔力に目を濁らせ、武器を構えて俺達に相対した。
「ちょ、ちょっと!? 魔族は人類の敵なのに、どうして……!」
「落ち着くんだディーチェ。たぶんあれ、戦場に味方を呼び出すエネミー専用のスキル《戦力増員》の効果だと思う。
今回は、近くにいた裏切り者達を支配下に置いて戦わせる形でスキルの効果が演出されてるんだろう」
生前のTRPG知識に照らして状況を説明しながら、背中に冷や汗が伝う。
ゼノの運命を変えようとする以上、どこかのタイミングで魔族と戦闘になる可能性があると覚悟はしていたが……まさか、こんなに早い段階でその時が来るとは思っていなかった。
ブレイズ&マジックにおいて「魔族は強敵の代名詞」がユーザー間の共通認識だ。
敵はまだ魔族に堕ちた直後とはいえ、以前あれだけ苦戦させられたクマモノよりも更に強い威圧感を放っている。
加えて、《戦力増員》により手駒も確保されている。そちらは雇った冒険者達に任せるとして、俺達で魔族ダリルを止められるかが問題だ。
「ククク……始めるとしよう。この力で、ご自慢の騎士道に絶望をくれてやる」
「ダリル先輩……!」
「っ……来るぞ!」
★戦闘開始
★【先制力】判定
ディーチェ → 達成値:16
魔族ダリル → 達成値:15
オリエ → 達成値:11
ゼノ → 達成値:10
先攻陣営:ゼノ&ディーチェ&オリエ
後攻陣営:魔族ダリル
3点もの【革命力】を注ぎ込んで判定のダイスロールを増加させたディーチェが、辛うじて先攻陣営の奪取に成功する。強敵を相手に後手に回る事態を避けられたのは大きい。
問題は、そこまでしなければ先攻を奪えない相手の能力値の高さだが……戦闘儀式が始まった以上は、どうにか勝ちを拾うしかない。
ディーチェは自陣エリアに、俺とオリエさんは前線エリアに陣取って魔族ダリルと相対し、戦闘が始まった。
★戦闘配置(ゼノ視点)
敵陣エリア
配置なし
前線エリア
ダリル
ゼノ、オリエ
自陣エリア
ディーチェ
★セットアッププロセス/1ラウンド目
「飛ばしていくわよ! はぁぁぁッ!」
いつも通り《フィジカルエンハンス》で身体強化を施すディーチェ。
一方、該当タイミングのスキルを持たず戦況を見守る俺とオリエさんの眼前では、ダリルが不敵な笑みを浮かべる。
「あァ、力が漲るゥ……まずは小手調べだ!」
直後、ダリルから無軌道に噴き上がっていた魔力が収束し、その全身を鎧のように薄く覆う。
「くっ、魔族化の演出だろうけど、どのスキルが使われたのかわかりづらい……!」
恐らくは身体強化。攻撃力や防御力を底上げするスキルだろう。可能性として高いのは、魔族化する前のダリルのサブクラス「格闘家」に属するスキル《金剛の構え》――物理攻撃力と物理防御力を同時に上昇させる効果のものか。
本来であれば攻防一体の構えで戦闘に備えるスキルだが、魔族となった事でスキル演出が変更されているのだと思われる。
生前のセッションであれば専用演出として盛り上がれたのだろうが、生身で魔族に相対する状況下で相手のデータを見通せないというのは中々に厳しい。
苦戦の気配に表情を引きつらせる俺に関わらず、ラウンド処理は進んでいく……。
★先攻陣営のメインプロセス/1ラウンド目




