シーン5-2/名誉ある手伝い
「ところで、青の騎士団はあの怪しい薬を追ってるのよね。あれってなんなの?」
詰所での事情聴取を終えて身の潔白を認められた俺とディーチェは、青の騎士団の捜査に外部協力者として合流する事となった。
では早速、情報共有を……というところでディーチェが切り出したのが、そもそも騎士団が追っている薬はどういうものなのか、という疑問だった。
その言葉に1つ頷くと、オリエさんは説明のために口を開いた。ちなみにダリルさんは、説明は苦手だと豪快に言い放ち、一足先に捜査に移っている。
「我々の目的は、公的な基準を満たしていない危険な薬物――違法ポーションの流通ルートを解明し、これを根絶する事です」
「違法ポーション……それがあの薬の正体か」
ポーションと言えば、ファンタジージャンルのゲームなどで広く採用される回復薬の呼称だ。
俺達が転生したTRPG世界アーレアルスでも体力回復や怪我の治癒、精神力の回復などに使用されている。俺も生前のセッションや転生後の冒険などで、数え切れないほどポーションの世話になってきた。
ドルフ村での一件では、クマモノとの戦闘前にポーションを使い忘れたディーチェがMP切れを起こしてたっけなぁ……あれは本当に驚いた。
思わず遠い目になる俺の横で、ディーチェが次の質問に移る。
「違法ポーションは、具体的にどう危険なの? 品質が悪くて効果が低いだけなら、危険って表現にはならないわよね」
「はい。そもそも違法ポーションとは、魔力を込めて粗雑に精製された薬品です。
品質の低さも当然ありますが、最大の問題は――服用を続けると、魔族へと堕ちる可能性があるのです」
「魔族だと!?」
「うわ。どうしたのよゼノ、いきなり大声出して」
「どうもこうもあるか! ディーチェ、ちょっとこっち来い」
わけがわからない、といった様子のディーチェを詰所の隅に引っ張り、早口で説明を行なう。
ブレイズ&マジックには「魔力」という概念が存在し、スキルの発動にはMPとして表される魔力の消費が必要となってくる。
これだけ聞くと「魔力=便利な魔法の力」と思えるが、実際のところ、魔力はただ便利なシステム上の数値というだけではない。魔力とは、扱い方を間違えると大きなリスクとなって跳ね返ってくる力だ。
例えば動物や無機物が魔力の影響を受けて変質、凶暴化する場合がある。それらは「魔物」と呼ばれ、アーレアルスにおける脅威となるのだ。
ドルフ村の一件で俺達が戦ったクマモノ。あれも魔物の一種であり、野生のクマが魔力で凶暴化したものに他ならない。
「ここまでは大丈夫か? じゃあ、次からが本題だ」
動物や無機物が魔物へと変質してしまうように、様々な種族の人間や精霊も、魔力に侵され変質する事がある。人間と同等以上の知性を持つ存在が魔力で変質した状態は「魔族」と呼ばれ、これは人類共通の大きな脅威と認識されている。
魔物が凶暴性を増すように、魔族となった者も攻撃的な性質が増す。単純な暴力、他者や領土の支配、謀略による世界の混乱など、その攻撃性の満たし方は様々だ。
「魔族って怖いのねぇ。だからさっき、大声で反応したの?」
「それもあるけど、俺にとって魔族化の問題は他人事じゃ済まされない。思い出してみろよ、ゼノ・オルフェンロードが破滅する理由を」
「確か……「魔剣聖」って存在になって、「ゼノの厄災」とかいう事件で討伐されるのよね。あ、もしかして」
「ああ。ブレイズ&マジックのルールブックには、こう書いてあったと思う。
『剣聖ゼノは魔族へと堕ち、魔剣聖と呼ばれる人類最悪の敵となった』――って」




