シーン4-3/事なかれ
「そういうわけで、青の騎士団の詰所までご同行を願えないだろうか! 捜査を妨害した者をそのまま見逃すわけにはいかないのでな!」
これは俗に言う「署までご同行」というやつでは……というか、大声のせいで周囲に事情が筒抜けなんだが。
どうしたものかと頭を回転させる俺の隣で、ディーチェが騎士達に反論する。
「ちょっと待ってよ! そんな急に詰所まで来いって言われても困るっていうか……私達、これから冒険者登録を済ませるところだったんだけど」
「あの、その件なのですが……」
意外にも、ディーチェの言葉に応じたのは俺達を担当している受付嬢さんだった。申し訳無さそうな表情を浮かべているのは気のせいだと思いたいが、既に嫌な予感が止まらない。
「青の騎士団と揉め事を起こすような方々を、冒険者として迎え入れる事は難しいと言いましょうか」
「えぇー!? いやいや、別に悪事を働いたわけでもないし、知らずにやっちゃっただけなのよ!?」
「冒険者ギルドは青の騎士団と協力関係を結んで、お互いの仕事を尊重して活動しております。揉め事の火種になりかねない方々は、ちょっと」
「つまり……俺達は冒険者登録を認めてもらえない、って事ですか」
「はい、そうなりますね」
「割増料金とかで、ちょっと無理してお願いできたりは……」
恐らくだが、この受付嬢さんはデータを持たないエキストラだ。つまり多少の無理であれば押し通せる。そう踏んで交渉を持ちかける。登録さえしてしまえば、こちらの目的は果たされるのだ。しかし。
「申し訳ありません。前例がない以上、そういった特別の配慮は不可能です」
「なっ……」
判定すらなく登録を拒否されるとは予想しておらず、驚きの声が漏れ出る。しかし同時に、このTRPG世界におけるエキストラの行動指針も見えた気がした。
断定はできないが、各エキストラにはある程度の行動規範が存在し、それを大きく逸脱するような行動を取らせるのは難しいのだろう。
思えば生前でのセッションでも、NPCにはNPCの行動方針が定められていた。それを無視して一方的に要求を通す事ができないのは、先程のやり取りからも明白だ。
しかし、そうなってくると……。
「そ、そこをなんとか! 何かこう、抜け道とか方法はないのかしら!」
「そこになければないですね」
「そんなー!?」
涙目で必死に食い下がるディーチェだが、悲しい事に現実は変わらない。意気消沈する俺達に気の毒そうな顔を向けつつ、オリエさんが話しかけてくる。
「それでは、詰所までご同行いただけますね」
「う……わかりました……」
「うむ! 間違っても、変に抵抗して暴れないでくれたまえよ!」
大声で縁起でもない事を口にしつつ、ダリルさんは威圧感マシマシで俺達を入り口に促す。
その無駄な迫力と、現実の非情さに打ちのめされ、俺とディーチェは青の騎士団の詰所まで連行されていくのだった。




