シーン2-1/授業料
冒険者ギルドへの道を辿りつつ、王都の風景に視線を巡らせる。
木陰のベンチで読書する人族の老人、道端に立ってお喋りに興じる森人族の若者、客の呼び込みに精を出す妖精族の男性、手提げ袋に買い出しの品を詰めて歩いていく鬼人族の女性。
老若男女だけではない、実に多種多様な種族が入り混じって日常を過ごしている。
ちなみに、人族は文字通り地球の人間に近い外見の種族。森人族はファンタジーで言うところのエルフ的な外見の種族。妖精族は人間の背中に半透明の羽根を生やした見た目をしており、鬼人族は人間の頭部に角が生えた見た目となっている。
「ドルフ村でも薄々思ってはいたけど……本当にアーレアルスに転生したんだなぁ」
「あら、まだ夢だと思ってたの? 私の神様パワーで転生したのは、紛れもない現実なんだから!」
「その結果がファンブル転生なんだけどな」
「う、ごめんて……」
益体もない話をしながら、王都の喧騒を通り抜ける俺達。大通り沿いに歩いて広場に辿り着くと、見事な彫刻が施された石像のオブジェに出迎えられる。
「大きいわねぇ。馬に乗った騎士の彫像かしら」
「だな。過去の英雄でも模してるのか、ただの偶像かは、流石にルールブックの知識じゃわからないけど」
「まあ、ルールブックだからって世界の全てが説明されてるわけじゃないものねぇ」
その時、彫像を見上げて転生者ならではの会話を繰り広げる俺達に、背後から声がかけられた。
「その彫像は、建国の王ファウデン・ティアストール様を讃えるものさ」
振り返ると、獣人族の若い男が近付いて来るところだった。馴れ馴れしい笑みと共に男は言葉を続ける。
「あんた達、王都は初めてかい? よかったら俺があちこち案内するよ。王都は広いからね、迷子になったら大変だ」
「あら、親切な住人さんね。どうするゼノ?」
いきなり現れて道案内を買って出た人物に、僅かばかりの警戒感を覚える。しかし本当にただの親切だった場合、断って気分を害させるのも失礼だろう。
どうしたものか……。
悩む俺の耳に、また別方向からの声が飛び込んでくる。
「気を付けなよ旅人さん。そういう手合いは、用のない場所まで連れ回した挙げ句、後から駄賃をふっかけてくるぜ」
声の主は、道端に敷いたむしろの上に商品を並べた人族の露天商だった。驚く俺達を順番に眺め、露天商は最後に獣人族の男に視線を止める。
「というかお前、この間も同じ手口で旅人をカモってただろ? 調子に乗って、青の騎士団に怒られても知らんぞ」
「ギクッ!」
「……ま、そういうわけだ旅人さん。取引するなら、対価の確認はしっかりした方がいいぜ」
今「ギクッ!」って言ったよこの人。わかりやすいなぁ……とはいえ、そういう事なら話は簡単だ。
「残念だけど、そういう人に案内は頼めないかな。悪いけど他を当たってくれ」
「わかったよ……ちぇっ、今日の飯代が浮くと思ったんだがなぁ」




