シーン3-1/怪しい薬
露天商と出会った広場を抜けて、引き続き冒険者ギルドへの道を辿っていく。後はこのまま真っ直ぐ進むだけ、と思っていたのだが……。
「ねえゼノ。気のせいかしら。どんどん人が少ない裏通りみたいな雰囲気になってるんだけど」
「奇遇だな、俺も同じ事を考えてた」
「…………」
「…………」
数秒の沈黙の後、顔を見合わせ現状を確認する。
「道を間違えたな、これ」
「そうね。大人しく広場まで引き返して――あら? ゼノ、ちょっとこっち」
裏通りに視線を巡らせたディーチェは何かに気付いたように声を上げ、俺を近くの曲がり角に引っ張り込んだ。
何事かと彼女と同じ方向を見やると、周囲を警戒するように見回しながら小走りで路地裏に入っていく人影が見えた。頭から全身を覆うフード付きマントを纏うその姿は、一言で表すと「不審者」といった印象を与えてくる。
そうして身を隠す俺達の頭上で、【感覚】判定のダイスロールが発生した。相手の警戒に引っかかるかどうか、という意味合いのものだろう。
【感覚】判定/難易度:8
ゼノ:【感覚】+2D6 → 2+7[出目3、4] → 達成値:9 → 成功
ディーチェ:【感覚】+2D6 → 4+8[出目2、6] → 達成値:12 → 成功
難易度の低さも手伝い、俺達は共に判定をクリアした。これなら気付かれる心配はほとんどない筈だ。
事実、フードの人物は曲がり角から様子を窺うこちらに気付かず、そのまま路地裏の奥に姿を消した。
「怪しいわね。事件が呼んでる気配がするわ」
「明らかに秘密がありますって感じだったが……事件が呼んでる気配ってお前、何か企んでるな?」
「ご明察。尾行して、悪い奴だったら私達で捕まえましょう!」
「えぇ……自分から厄介事に首を突っ込むつもりか……?」
渋い表情を浮かべる俺に、ディーチェは人差し指をピッと立てて振ってくる。
「チッチッチ、わかってないわね。青の王都での私達の目的は?」
「冒険者登録だろ。だから余計な揉め事に関わらず、さっさと――」
「そう、冒険者登録! そしてその後は、冒険者として生きていかなければならないわけよ」
「食い気味に発言を被せるな。つまり?」
「冒険者としての活動を見据えた時、前評判がいい方が有利だと思ったのよ。
ここで悪い奴を捕まえて名前を上げれば、駆け出し冒険者として一目置いて貰えるかもしれないなって!」
正直、迷うところではあった。彼女の言葉にも一理ある。TRPGのお約束展開に、「冒険者登録に必要な実力を示すよう求められる」というものがある。
この課題をクリアするために冒険者ギルドから簡単な依頼を受け、それを解決する中で事件に関わっていく、というのは王道として語られる物語の構造だ。
つまり、俺達も冒険者登録の際にそういった課題を提示される可能性があるという事に他ならず。
先に手柄を立てておいて課題をスキップするという選択肢は、意外と悪くないかもしれない。
「なるほどな……わかった。気になるのは事実だし、様子を見て悪そうな奴だったら捕まえる方向で動いてみよう。
さっきの【感覚】判定の難易度から考えても、相手はそんなに強くない筈だしな」
「そうこなくっちゃね。それじゃ早速、後を追いましょ」
満足そうに頷き、路地裏に入っていくディーチェ。俺もそれに続き、事件の気配が漂う暗がりへと足を踏み入れていく――。




