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シーン4-1/そして冒険へ

「ごめーーーーん!!!」


 顔の前で両手を合わせ、拝むような体勢で詫びてくるディーチェ。仮にも女神様がそれでいいのかとも思ったが、今はそれより重要な事がある。


「ごめんじゃないが!? なんで俺がゼノになってるんだよ!」


 状況に理解が全く追いつかない。説明を求める魂の叫びに、ディーチェは恐る恐るといった様子で俺を見上げ、ぽつりぽつりと語り始めた。



 せっかくの転生なので、TRPGらしく2個の6面ダイス――TRPGでは"2D6"と呼ぶ――の出目で成功の度合いを決定しようと思った。いっちょ豪運を見せてやろう。

 そもそもダイスの女神である自分がダイスを振って結果を導くのは極めて自然な事であり、2D6の出目合計の期待値である7以上を振る確率は58%以上もあった。

 仮にちょっぴり出目が腐ったとして、ダイス目の合計で5以上が出る確率は概算で83%もある。片や1ゾロでファンブルする確率は、たったの3%にも満たない。これは勝ったも同然だ。

 女神による華麗かつ完璧な転生を味わった遊真は、さぞ自分に感謝し、TRPG世界で素敵な冒険(セッション)を謳歌する事になるだろう。

 よーし、行っくわよー! 運命のダイスロール!!! ……あっ。



「……で、2D6で確率3%もないファンブルを叩き出した感想は?」

「やっぱTRPGはダイス振ってなんぼよね!」

「…………」

「あああ待って待って無言で刀に手をかけないで怖い怖いごめんってばー!!!」


 もちろん本気で暴力を振るうつもりはないが、これくらいのお仕置きは許されると思う。


「冗談はともかく。俺がゼノに転生したのは、ディーチェがファンブルを振ったからなんだな?」

「そういう事。ま、出目ばっかりは仕方ないってものよねアウチ!?」


 前言撤回。まるで反省が見えない女神には粛清(デコピン)が必要だ。

 涙目で額を(さす)るディーチェに冷ややかな視線を向けつつ、次の質問に移る。


「俺がゼノに転生した理由はわかった。納得はともかく理解はした。だけど、ゼノは公式設定で死んでたはずだ。どうして俺はゼノとして生きてるんだよ?」

「そこは生前の遊真に合わせて、19歳の状態で転生した方が色々と無理なく馴染めるかなって思ったの! どうよこの行き届いた配慮は!」


 ドヤ顔で手柄を主張するディーチェを黙殺し、説明された内容を振り返る。つまり俺は、大失敗(ファンブル)した転生の影響で19歳時点のゼノの肉体に乗り移ったらしい。

 ゼノが悪役として死亡する正確な時期はルールブックの記述でもボカされていたが、キャラクター紹介イラストの雰囲気を思い返す限りは、現在のゼノよりも歳を取っていた気がする。

 ルルブの記述によれば、ゼノの種族設定は竜の身体特徴(俺の場合は縦長の瞳孔がそれに当たるのだろう)を持つ竜人族(りゅうじんぞく)。ブレイズ&マジックにおける竜人族の平均寿命は公式設定でおよそ100年。つまり、この肉体が歳を経て魔剣聖として討伐されるまで、まだ多少の猶予があるのではないか?


「えーと……ゼノ? どしたの急に黙り込んで。大丈夫? ダイス振る?」


 女神の権能とやらだろう。どこからともなく2D6を召喚して、俺に差し出してくるディーチェ。振る前から1ゾロの状態なのは嫌がらせかと思ったが、話が進まないのでツッコミは我慢しておく。


「いや、ダイスはいいから……ゼノの現状について考えてたんだ。ディーチェの説明とルルブの記述を照らし合わせて、それなりにわかったと思う」

「おお、流石はルルブとダイスを持ち歩くヘビーユーザーだけあるわ。で、一体何がわかったの?」


 現状についてディーチェに説明していく。頭で考えた内容を改めて口に出す事で、情報が整理され、これから俺が何をすればいいのかも見えてきた気がする。


「――と、大体そんな感じだ」

「ふむふむ。つまり、公式設定で死ぬキャラだからって今すぐどうにかなるわけじゃないのね。良かったぁー!」

「ほんとだよ……さて、これからどう行動するかだけど……取り敢えずディーチェに確認がある」

「どしたの、改まって。私とゼノの仲じゃない! 常識と良識の範囲内ならなんでも訊いていいわよ!」


 ディーチェと俺の仲はファンブルの加害者と被害者だが、毎度ツッコミを入れても埒が明かないので、さっさと本題に入ろうと決めた。


「じゃあ訊くけど……ディーチェお前、なんで転生に付いてきた?」

「……あー、そういう……えっと、うん。それなー」


 いきなり歯切れが悪くなり、自身の人差し指をツンツン合わせて視線を彷徨(さまよ)わせるディーチェ。別に変な事は訊いていないつもりだが……。


「えー……そう! ダイスが導いた運命の行く末を見守り、見極め、見届けるためじゃないかしら!」

「…………」

「どうよこの完璧な慈愛の女神様ムーブ! 心から敬いなさい!」


 ああ、こいつ嘘はド下手なんだな。勢いで誤魔化そうとして、自分で自分の言葉を制御できてない。ついでに言うなら、俺は転生でファンブルした女神に捧げる崇拝は持ち合わせていない。

 ともあれ、明らかに本心ではなさそうなディーチェにどう言葉を返したものか少し迷ったが……。


「……そっか。じゃあ、一緒に行動する前提で考えるぞ?」


 誰かを意図的に陥れる人物ではないと判断し、彼女の嘘は見て見ぬ振りをする事にした。ここで俺に不利益をもたらす目的で嘘を吐くくらいなら、わざわざ転生させず見殺しにすれば済む話だったのだから。


「ええ、私はあなたに付いていくわ。最初の仲間、お助けキャラってやつね」


 俺の内心を知る(よし)もなく、ディーチェは頷き、どこか楽しげに周囲を見渡している。

 それに釣られて、俺も景色を眺める。現在地は小高い山の中腹に敷かれた山道だ。周囲は木々に囲まれ、鳥や虫の声も響いているが、枝葉の切れ間からそれなりの距離を見通せる。

 遠く空を飛ぶ動物に目を凝らすと、それは鳥ではなく、トカゲにコウモリの羽根が生えたような見た目をしていた。竜に連なる野生のモンスターだろうか?


「……凄いな……じゃなかった。一緒に行動するとして、取り敢えず俺の大目標から話しておくぞ」

「うん、お願い」


 視線を遠く広がる異世界の大地に向けながら、俺は果たすべき目標を口にする。


「未来の悪役ゼノに待っている破滅を回避するため、生前のゲーム知識を活かして、このTRPG世界アーレアルスを生き抜いていく」

「ええ、了解よ! 一体どんな冒険(セッション)が待っているのかしら! よろしくね、ゼノ!」

「取り敢えずよろしく、ディーチェ。ちゃんとファンブル転生の責任取ってくれよ」


 破滅の未来への不安と、冒険を前にした期待。それはまるで、TRPGのセッション開始を待っている時の不思議な高揚感のようで。

 こうして、俺達の大冒険は始まったんだ。


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