シーン4-2/事なかれ
「青の騎士団……」
沈黙の中、冒険者ギルドに併設された酒場から誰かの呟きが響く。
現れた大男はそちらに視線を向ける事なく、真っ直ぐ受付のカウンターに近付くと再び大声で話し始めた。
「私は青の騎士団に所属する騎士、ダリル・ギャレットである! 人を捜している、冒険者ギルドにも協力を願いたい!」
「人捜しの依頼、という事でしょうか。青の騎士団からの正式な依頼であれば、口頭ではなく書面で話を通していただいた方が――」
間近だと結構な迫力だが、話しかけられた受付嬢は怯まずに笑顔で応対している。凄いなプロ根性……。
「ああいや! 依頼をしたいわけではなく、捜している人物が冒険者ギルドに立ち寄っていないか聞き込みをしたい!」
「……あの、ダリル先輩」
「先程、裏通りで怪しい人物を捕まえ青の騎士団に引き渡した2人組を捜している最中なのだ! 竜人族の黒髪の青年と、白髪赤目の少女だったと聞いている!」
「ダリル先輩、すぐ隣の方々です……」
「冒険者ギルドに向かっていたらしいと巡回騎士から聞きつけ、こうして情報提供を――む、どうしたのだオリエ!」
「ですから、彼らがその捜し人です」
大男ダリルを小突き、オリエと呼ばれた竜人族の女性は俺達に注意を向けさせる。ダリルは俺とディーチェの顔を順番に見下ろし、僅かな間の後「おお、なるほど!」と手を打った。
「そうか彼らがその2人組か! 私は青の騎士団に所属する騎士、ダリル――」
「ダリル先輩、さっきの名乗りで十分に聞こえていたかと思います。
申し遅れましたが、私は青の騎士団のオリエ・シュトルツという者です。お見知り置きを」
「これはご丁寧に。私はディーチェよ!」
「あ、はい……俺はゼノです」
なんだこの人達……どうやら俺達を捜していた様子だが、勢いが強すぎて話の理解がまるで追いつかない。
「うむ! 確認だが、裏通りでオリエを青の騎士団に引き渡したのは、君達で間違いないかね!?」
「ええ、まあ……そうですけど」
「ふむ、そうかそうか! いや、実は……君達の行動によって、青の騎士団の捜査が大きく妨害されてしまってな!」
「「えっ」」
青の騎士団の捜査が妨害された。捕まえた怪しい薬の買い手が、騎士として眼前に現れた事から考えると――。
「まさか、さっきオリエさんが取引してたのって……実は囮捜査、だったり……」
恐る恐る顔色を窺う俺に、オリエさんは沈痛な表情で頷いて見せる。
「……その通りです。私が囮として売人に接触して捜査を進めようとしていたところに、あなた方が乱入してきた、というわけでして」
「ま、マジかよ……」
事前に名前を上げて冒険者生活を有利にスタートさせるつもりが、まさか騎士団の捜査妨害に繋がってしまうとは……。




